日本語で、ともに生きる <1>
主演・フォンチーさん、番組制作陣 インタビュー
『ひきだすにほんご』がひきだす、コミュニケーションのかたち(前編)

2022.7.25
【特集077】

特集「日本語で、ともに生きる」(特集概要はこちら
国際交流基金(JF)と株式会社NHKエデュケーショナルが共同制作した『ひきだすにほんご Activate Your Japanese!』の放送・ウェブ配信が2022年2月から始まりました。同番組のメインコーナーであるドラマ「スアン日本へ行く!/Xuan Tackles Japan!」はベトナムから日本にやってきた主人公・スアンが、生活や仕事の中で出会う人々とのやりとりを通して、効果的にコミュニケーションを行うためのストラテジー*1を学びながら、コミュニケーション力を向上させていく語学学習番組です。ストーリーの中ではスアンと彼女を取り巻く人々がともに学び成長していく姿が描かれ、日本語を勉強している人と日本語を母語とする人が、日本語をコミュニケーションツールとしてともに生きていくためのヒントが散りばめられています。
スアン役を演じた俳優のフォンチーさん、番組制作プロデューサーの水谷陽子さん、制作に携わった国際交流基金日本語国際センター専任講師の菊岡由夏さんに、番組に込めた思い、制作秘話を伺いました。

※インタビュー中にドラマの内容・ストーリーに関する発言が複数あります。これから番組をご覧になる方はご注意ください。

ドラマ「スアン日本へ行く!/Xuan Tackles Japan!」登場人物相関図

hikidasu_01.jpg

番組の詳細については、国際交流基金日本語国際センターのウェブサイトをご確認ください。
https://www.jpf.go.jp/j/urawa/j_rsorcs/hikidasu.html

インタビューとあわせて、ぜひ番組もお楽しみください。

『ひきだすにほんご Activate Your Japanese!』はNHKワールドJAPANで視聴できます。
https://www3.nhk.or.jp/nhkworld/en/tv/activateyourjapanese/

hikidasu_02.jpg

【インタビュー登場者】
水谷陽子(株式会社NHKエデュケーショナル コンテンツ制作開発センター 語学グループ 事業展開班 専任部長=写真左)
フォンチー(俳優/「スアン日本へ行く!」主人公・スアン役=写真中央)
菊岡由夏(国際交流基金日本語国際センター 専任講師=写真右)

──『ひきだすにほんご』は2月28日から放送とウェブ配信が順次開始されましたが、フォンチーさんにはご家族やご友人から反響はありましたか?
フォンチーいっぱいありました。一番は「(キーホルダーの)『やんす』かわいい」というのが多くて。「私より『やんす』か」とちょっと思ったんですけど(笑)、でも「やんす」はイメージキャラクターなので、「やんす」に注目してもらえてうれしいなというのはあります。
私は生まれも育ちも日本で、日本語が問題なく話せるので、周囲の人から「片言に違和感がある」とすごく言われました。今回スアンはベトナムから日本語もままならない状態で働きにきているので、言葉をうまく話せないところからの役作りは結構大変でしたが、いろいろな方のお力添えのおかげでどうにか乗りきれました。
──水谷さんはこれまでいろいろな語学番組を手掛けていらっしゃいますが、この番組について、周りの制作仲間の方からの評判はいかがですか?
水谷自分で言うのもなんですが、評判はすごくいいですね(笑)。いかにも語学番組というのではなく、物語を見て楽しめるし、気負わずにストーリーを楽しみながら見られるというのが好評です。全体的なトーンも整理されていて見やすいというのもありますし。
今、「NHKワールド JAPAN」で放送していますが、マレーシア、イギリス、カナダと、本当にいろいろなところからすでに反響があって。私が知らないところでも、もっとたくさんの国の方が見てくださっていると思うのですが、いろいろな意見がありますよ。関西弁のニュアンスが面白かったとか、ドラマを通じて日本語を学習するアプローチが斬新で楽しみながら勉強できるとか。概して楽しいという声が多いです。

hikidasu_03.jpg 『ひきだすにほんご』の制作プロデューサー・水谷陽子さん。各国から寄せられる反響の大きさを日々実感しているそう
菊岡やはり楽しさは大事なんですね。
日本語教育関係では、驚いたことに、フランスの先生たちからの反響がありました。最近は、日本語を教えている人たちの間で、オンラインで集まって話し合う場があるのですが、そういったところで『ひきだすにほんご』を見ようというルームができたりしています。

フォンチー参加したい(笑)。どこがいいとか聞きたいです。

菊岡実は前回フランスの日本語の先生たちが行っているものに一つ参加したんです。そこで私がすごくうれしかったのは、入門レベルの人たちでも、楽しんで見られるというコメントがあったことです。番組を楽しみながら、スアンのセリフの中で自分がわかるところをぶつぶつまねしたりしていたそうです。

水谷初心者の方にも受けているのはいいですね。
──このドラマの主人公・スアンはベトナムから働くために来日して、日本語の勉強も、仕事も一生懸命頑張っている女の子ですが、スアンという役柄はフォンチーさんにとってはどういう存在でしょうか?
フォンチー私自身はそんなにスアンと近くないとは思うのですが、私の友達だったり、私の周りにスアンみたいな子がいっぱいいるんですよ。私の(家の)近所のコンビニでベトナム人の女の子が働いているんですが、最近お友達になりました。ポイントカードを出すとレジに名前が表示されるらしくて、それで私がベトナム人だということに気がついてくれて、「お姉さん、ベトナム人なの? それなのに日本語うまいですね。私の先生になってください」って。そこから会話が増えていったんです。ベトナムから来てまだ1年未満で、向こうに住んでいる両親に仕送りをするために日本で頑張っているという話を聞いて、「スアンみたいだ」と思って。
今まで別のお仕事で外国人労働者の役を演じたときも、外国人の労働者の方はベトナムだけに限らずすごく増えていて、母国にいる家族のためだったり、自分の将来の夢のために働いている人がすごく多いと聞きました。私は生まれも育ちも日本ですが、同じ外国人として他人ごとでいられないというか、何か少しでも力になれたらいいなと思って、コンビニ店員の女の子にたまに一つ二つ日本語を教えたりしています。
この作品を通じて、周りにいるそういう人たちに、優しさとか温かさをもって接してみようと、前よりもより強く感じるようになりました。異国の地に仕事に出てくるだけでもとても大変だと思うので、そういう方が自分の周りにいたら優しくサポートしてあげようと。温かく日本語で、難しい言葉ではなく簡単な言葉で話しかけるだけでも、彼ら・彼女らが救われたりしますし、頑張ろうという気持ちになれるということを、スアンを通してより感じるようになりました。スアンのような人たちのことを知らない方にも、このドラマを通じて同じように感じていただけたらと思います。
hikidasu_04.jpg スアンを演じることで、日本で暮らす外国人への接し方が変わったというフォンチーさん
菊岡スアンを演じるのは難しくなかったですか?

フォンチー難しかったですね。水谷さんや菊岡さんに「ちょっと速いよ」とか「もうちょっと片言のほうがいいんじゃない?」と、ポイントをすごく教えてもらったりもして。
当時演じている私は結構ゆっくり話しているつもりだったんですが、オンエアで見てみると、確かにちょっと速かったかもしれないなと反省もいっぱいあって。もっとスアンに近づけたんじゃないかなという反省点もあるけど、でも、スアンの気持ちとか思いは、周りにそういう方がいっぱいいる私にしか分からないところだったりもするので、いろいろな感情が入り混じった状態で演じていました。

菊岡私にしか分からないとか、私にしかできないんじゃないかというのは、フォンチーさん、撮影のときにも言ってくださっていたじゃないですか。その言葉、すごくうれしかったです。実はオーディションのときはベトナム語母語話者、つまり、もう少し学習者らしさがある人を選ぶのがいいんじゃないかと思っていたんです。フォンチーさんの場合、生まれも育ちも日本なので、日本語が堪能すぎるじゃないですか。でも、撮影が進んで、フォンチーさんで良かったなとあらためて思ったんです。というのは、フォンチーさんはベトナム出身のご両親を、つまり、身近に日本語の第二言語話者として生きる人たちを見てきたことで日本語を学ぶ人のことも実感を持って理解できるし、日本で生まれ育っているのでそういう人たちを見守る人の側にも立つことができる。両方の視点を持っていらっしゃる。だからこそわかるスアンがあるんじゃないかと思ったんです。そうした複数の視点からスアンを理解しようとしてくれているのは、撮影の際に「こういう言い方よりこっちのほうが良くないですか?」とか積極的に提案してくださったことからもよくわかりました。

フォンチーすみません。えらそうに(笑)。

菊岡いやいやいや。すごく考えてくださっているんだなと思って。そういう意味でベトナム語の母語話者にこだわらず、フォンチーさんに演じていただいて本当に良かったなと思っています。確かにフォンチーさんにしかできないスアンがあると思いました。

フォンチー役者としてそのお言葉を頂けると、一番安心するんです。良かったです。ありがとうございます。

菊岡日本語がお上手なので、日本語のたどたどしさ加減(を表現するの)はなかなか難しいですよね。

水谷自然とリアクションが出てしまったりするんですが、「それはまだ分からない言葉だからリアクションしちゃ駄目」とか(笑)。学習番組だから、たどたどしさも間違ったたどたどしさではなくて、必要なのは自然で模範的なたどたどしさ。そんなのあるのかと思うけど(笑)、難題に応えていただき、いい作品になったと思います。

フォンチーたくさんご指導いただけて助かりました。難しかったですが、外国人の方にとってはスアンのようなリアクションが普通なので、その方々の思いや気持ちもあらためて分かった気がしています。こちらは無意識に日本語で伝えているけれど、相手からしたら、分からないことも多い。「大丈夫?」という一言もどういう意味での大丈夫なのかとか。こちらは普通に何となくコミュニケーションを取っていたら「大丈夫」がどの意味かが分かるけど、外国人の方からしたらわからないですよね。「すみません」も、謝罪の「すみません」なのか、呼びかけの「すみません」なのかも全然違います。
外国の方に日本語で話していても分からないことは絶対いっぱいあるだろうなと思ったので、そういう方がいたら、もう少しちゃんと寄り添ってみようと思いました。
──ドラマにはスアンを取り巻くたくさんの魅力的なキャラクターが登場しますが、特に印象的な方はいらっしゃいますか?
フォンチー印象強い方、多すぎるんです(笑)。皆さんがMVPぐらいの濃いキャラクターばかりなんですが、特にスアンに寄り添ってくれたホテルマネージャー役の太田さん、ふせえりさんが演じていらっしゃって、普段から一緒に打ち合わせすることも結構あったのですが、ふせさんもスアンに話しかけてくれるとき、言葉一個一個をゆっくり伝えるのをすごく意識してくださいました。ふせさんが演じる太田さんのような人が周りにたくさんいることによって、日本語が勉強できる方も増えますし、自分も太田さんのようになりたいなと思いました。ゆっくり話しかけてあげる、分からないことは何回もちゃんと教えてあげる、でも駄目なことは駄目と叱る。そういういい塩梅にできる人が世の中に増えたら、もっと安心して日本に働きに来る人が増えるのではないかなと思います。
濃いキャラクターだと、ダニーとモニカもまあ濃い(笑)。特にダニーはスティーブ・シアウさんが演じているんですが、普段も本当にあのままなんです。演じているよりも、そのままいるみたいな。監督はダニーが面白かったみたいですが、笑いをこらえるのが必死なぐらい、ダニーがダニーそのもの過ぎて、こういう人がいるよなと思いながら、楽しく撮影していました。
hikidasu_05.jpg 地域の日本人にも番組を見てほしいと語る日本語国際センター専任講師・菊岡由夏さん
菊岡私も、どの役にも思い入れがあるんですが、あえて、一人選ぶのであれば渡辺哲さん演じる佐々木さんですね。私は日本語教師になった駆け出しの頃に地域で教えていたのですが、地域にはこういう人一人はいる印象があるんです。ちょっととっつきにくいように見える人、本人は歩み寄ろうとしているんだけれど、それが上手く伝わってこない人っていうんでしょうか。佐々木さんはスアンにとって、きっととっつきにくい人だったと思うんですが、それでも関わり続けていくうちに何となくお互いに慣れていく。そんな関係性が描かれていたと思います。
この番組では外国人を受け入れる側のホスト社会もともに変わっていこうというメッセージを伝えたいと思っていたので、太田さんのように配慮のあるコミュニケーションができたり、麗くんのようにスアンとのやりとりを通して変わっていくというのはすごく理想的なんですが、佐々木さんのように、簡単には変われない人がいてもいいのかなと思いました。説明が難しいのですが、たとえうまく変わることはできなくても、関わり続けることで、いい意味での慣れが生まれたり、本当に見えないような微妙な変化があったりして、それはそれなりの関係性が出来上がってくるんだろうなと思ったんです。そんな不器用な関係性づくりが佐々木さんの役に表れていて、そんなところがほほえましいというか、すごく好きですし、関わり続けることの大切さを教えてくれる存在だと思います。
──佐々木さんや麗さんのような日本で育って、日本語を母語とし、日本のコミュニティーで生きてきた人たちが、スアンと関わることで変化し成長していく様子は、日本語学習者を受け入れる側の人たちが見ても参考になるものですが、番組を制作する段階から母語話者を視聴者として意識していたのでしょうか?
水谷まさにそのとおりですね。そこが狙いの一つでもあったと思います。日本人と一言で言っても、いろいろな人がいます。外国人と接する方法も人それぞれあって。最初にプロットを決めるときに、どういう職業でどういうキャラクターの人を入れればいいのかというのは、ものすごく長い時間をかけて話したと思います。
あまり人が増えすぎても、物語として散漫になってしまってよく分からなくなるので、キャラクターがパキッと決まった人がいて、その人たちがその世界の代表のような感じで演じてくれることを願っていたのですが、それが見事に調和したという感じです。
今回は住田崇さんに監督をお願いしたのですが、最後にいろいろ調整をしていく中で、「本当にそういう人がいそうな感じにしたいんだ」と言って、リアルな日本が凝縮された形になったと思うんですね。だから、「ああ、こんな人いる」「こういうときこういう対処の仕方をするよね」というのを、自然に見られるようになったのではないかと。フォンチーさんをはじめとしてみんながそれぞれの役割をしっかり果たした結果だと思っています。
──語学学習番組がその言語を母語とする人を対象にする、『ひきだすにほんご』でいえば日本語を母語とする人を視聴者に設定したことは珍しいケースかと思いますが、なぜあえてそうしたのでしょうか?
水谷それはやはり日本語学習というジャンルの中では外せないテーマだろうと思ったからです。結局、言葉はコミュニケーションだから、片方が一生懸命何かを伝えようとしても、受け入れる側がそれを拒否したり違う受け止め方をしてしまったら、それはそこで成立しなくなってしまうので、双方が理解を目指すことでコミュニケーションとして成り立つ。なので、学習する側もですが、それを受け入れる側もちゃんと意識をもたなくてはいけないよね、そこのところを描きたいよねというのは、テーマとしてあったと思います。
hikidasu_06.jpg
──スアンを見守り、助けてくれる「やんす」も欠かせないキャラクターですが、「やんす」に込められている意図、狙いはどういうところにあるのでしょうか?
菊岡「やんす」はスアンがストラテジーを考えているときに、その考えのプロセスを、番組を見ている人と共有できるようにするために設定しました。それから、慣れない場所で暮らすときに、「やんす」のように話しかけて励ましてくれたり関わってくれたりする相手がいるのは、すごく助けになるのではないかなと思ったんですね。私たちの成長というか、新たな場所で自分の立ち位置を確立していく際に必要な水先案内人のような存在が「やんす」かなと思います。

水谷実は「やんす」に至るまでにものすごく長い歴史があって、このキャラクターにするっていうのは、すごく悩んで、本当に最後に決まったんです。
当初は、「脳内会議」という案があったんです。外国語を勉強するときに、脇汗をかきながら一生懸命考えるじゃないですか。次に何を言ったらいいだろう、こうやって言っていいのかなと。そういうときに「こう言ってはまずいんじゃない?」とか「こういうふうに言ったほうがいいんじゃない?」って頭の中で葛藤が繰り広げられている様子を具現化したかったんです。それが話し合いをしていく中でだんだんと進化していって、「やんす」になったんです。
だから、今、菊岡さんが「励ましてくれる存在である」とお話しされたのですが、それと同時に、自分の中のもう一人の自分ではないですが、そういうものも表現されていると思うんですね。だから「やんす」はスアンの悩みに対してあまり答えは教えてくれなかったですね。スアンが自分の中で葛藤していくプロセスを表現したかったのでこういうふうになって、結果的にはすごくかわいい見た目になって(笑)。
──「やんす」のビジュアルは、どのように決まっていったのでしょうか?
水谷スタッフ総出でそれぞれキャラクターを考えました。

菊岡最初は動物のキャラを考えていたんです。だけど、全世界に配信して見てもらうことを考えると、どこでも難なく受け入れられる動物は意外に少ないんですよね。それで結局、動物は難しいねという話になりました。
JFで作った番組で「エリンが挑戦!にほんごできます。」というのがあって、そこにはホニゴンというキャラクターが出てくるんですが、ホニゴンは何者でもないというのがコンセプトだったんですね。今回も何者でもないというのもいいかなとは思ったのですが、また志向を変えて、より日本の匂いがするようなものということで、この「やんす」になりました。

水谷青木純さんというアニメーション作家さんが最終的にこの形に落とし込んだのですが、今まで悩んできてこれがばーっと決まったときの喜びは、もう。
hikidasu_07.jpg スアンが困ったときに登場し、解決のヒントを与える「やんす」
──「やんす」はキーホルダーのときは実物がいますが、そこから飛び出して話せる状態になった後はCGですよね。映像の「やんす」を想像しながらの撮影は大変だったのではないですか?
フォンチー「やんす」のシーンは全部大変でした(笑)。1ミリのレベルでカメラ調整をしなければいけないので。太田さんとか麗さんとか、そういう人相手のシーンは結構さっと進むんですが、「やんす」とのシーンだけ、香盤表を見ると3時間。現場でもカメラマンさんやものすごく多くのスタッフさんが事細かく、角度や高さを全部調整してくださって。目線も壁の傷を目印にしたりして、毎回すごく細かくやりました。
ポンと出てくるよ、肩に乗ってくるよ、椅子に乗ってくるよ、こっちへ移動するよなどが細かく決まっているので、何となくここに「やんす」が実物大でいるんだろうなというのを想像しながらやらないといけない。声優さんが現場にいて、声出しをしてくださっているのですが、目の前にいない人と話すのは感情とかもすごく難しいですし。
特に「やんす」と話しているときは、スアンが悩んでいることが多いので、演技の「間」にも苦労しました。
──24話のあとの「やんす」は視聴者の想像に委ねられていますが、フォンチーさんはどういう未来だったら素敵だと思いますか?
フォンチーそれこそ最後の空港のシーンの撮影のときに、その後の「やんす」について本当に話していたんです。私は勝手にこのドラマの続編があると思っています。「やんす」は麗さんについて海外に行き、その先で恋人ができるんじゃないかなと思っているんです。海外で麗さんのサポートを同じようにして、恋人を連れてスアンの元に久々に帰ってきて、恋人も紹介してくれて。
スアンはスアンで、「やんす」と会っていない間、ホテルで引き続き働いて、たぶんもっと成長していると思うんですけど、もっと成長した先でもっとレベルの高い日本語に、たぶんまたぶち当たると思うので、そこでまた「やんす」とさらにもう一個上のレベルの日本語の掛け合いだったりとか、次の展開にいけるんじゃないかって。で、たまに暴走する「やんす」を止める恋人「やんこ」...みたいな感じで勝手に想像していました(笑)。勝手に「やんこ」の色はピンクじゃないかなと思って。おしゃれなお花をつけたりとかして。
「やんこ」はフランスの言葉を教えてくれたり、フランスの人はこう話すんだよとか、こういうアドバイスをするんだよとか、文化なども教えてくれたりするんです。日本と海外の表現を比べるという要素もプラスで入ってきたら、さらに世界が広がるのではないかなと。勝手に「やんこ」を作って、青木さんに駄目って言われるかもしれないですけど(笑)。

水谷実際「やんす」のファミリーを作りたいみたいな話はあったんですよ。色が違う子とか、いたらかわいいねと。

フォンチー続編があったらぜひ「やんこ」を検討していただきたいと思います(笑)。

  • *1 言語教育で用いられる「ストラテジー(方略)」とは、コミュニケーションや学習の目的を効果的に達成するための意識的な行動のことを指す。『ひきだすにほんご』では、欧州の言語教育・学習の場で共有する枠組みである「ヨーロッパ言語共通参照枠(CEFR: Common European Framework of Reference for Languages: Learning, teaching, assessment)」におけるストラテジーの定義を参照し、「行動」の部分だけではなく、その行動に至るまでに、状況を判断し、それに対して自分の持つ能力や周りの環境を活かしてどう行動できるかを考える「思考」の部分も含めたものをストラテジーと定義した。

主演・フォンチーさん、番組制作陣 インタビュー
『ひきだすにほんご』がひきだす、コミュニケーションのかたち(後編)
に続きます。

hikidasu_08.jpg

フォンチー(ふぉんちー)俳優。1990年12月16日生まれ、神奈川県出身。元「アイドリング!!!」創設メンバー。
主な出演作にNHK「Miss!?ジコチョー~天才・天ノ教授の調査ファイル~」、TBS金曜ドラマ「MIU404」、TBS日曜劇場「TOKYO MER~走る緊急救命室~」、BSテレ東「ワカコ酒」(スペシャル・Season6)、BSよしもと開局記念ドラマ「ファーストステップ 世界をつなぐ愛のしるし」などがある。
両親がベトナム人で、日本とベトナムの架け橋になることを願い、活動を続けており、2010年より「ベトナムフェスティバル」の宣伝部長と総合司会を務める。
現在、毎週土曜19:00~渋谷クロスFM「アーティスト応援部」レギュラーMC。また、2023年には劇場版『TOKYO MER』の公開が控えている。

hikidasu_09.jpg

水谷 陽子(みずたに ようこ)株式会社NHKエデュケーショナル コンテンツ制作開発センター 語学グループ 事業展開班 専任部長。テレビ番組制作会社社員、フリーランスディレクターを経て、2009年入社。「リトル・チャロ」「トラッドジャパン」「旅するフランス語」(以上、NHK Eテレ)などの制作を担当。2021年4月より現職。語学学習にまつわる映像コンテンツ等をプロデュースする。

hikidasu_10.jpg

菊岡 由夏(きくおか ゆか)国際交流基金日本語国際センター専任講師。青年海外協力隊、日本語学校や大学、地域の日本語教室での日本語教育に携わった経験を持つ。2013年より現職。『ひきだすにほんご』の開発をはじめ、「JF生活日本語Can-do」の開発、海外日本語教師の研修などに携わる。専門は就労者の日本語習得研究。

2022年6月 於・東京
インタビュー・文:石川結衣(国際交流基金広報部)
写真:佐々木まりあ

Page top▲