第49回(2022年度)国際交流基金賞
~差異を超える橋をかける~<3>
社団法人韓日協会 受賞記念講演

2023.3.22
【特集078】

特集「第49回(2022年度)国際交流基金賞~差異を超える橋をかける~」(特集概要はこちら
社団法人韓日協会は、学術文化及び青少年交流を通して、日韓両国間の友好親善と共同繁栄を促進することを目的として1971年に設立されました。その後今日に至るまで50年の長きにわたり、日韓両国間の相互理解の基盤となる日本語教育分野において、青少年層を対象とした未来志向の活動を続けています。
日韓関係が難しい時期にあっても、地道に日韓両国の友好親善の発展に取り組んできた同協会の宋富永理事長が考える、「韓日・日韓新時代」における「未来志向の人的交流」について講演いただきました。


講演の模様は、国際交流基金公式YouTubeチャンネルでもお楽しみいただけます。
https://www.youtube.com/watch?v=2NydRsgwm8o

kan-nichi_01_JP.jpg 社団法人韓日協会主催の全国大学生日本語翻訳大会(2019年)にて(写真提供:韓日協会)

韓日間の「未来志向の人的交流」について一考察

社団法人韓日協会 理事長 宋 富永

2010年代に「韓日・日韓新時代の到来」という言葉が両国のマスコミに頻繁に登場しました。しかしその後、新時代的な進展は期待どおりには進んでいないようです。多様な経済的・政治的出来事や、自然災害などが影響したからでしょう。それだけ国際関係はそう簡単でないことを示唆するものだと思います。

韓日新時代とは、両国の知識人が共同研究によってまとめた「韓日新時代のための提案(日韓新時代共同研究プロジェクト)」において、「両国が緊密な協力を通じて共生のための複合ネットワークを構築していく時代」と定義しています。そして「過去の歴史に対する共通認識を持つべく、引き続き努力するとともに、現在の緊密な協力関係を更に発展させ、両国の未来を共同設計するために、過去、現在、未来を有機的かつ連続的に理解する」ことと説明しています。

私どもは、韓日両国が善隣関係を超えて、東アジア、更にはグローバルな秩序を見つめ、平和と繁栄に向けた友好と協力の関係を構築することを心から願っております。そして、そのための一つの道が韓日両国の広くて深い人的交流であるという観点から青少年交流事業と教育交流事業などに取り組んでおります。

本日(2022年10月21日)は、先ほどご紹介しました「韓日新時代のための提案」第二期報告書においての、「人的ネットワークの形成」という項目を参考にしながら、私どもが考えている「韓日間の未来志向のための人的交流」について、お話をしてみたいと思います。

1.韓日人的ネットワークの課題

では先に、韓日人的ネットワークの課題について見てみます。

韓日両国は、1965年の「韓日国交正常化」以降、政治的民主主義と先進市場経済、多元的社会文化制度を成功裏に発展・定着させまして、非欧米地域では代表的な国家として評価されています。そして2018年には両国間の訪問者数が1,000万人を超えるほどの人的往来を記録する画期的な関係に発展しています。

その反面、今日の韓日関係の人的ネットワークにおいては、次のような三つの課題にも直面しているという事実もあります。

まずは、政治圏のネットワークが著しく弱くなっています。以前は両国間に問題がある際は、影響力のある政治家が水面下で調整を行ってきたのですが、今はそのような役割をする大物政治家は引退と世代交代により、ほとんどいなくなったという事実であります。

もちろん日増しに多層化している今日の韓日関係を考えれば、数人の大物政治家が韓日間の全ての問題をコントロールすることは、もはや難しくなっているのは事実であるということも否定できません。

それにもかかわらず、政治レベルでの現実を考えれば、両国の政治家たちの新しいネットワークの構築が必要な時期ではないかと思います。

次に、既に韓日の間には多様な交流が行われているという事実に照らして、今後の方向は単純な交流の拡大よりは「韓日共同の未来ビジョン」を議論し、それを共有・実践するために必要な「複合的人的ネットワークの構築」が必要であるということです。

韓日間に複合的なネットワークが構築されれば、政治領域での摩擦や葛藤より、話し合いや協力が優先し、東アジアの平和と繁栄のみならず、世界的にも貢献できる韓日協力が画期的に進展するものと思われます。経済領域では短期的には資本・情報・技術及び労働が自由に移動する韓日共同市場が実現するとともに、長期的には東アジアの経済共同体に向けての進展が始まることでしょう。

なお、このため韓日両国の人的交流においては新たなパラダイムが必要であると言えます。韓国が経済発展と共に政治的民主化を成し遂げた今、日本との関係においては対等な立場で接しようとしている点も否定できません。新しい時代に新しいパラダイムを考えるのは当然かもしれません。

もちろんこのような新しいパラダイムは既に論じられておりますので、新しいとは言えませんが、私どもが考える「新しいパラダイム」について、本日の講演主題に合わせて話してみたいと思います。

●世代間交流のバランス
まず、世代間交流のバランスについてです。今は両国の関係を今まで導いた既成世代と、全く異なった思考で相手国を眺める若い世代が同居している状況なので、この点を見過ごすことはできません。韓日両国の未来のために、協力を通じた共同繁栄を果たそうとする役割は若い世代が主導すべきであると思います。

合わせて、高齢化時代を迎えてますます増えるシニア世代についても適切な交流が行われるように配慮する必要があります。いわゆる各層のそれぞれの交流が多角的に行われるよう配慮する必要があるということです。

●地域間交流のバランス
第二に、地域間交流のバランスについては、これまで、東京-ソウルのように中央集中的な交流が主流を成していた点に照らして、今後は各地方の自治体をはじめ、地方の団体や企業などの交流を広げる必要があります。

既に韓日両国には地方分権や地方主権が進められており、地方間の姉妹関係の提携などを通じて経済分野の交流ないし、経済統合に至るまでを目標にする自治体もありますが、これは極めて重要です。

地方政府において地域発展のために観光や経済交流、人的交流を活発に推進しようとする意志は多く見られているので、これをうまく生かして韓日両国の地域間の交流を拡大させることは非常に重要だと思います。

●時期的交流のバランス
第三に、短期的達成と長期的目標を共に考慮した時期的交流のバランスが重要です。韓日関係が、時にはすぐに悪化しやすい点を考えれば、できるだけ短期間で成果を出せるネットワークの構築も重要ですが、その一方で、本来、人的ネットワークの成果というものは目に見えにくく、また成果を上げるためには長い時間がかかる場合が多いです。

したがって、すぐに成果を出すために急ぐのではなく、短期と長期の目標を設定し、大局的観点で両国の共同ビジョンを定め、それを実践することがより重要であります。韓日の共同未来を設計することは、一国の「百年の大計」を設計すること以上に難しい作業であります。だからこそ、今それに取り組む姿勢が必要です。

kan-nichi_02_JP.jpg 国際交流基金賞受賞式にて、スピーチをする宋富永理事長(撮影:ステージ)

2.質的・量的側面での各分野の進め方

このような三つの要素とともに、人的交流において質的・量的な側面で、「滞在期間」も重要な要素であると思います。交流の内容から見れば、短期滞在型は主に量的な側面が強く、長期滞在型は質的な側面が強いといえます。

その意味で教育や就職などは質的な交流でありながら長期滞在型であり、観光、文化などの交流は量的に広がりを見せる短期滞在型にあたります。このような質的・量的交流の面においてさまざまな分野の人的交流が複合的に絡み合って今日の韓日関係を維持する土台になっていると思います。

これからも核心的各分野の人的交流の底辺を拡大し、根の深い民間交流を行うことで、複合的人的ネットワークが形成されるものと期待します。

それではここで、教育・就職・観光・文化・地方・青少年の六つの分野の交流の進め方について、もう少し踏み込んだ話をしてみます。

●教育分野の進め方

まず、教育分野においては、代表的に留学という形で両国間の交流が行われています。日本学生支援機構のデータによれば、2019年度には日本にいる韓国人留学生数は18,338人であり、同じく韓国にいる日本人留学生数は7,235人です。両国間に2.5倍ものアンバランスがあります。

留学は、短期間の語学研修を除いては、ほとんどが長期間にわたって学位を取得する過程であるとともに、これは長期滞在型にあたり、質的な側面では上位概念であるといえます。将来の社会的リーダーを育成する、グローバル・レベルの高度人材の育成において留学は有効な教育手段といえます。

先ほど述べました「韓日新時代共同研究プロジェクト」では画期的に相互の留学生交流の拡大を目指す「韓日10万人留学生プロジェクト」が提案されております。交換留学生制度、国費奨学生制度、語学研修や正規留学生の私費留学制度、単位相互認定制度、不定期的な各種の交流プログラムなどを通じて、これを達成するということです。

kan-nichi_03_JP.jpg 日本留学フェアの様子(写真提供:韓日協会)

●就職分野の進め方

次は、就職分野の進め方です。これは複合的な意味を持ちますが、労働市場の流れによって変化するものであります。韓日両国の企業がグローバル人材を求める時代であるだけに、特に質的レベルの高い人材の、国を越えた相互国家への就職は引き続き増えるでしょう。

また、留学後の就職は、当該国での生活を定着・定住させる意味までをも含むので、これは人的交流の頂点を飾るものと言えます。

一方、技術職やサービス業の就職も、韓日両国の人口が減る現象と高齢化現象の中で国を越えた需要による移動が予想されています。留学による就職のほかにも技術研修や短期語学研修、ワーキングホリデー活動などを通じて、相互国家での経験をもとに、若い世代の職業選択の方向性を提示する一つの軸になり得るのです。

このような基調の上で私どもは「韓日就職10万人プロジェクト」の実現を提案します。この目標を達成するためには、留学を通じた現地での就職、両国言語習得者の相手国への就職、技術技能保有者の相手国への就職、大学生の海外インターンシップを通じた卒業後の相手国への就職、第三国への個別及び共同投資企業における社員採用などを積極的に推進する必要があります。このようなことは民間部門でも実行が可能なものですが、政府レベルでの支援があれば、より一層弾みがつくものでしょう。

●観光分野の進め方

三番目の、観光分野はすでに産業的に多くの交流がある分野です。韓日両国間には2018年度に年間1,000万人を超える観光客の往来がありましたが、この数年間はコロナ禍のために停滞している状況です。幸いにもコロナ禍の鎮静化が見られる中で、今月(2022年10月)11日から日本の入国ビザが緩和されたので、韓国からの観光客が殺到する見通しであるとの報道があります。また既に10月末までに観光ビザが免除されている韓国への日本人観光客も大変増えているようです。これからは過去の1,000万人実績を超える観光交流が期待されます。

人的交流の量的な側面では観光を超える分野はなく、短期滞在ではありますが、これを通じて両国を正しく認識・理解することを皮切りに、留学や就職などの他の交流につながるきっかけになるでしょう。

特に、観光分野において中学生・高校生の修学旅行とホームステイは更に質的価値を持つため、各自治体は拡大方策について工夫する必要があります。そして各自治体は両国の多様な交流にホームステイを融合させ、「草の根交流」ともいえる個人対個人、家族対家族の交流を拡大させることを期待します。その後につながる二次的な相互訪問、持続的な知り合い関係の交流は民間交流においてこの上なく大切なことだと思います。

●文化分野の進め方

四番目の、文化分野は既に、幅広いジャンルにおいて交流が行われています。伝統文化、現代文化、音楽、映画、アニメ、食やファッション、メイクなどさまざまなものがあります。これは韓日両国の市民レベルで相互理解と友好を深める一つの枠組みといえます。多くの人々がさまざまなジャンルで文化を共有する活動をしています。

しかし、今までとは別に、個人またはサークルレベルでの文化交流が多様に行われるようにする方策を講じる必要があります。各ジャンルについて、民間レベルで交流することができるよう仲立ちの役割を各自治体や交流団体などで先導すれば、「見せるだけの文化活動」ではなく、趣味や同好レベルでの体験型として「一緒に行う文化活動」「一緒に楽しむ文化活動」が市民レベルで活発に展開されるものと期待します。青少年、家族単位、中年層と老年層にまで拡大していくと、多様なジャンルでの文化交流が行われるものでしょう。

●地方分野の進め方

五番目の、地方分野では先にも述べましたように、今までの中央集権的な方式から脱し、地方と地方、また地方と中央が交流を図るものです。韓日両国の地方自治体は、地方交流の主導的役割を果たせる土台が整っています。

日本には「自治体国際化協会」が組織され、ソウルに事務所を設置しており、韓国には「市道知事協議会」が組織され、東京に事務所を設置しておりますので、先導的役割が期待されます。これらの組織が韓日両国の地方政府や団体の要請を受けて相手国の地方政府や団体に交流を打診することがスマートではないかと思います。実際、この両国の組織は既にこのような活動を行っているという話をうかがっております。

そして地方自治体が中心となって留学、就職、観光、文化、地方、青少年など全ての分野について、自治体レベルで人的交流を推進すれば、その影響は大きく広がるものと期待されます。

なお、生活スポーツについても町や村のスポーツクラブのレベルまで交流を広げていけたら大変面白い現象があらわれ、「自発的なスポーツ交流」が花咲くことだろうと期待します。

kan-nichi_04_JP.jpg 韓日青少年交流会の様子(写真提供:韓日協会)

3.未来志向のための青少年交流

最後になります。ここでは青少年交流について話してみます。全ての交流は未来志向が前提になるべきと思いますが、特に若い世代が「韓日新時代」の概念を取り入れた青少年交流を進めることが大事であります。そして青少年交流は無限に大事であるという価値観のもとで、各界各層がこぞって協力していかなければならないと思います。

今のところ中学生・高校生の正規留学分野は、日本側が少し先がけて留学生受け入れをしている程度ですが、欧米や中国などに比べると韓日両国はまだまだこの分野の交流に踏み切っていない感じがします。グローバル教育の一環としてこの分野の開拓も必要であります。

中高校単位での修学旅行の活性化や交換留学も学校の先生方が意思を持つことで実行が可能な分野といえます。学校という立場は、少しは政治の影響を受けやすい方ですが、勇気を出すことと教育者としての確固たる価値観を持っていれば可能なことだろうと思います。

現在多様な分野で青少年交流が行われていますが、更に「草の根的」交流を考える必要があります。今まで政府や団体が進めていた「団体としての青少年交流」は、質的な面において限界があると思います。そのため、中学・高校の学校単位や個人・家族レベルでの草の根交流を進める必要があります。

その一つが、学校を中心にお互いの町や近所同士がグループを作って相手国の学生や家族をホームステイさせることです。これは自治体の団体などが仲介のお手伝いをすれば、お互いに交流を希望する情報を得やすいので実行の可能性が増えると思います。

また、両国の中学・高校の日本語教師や韓国語教師を中心にホームステイを進めることも可能と思います。ホームステイは安全かつ、低費用で、個人または家族ぐるみの民間交流の底辺をより拡大する結果を得るものと思います。

そして、学校間のスポーツ交流は最近あまり見られてないですが、これは好きなことを一緒にやるという親近感を基本にしているので、お友達になれる一番近い道の一つであります。学生たちの好感度の高いこの分野の交流が盛んになることを期待しております。

なお、個人レベルでの韓日の若者交流の面白い現象として、時に機械翻訳を用いたりしながら、日本語や韓国語、または英語でのやりとりをする、オンラインでのチャットを通じたお友達付き合いがあります。私たち大人が想像する以上に進んでいるようです。このような分野は自然な流れで増えていくことだろうと思いますが、インターネットやスマホを利用したオンライン・コミュニケーションのツールや交流機会を増やしていくことにも責任ある役所や団体が力を貸す必要があると思います。

本日は国際交流基金賞の受賞を記念して何か意味ある講演をと言われまして、最初は少し悩みましたが、以上のような内容により、私どもの考えをお話しすることができましたことを、大変うれしく思います。

「韓日新時代」という言葉どおり、21世紀の新時代が韓日両国の間で定着していくことを望み、また民間の幅広い分野での人的交流が盛んになることを願って本日の講演を終えたいと思います。

ありがとうございました。

kan-nichi_05_JP.jpg 受賞記念講演会にて(撮影:サンケイ)

2022年10月21日
韓国文化院(東京)での講演

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