雑誌『をちこち(遠近)』
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韓国のトレンドにあわせて、日本の文化紹介の企画を練る苦労~ソウル、釜山、済州で和菓子紹介

ソウル日本文化センター
朱 敏子(チュ・ミンジャ)



「日本の和菓子ですか? 和菓子には砂糖を使いすぎるというイメージがあるので公営の教育放送局である韓国教育放送公社(EBS)で放送するのは難しいと思います。特に韓国では、国民の健康のために、砂糖と塩の量を減らそうというキャンペーンを実施している最中なので、和菓子についての放送は時代の流れに逆行してしまいます・・・。」

これが韓国の地上波放送局で唯一の料理番組を持つEBSの担当プロデューサーが、国際交流基金ソウル日本文化センターからの取材依頼を拒否した理由の一つであった。 この一言で、和菓子をテーマにした事業の最初の広報企画は終わってしまった。


スイーツ・ブームの韓国
国際交流基金が韓国で実施する日本文化紹介事業の一環として、我々が和菓子をテーマに選んだ理由は、目下、韓国はデザート(スイーツ)ブームの真っ只中で、文化公演やファッション街として有名な、弘益(ホンイク)大学校周辺のデザートカフェを筆頭に、最近新しく日本でも広く知られるようになった江南(カンナム)の街路樹キル(カロスキル*)のデザートカフェが大人気であることが背景にあった。
こういう時代の流れに沿った日本のデザートとして、和菓子の紹介はタイムリーなものだと考え、料理関連番組を持つ放送局にアピールすれば、事業の様子が放映される可能性も高いと思ったからだ。期待が大きかった分、失望も大きかった。
* 街路樹のあるキル(「通り」の意)で、センスのある服飾雑貨店が集まる人気スポット

次は第二候補として挙がっていた「オリーブ(olive)」というケーブル・テレビ局への取材依頼である。オリーブTVは、韓国でのケーブル・テレビ業界において4分の1近くを占有するCJエンターテインメント社が運営しており、同社が保有している16のチャンネルのうちの料理を専門とするチャンネルが、オリーブTVである。
第一候補のEBSが放送を快諾するだろうと確信していた私としては、次のステップに進むのは気持ちが重かった。オリーブTVへ提案書を送ったが、そんな気持ちを見透かすかのように、こちらからも放送を断られてしまった。規模の大きい企業が運営しているだけに、先方が期待する和菓子紹介事業も、規模の大きなもので、波及効果が大きなものでなければならないという理由だった。料理学院や学校の調理実習室で行われるような小規模の行事では彼らを満足させるのは難しかったらしい。

二度目の拒絶で肩身が狭くなった私に再び仕事へのやる気を取り戻してくれたのは、事業の共催の提案をしていた中村アカデミーから、快く提案を受け入れるとの連絡をもらったときからである。
中村アカデミーは日本料理の専門学校ではあるが、日本の食文化の一つとして和菓子を紹介することにもたいへん意欲的であった。ここから和菓子紹介事業の準備作業に弾みが付きはじめ、ソウルで2回、釜山と済州で各1回と、合計4回の事業実施について、着々と準備が進んでいった。


いよいよ日本から専門家到着
事業の準備段階では、酒井哲治、小椋洋、加藤篤子、石盛喜(ソク・ソンヒ)の4人の和菓子専門家とは、東京本部の職員を介して全ての連絡を行っていたが、10月の最後となった日、事業実施のために日本から訪韓してきた専門家たちとようやく初めて顔を合わせることができた。
事業で使うかなりの量の和菓子や食品関連材料を、手荷物として持ち込むことになっていたので、通関でトラブルが発生するかもしれないとやきもきしたが、諸手続きを経て、無事、税関を通過し、入国管理のゲートから出てこられた専門家の方々の表情はとても明るく、順調なスタートの予感がした。
到着の翌日から、4会場実施分の材料や道具の確認作業とソウル会場の下見をした。しかし、和菓子の材料を確認する過程で問題があることが分かった。韓国で購入したつぶ餡の粒がつきすぎで、つぶの大きさが必要以上に小さかったため、「本場」のどら焼きを作るには適当ではなかったのだ。
結局、その場で小豆を買って来て、粒の形を保ったつぶ餡を調理し、既存のつぶ餡に混ぜて使うことにした。当初から懸念していた韓国と日本の材料の違いから起きた問題だったが、さすがに専門家の問題解決能力は優れていた。「歯がなければ歯茎で対応する」(本来必要なものがない場合、機転を利かせて代替品で対応するという趣旨)という韓国の諺がぴったりの場面であった。改めて専門家の瞬発力と知恵に感心した次第だ。これと似たような状況は本事業の間に何度もあったが、その都度、専門家の機知が発揮された。


大盛況のソウル
韓国での全ての事業のスタートを切った初日は、ソウル市内の中村アカデミーで実施された和菓子作りのワークショップだった。日本料理専門学校である中村アカデミーの学生が主な参加者であったが、そもそも学生の半分は、すでにプロまたはセミプロの調理師であっただけに、レシピを説明した後、各自でてきぱきと、どら焼きとイチゴ大福を作り始める姿に専門家も、私も驚いた。
参加者の和菓子に対する関心も高く、小椋洋先生の上生菓子のデモンストレーションの際は、カメラやiPadなどの先端機材で録画しておこうとする参加者が小椋先生の周りを取り囲んでいた。関心が嵩じるあまり、参加者からは「和菓子についてもっと知りたいので、別途講演をしてくれないか」との要望が出るほどだった。

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中村アカデミーでの和菓子作りのワークショップ

順調なスタートを切った和菓子紹介事業は、翌日は、国際交流基金ソウル日本文化センターでの和菓子に関する講演会とデモンストレーションに続いた。当センターには、27,000余名の会員がいるが、事業の広報開始と同時に素早く参加申込みを終えた60名が参加した。申し込みの際の人気ぶり、熱気の強さそのままに、当日の講演会参加者たちの出席率や参加態度もそれに相応するものであった。主催者としては、事業の性質から、あまりに大規模な収容人数を設定することができないとはいえ、参加申込みが多すぎて、断らなければならないことは本当に辛く、残念だった。

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国際交流基金ソウル日本文化センターでの和菓子に関する講演会とデモンストレーション


見事な専門家の協働
ソウルに引き続き、釜山、済州でも実施した紹介事業は、酒井哲治先生の陣頭指揮の下で行われた、全員による時間管理の徹底した仕込み準備、専門家の情熱と参加者の高い関心のなか、成功裏に終わった。

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釜山での紹介事業
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済州での紹介事業

糸菊のような満開の笑顔で講演をしてくださった小椋洋先生、ユーモアと機知に富む話で会場の雰囲気を盛り上げてくださった酒井哲治先生、生まれて初めて、催事会場を団扇せんべいとはさみ菊で飾ってくださった加藤篤子先生、韓国の和菓子専門家として臨機応変に講演を見事にこなした韓日和菓子の架け橋・石盛喜先生。この4人の方々がいなければ実現しなかった。4人のコンビネーションはぴったりで、これがなければ大成功はなかったかもしれないというくらいの最高のメンバーでした。専門家の皆様、本当に有難うございました。
(原文:日本語)



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