日本の音色で復興支援への感謝を伝える~コロンビア、エクアドル、ペルーの旅

小濱 明人(尺八奏者)
はせ みきた(和太鼓奏者)
森川 浩恵(筝奏者)



tone_south_america04.jpg 国際交流基金 (ジャパンファウンデーション)は、和太鼓の可能性を徹底して追求、次代を担う太鼓ソリストとして注目を集める和太鼓奏者・はせみきた、音楽のジャンルに囚われず、国際的に活動を展開する尺八奏者・小濱明人、筝曲家としてのみならず、歌手としても定評がある森川浩恵の若手邦楽奏者3名を、コロンビア、エクアドル、ペルーに派遣し、復興支援への感謝を伝えるコンサートを各地で開催しました。

日本の伝統と現代の感性を調和させた演奏が持ち味の3名は、古典曲、オリジナル曲から民謡メドレー、地元アーティストとの共演に至る幅広いプログラムを通じ、日本文化の魅力、その包容力と奥深さ、現代に息づく伝統の有り様を、中南米の人々に紹介しました。

東日本大震災に際して各国から寄せられた日本への支援に対する感謝の念を、音楽を通じて伝えた演奏家に、感動の様子を綴っていただきました。




楽曲を通じて深める対話(小濱 明人)

tone_south_america05.jpg tone_south_america06.jpg 海外での公演では、"その土地の音楽"を一曲演奏することにしている。その国に到着してから本番までのわずかの時間に、一緒に働いてくれている地元のスタッフに、どの曲を演奏したらお客さんが一番喜んでくれるかを尋ね、調べる。 コロンビアでは、国民的歌姫、シャキーラの「Waka Waka (This Time for Africa)」を演奏することにした。これはFIFAワールドカップ・南アフリカ大会のテーマソングだったそうだ。
エクアドルでは、首都キトのことを歌った「El Chulla Quiteño」を演奏。盛り上がりそうで盛り上がりきらない曲だが(笑)、キトの皆さんにとっては大切な曲。実際とても喜んでもらえた。
ペルーでは「コンドルは飛んでいく」を演奏。共演した音楽家(南米の民族楽器、ケーナやチャランゴの奏者でもある)、ルーチョ・ケケサナさんに尋ねると、この曲は全てのペルー人が好きなんだと教えてくれた。歌詞は、インカの先住民の自由への憧れを表していると言われている。
どの曲も調べれば調べるほど、その土地柄を強く感じることが出来て感動する。実際に公演で曲を演奏すると、歓喜の声が聞こえてきたり、一緒に歌い始めたりとコンサートは一気に盛り上がる。毎回、現地の方と会話をし、曲を探し、そして演奏することによって、その国を深く体験しているのだと思う。

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音楽や言葉で語り継ぐ(はせ みきた)

tone_south_america08.jpg 初めての南米大陸、高地での演奏、初顔合わせの共演者との旅・・・。新鮮な体験満載のツアーだった。
 ボゴタ(コロンビア)とキト(エクアドル)は、両都市ともに、近年めざましい発展を遂げている様子で、活気にあふれていた。高地で涼しいのだが、照りつける太陽の日差しは強烈で、「おーし、やるぞ!」という気が、体の芯からふつふつとわいてくるような感覚があった。(それとは裏腹に、肉体は、時差と空気の薄さに面食らっていた。)
 共演者の小濱さん、森川さんと組んだ今回のプログラムは、古典、オリジナル曲、民謡とバラエティに富み、日本の風土や精神性をよくあらわす構成になったと思う。映像・字幕も用いながら、美しい日本、強い日本、神秘の日本をイメージしてもらえたのではないかと思っている。
 リマ(ペルー)では、現地の民族楽器をマルチにこなす同年代のアーティスト、ルーチョ・ケケサナさんとの共演もできた。この国の日系人コミュニティは規模も大きく日本とペルーの文化交流にも大変力を入れている様子で、共演は大いに盛り上がった。
 この中南米ツアー後のことであるが、別のユニットで岩手から宮城へと演奏の旅に出た。津波で甚大な被害を受けた沿岸部の光景を目の当たりにすると、これが本当に現実に起こったことなのだと、足がすくむ思いだった。メディアには取り上げられないようなドラマや課題、メッセージがそこにはあった。身を守るということ、町を立て直すということ・・・。これら見聞きしたことを、音楽や言葉で語りつないでいくことも我々の仕事かと思う。今回訪れた3ヶ国も、地震とは縁の切れない土地だ。もしまた訪れる機会がいただけるようなら、きっとそれらの役目を果たしたいと思っている。  同時に、訪問以前にはかなり「アブナイ国」だと伝え聞き、身構えていたが、非常に陽気でたくさんのワクワクを内包した素敵な国々であったことを、機会あるごとに発信していこうと思う。

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演奏者としての飛躍(森川 浩恵)

tone_south_america12.jpg ここ数年、出産、子育て、スランプと私には、とても多くの壁があった。しかし、家族の「行ってこい!」の一押しもあって、参加させていただくことができ、ひとっ飛びに飛躍できたように思う。私が越えた壁は、これから私を守る盾となってくれることだろう。

演奏者として、個人的な課題もたくさん見つかり、それが悔しいどころか楽しいとさえ思え、今までが嘘のような前向きぶりには私自身が驚いた。訪問する先々で、感動した!と言われたり、たくさんの拍手をいただいて、その暖かさに、こちらが一番感動してしまった。
各地でのたくさんの出会い、たくさんいただいた拍手を胸に、更なるレベルアップを目指して、ゴールのない道程をただ、ひたすらに歩いて行きたいと思う。
最後に、多くの方が、日本のために祈り、支援して下さったことに、感謝の言葉を述べたい。千代に八千代に、どうか、皆様の平和が続きますように。

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(写真:Oscal Chambi)




公演日程
■ ボゴタ (コロンビア)
2012年11月1日 (木)
会場:セントラル大学ホルヘ・エンリケ・モリナ劇場
(Auditorio Jorge Enrique Molina, Universidad Central)

■ キト (エクアドル)
2012年11月3日 (土)
会場:ベンハミン・カリオン・エクアドル文化会館国立劇場
(Teatro Nacional Casa de la Cultura Ecuatoriana "Benjamin Carrion")

■ リマ (ペルー)
2012年11月5日 (月)
会場:日秘劇場 (Teatro Peruano Japones)





tone_south_america01.jpg 小濱 明人(おばま あきひと)
香川県出身。古典を石川利光、民謡を米谷智に師事。NHK邦楽技能者育成会第46期修了。第2回尺八新人王決定戦優勝。2004年、ソロアルバム『風刻』を発表。海外公演も活発に展開し計28カ国で演奏。2012年、アジアン・カルチュラル・カウンシル(ACC)の助成によりニューヨークに半年間滞在。民謡の伊藤多喜雄率いる『TAKiOBAND』等数々のグループに参加している。
http://www2s.biglobe.ne.jp/~obama/akihito/akihito.html white.jpg tone_south_america02.jpg はせ みきた
静岡県出身。幼少より和太鼓に親しむ。静岡大学教育学部在学中に和太鼓サークル「龍韻太鼓」を創立。1998年よりプロ活動を開始。2000年「ようそろ」を結成。和太鼓奏者の第一人者・林英哲率いる「英哲風雲の会」に所属、ツアーメンバーとして、国内外の公演・TV番組などに出演。ジャンルを超えた様々なアーティストとの交流にも積極的に取り組んでいる。
http://www.granbeats.com/ white.jpg tone_south_america03.jpg 森川 浩恵(もりかわ ひろえ)
兵庫県出身。3歳より母に箏、6歳より父に尺八を学ぶ。コンクールで数々の賞を受賞。日蘭友好400周年記念イベントに日本音楽コンクール受賞者たちと共に招かれ、オランダ6都市で公演。ロシア、エルミタージュ美術館専属オーケストラと共演。2002年のデビューアルバムは純邦楽では異例の一万枚を超すセールスを記録。歌い手としても民謡、歌謡曲から様々なジャンルの歌をカバーする。
http://morikawahiroe.com/news.html




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