教師間ネットワーク形成をにらんだ「日本語教師のつどい」を開催~ミャンマー~

田邉知成(国際交流基金ミャンマー派遣日本語上級専門家)
柳坪幸佳(元 国際交流基金北京日本文化センター派遣日本語専門家)



 長く政治的に閉ざされた国であったミャンマーが民政移管されたのは2011年の3月。以来経済開放政策に転じたこの国に、今、世界中の目が向けられていること、日本からも多くの企業がこの国への進出を始めていることはニュース等でお聞きになっている方も多いかと思います。現在では日本語のできる人材の需要も増え、町なかにも日本語を教える私塾の看板が多く見られるようになってきました。2012年まで年2000名~2500名で推移してきた日本語能力試験の受験者数も2014年は5000名を超えるのではないかと言われています。
 この国の日本語教育は、長くヤンゴン、マンダレーの二大都市にある外国語大学を中心におこなわれてきました。先述の通り現在では民間日本語教育機関も増えつつありますが、軍政期間が長く続き、近年まで集会の自由も制限されていたミャンマーでは、日本語教師会などの教師間ネットワークがいまだ存在しません。また、同様の理由で国家公務員である国立大学教員と民間の日本語教育機関との表立った交流も難しい状態が続いていました。日本語教師を対象にしたセミナーは2007年から国際交流基金バンコク日本文化センターの日本語専門家による出張指導で年1,2回のペースでおこなわれてきましたが、これまでは公務員である外国語大学教員と民間の日本語教師とは別々にセミナーをおこなってきたのが実情です。近年は政治的な規制も緩まってきて、民間との合同セミナーであっても学長が認めれば参加してよいという空気が醸成されてきていました。

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ミャンマー人教師による発表の様子

 このような状況の中で、10月にミャンマー初の官民合同となる大規模な日本語教師セミナー、「ミャンマー日本語教師のつどい」が開かれることになりました。それに合わせ国際交流基金よりキャパシティビルディング支援派遣で柳坪が派遣され、10月6日にヤンゴンで、10月8日に北部の大都市マンダレーで「日本語教師のつどい」が開催されました。対象はそれぞれの地域で日本語を教える日本語教師で、ミャンマー人も日本人も含みます。最終的な参加者は、ヤンゴンが56名、マンダレーが26名の計82名となりました。日本語教育の中核機関であるヤンゴン外国語大学、マンダレー外国語大学両校に加えて、民間日本語学校からも多くの参加がありました。
 先に挙げたような時代的な流れを受けて行われた今回のセミナーでは、この国の社会の変化を反映し、いくつかの新たな試みを取り入れました。その試みとは、①受身の学習ではなく、現地の先生方からの発信を組み入れること、②ワークショップ型の研修を通じ、参加者の内省や意見交換を促すと同時に、所属や年齢や立場を超えてともに地域の日本語教育を考えること、でした。

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グループで作成した教案の説明をしています

 セミナーでまず最初に行ったのは、「自身の問題を自分たちで考える」ということです。「ミャンマーの日本語教育をよくしていくためには何が必要か」をグループで取り上げ、解決するためにはどうすればいいか、将来的にできることは何かを一緒に考えました。
 以下、参加者の意見を一部ご紹介します。

・(ミャンマーでは)なかなか教材が手に入らない
・日本のラジオを聞く方法を教えてほしい(ミャンマーではインターネットの接続が不安定なため、動画や音声の試聴には困難が伴います)。
・学生と日本人のNetworkingをしたほうがいい。
・日本についての文化とか日本のことを教えたい。

 グループで話し合ううちに先生方の表情に笑顔が浮かび、リラックスした雰囲気が生まれてきました。その後、講義や教案作成、さらにはポスター発表形式で教案を共有しましたが、若い先生が一生懸命日本語でプレゼンテーションをおこない、ベテランの先生方がそれにアドバイスをするという光景を見ることができました。

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グループでの話し合い

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自分たちの課題とその解決策を付箋に書き出しています

 また、各セッションでは、5名のミャンマー人の先生方が、自身の実践や現在の取り組みについて日本語で発表しました。テーマは、「日本語の「は」と「が」の習得を考える」「初級の文字導入」「話す力を育てるためのコミュニケーション重視の活動」「自身の学校での実践報告」、「日本語ビジネス文書の書き方の副教材開発」と、多岐に渡るものでした。刺激を受けた参加者も多いのではないかと思います。

 今回のセミナーは日本側(国際交流基金・在ミャンマー日本大使館)のお膳立てでおこなわれた側面が強いですが、いずれは地域のネットワーク自身でこのようなイベントを企画し、国際交流基金および派遣専門家がそのサポートに入るというかたちで継続していけることが理想です。残念ながらさまざまな機関を束ねるような教師組織がこの地域で生まれる可能性は現状ではまだ難しいのですが、このようなイベントやセミナーを重ねることで教師間の距離がもっと縮まっていくことができれば今後の展望も明るいと思います。








田邉知成(たなべ・ともなり)

国際交流基金ミャンマー派遣日本語上級専門家。専門分野は日本語学(統語論・意味論)。中国やインドへの派遣経験を活かし、現在はヤンゴン外国語大学日本語学科にてミャンマーにおける日本語教育の支援を実施中。




柳坪幸佳(やながつぼ・さちか)

元 国際交流基金北京日本文化センター派遣日本語専門家。日本語教育専門家として、ドイツやハンガリー、中国にて教材作成や教師研修に携わるなど、幅広い経験を持つ。





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