雑誌『をちこち(遠近)』
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Vol.6 この夏、盆栽で「涼」を楽しんでみては?

寒さにはめっぽう弱く、暑さには耐えられる体だと思っていましたが、本格的な夏の到来、連日の暑さに怖気づく日々を過ごしています。
一時でも避暑地や海やプールで夏の暑さを忘れて過ごしたい・・・・・・。そう思いつつも、日常生活ではそんなことも言っていられません。

夏の暑さを少しでも和らげようと、五感による涼の楽しみ方を思い浮かべてみました。
風鈴、肝試し、肌触りの良い浴衣を着る、水羊羹やかき氷を食べる――。

今回は、夏に涼を楽しむ方法のひとつに盆栽を加えてみては? というご提案をさせていただきます。

盆栽が体の熱を冷やしてくれたり、口の中を冷たくしてくれたりするわけではありません。
目で涼を感じてもらおうと思うのです。

この時期、切り花を長持ちさせるには手入れやコツが必要で、切り花で部屋に季節感を取り入れることって難しいですよね。

そんな時期こそ「草もの盆栽」。

盆栽というと鉢の上で大樹の姿を表現するものという印象を持つかもしれませんが、草もの盆栽は、草を使って自然の景色を創作します。

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涼しい風情の風知草。

夏の季語にもなっている風知草(フウチソウ)。
山地の崖や渓谷の岩地に群生しているイネ科ウラハグサ属の多年草で、関東から近畿にかけての太平洋岸の限られた場所だけに生える特産種。
学名は、日本の植物学の父と呼ばれる牧野富太郎により、原生地の箱根の地名をとって 「Hakone chloa(箱根の草)macra」と名づけられた。

「風を知る草」とは、いかにも涼を運んできてくれる名前ではないかと思うのです。

この時期、草もの盆栽を室内に飾る場合、ワンランク上の演出をしてくれるのが、竹などの材質を使った「卓(ショク)」(花台の意味)。
竹、もしくは竹細工を用いた卓は基本的に夏のみに使用するため、時期を逃すともったいない。安価で手に入る料理用の巻きすなどで代用するのも、オススメ。

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竹細工の卓に似合うトクサとシラサギカヤツリ。

初夏に映える紫陽花とベニチガヤ。

一般的な盆栽と違い、草もの盆栽は、枝枯れなどによって樹形が乱れることがない点が良いところ。
というのも、草は冬場すべての葉を枯らし、春になればまた新たに新芽を吹かし、元の姿に。剪定で形を整えることも少なく、針金で整枝する必要もありません。
植物本来の成長を見守ってあげることこそが、野趣に富む草もの盆栽の醍醐味。

「でも、それだけ?」というものでもない。

「持ち込み」という言葉があります。盆栽では、鉢で育てられる年月を指します。
他の盆栽と同じく、草もの盆栽も限られた土の中に根を張り、成長します。
そのため、2年に1度くらいは必ず植え替えを行う必要があるのですが、1年目のものと、植え替えを経て10年経ったものとでは、大きな違いが見られます。
芽数が増え、葉の長さや大きさ、軸の長さなどが縮小され、「鉢で持ち込んだ、良い草もの盆栽だね」ということになるのです。
そう、時間が作り出した品格が備わってきます。

購入するときに気をつけなければならない点もあります。
それは、自生地がどこかということ。樹でも草でも自生地が存在するのですが、草ものとなると、その環境作りは十分に考えなければいけません。

山野草は今やホームセンターなどでもよく見かけるようになりましたが、それらの中には高山系植物も多く出回っています。
高山系とは、森林限界より標高の高い場所に自生している植物のこと。平地とは気温の差が離れているため、平地の暑さに耐えられず、枯れてしまうことも。
夏に涼しさを演出してくれるものではあっても、直射日光が当たり、高温になる環境下では、耐えられない植物も多くあります。日よけ、水やりの回数も考慮してあげないと、葉がしなり、葉焼けしてしまうこともあるでしょう。

その植物がどのような環境を好むか購入時にしっかり聞いて、自宅のどこで管理するか検討してみてください。

もし夏場に葉っぱが焼けて枯れてしまったとしても、ほったらかしにしないでください。その後、日陰で適度に水やりを続けていけば、来春また旺盛な葉を茂らせてくれることでしょう。それが草もの盆栽の強みです。

草もの盆栽で粋な夏を演出してみてはいかがでしょうか。

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夏らしい表情のもみじと屋久島萩。

草は初心者向け盆栽ワークショップでも樹と組み合わせて使われることが多く、季節に合わせた表情を見せてくれる可憐な草たちは存在感を発揮します。
「盆栽もり」でのワークショップもやはり樹と草を寄せ植えする形態が多いので、またいつか綴らせていただきます。

これからもっと暑さが増してきますが、皆様と盆栽が元気で健康に過ごせますように。

bonsai_profile.jpg 森 隆宏(もり たかひろ)
盆栽師。1979年、東京都生まれ。常磐大学国際学部を卒業後、2002年より勝田光松園にて盆栽を修行。2006年に独立し、盆栽師として活動を開始する。2009年、由緒ある国風盆栽展で職人として手がけた作品が国風賞を受賞。2009~2013年、さいたま市大宮盆栽美術館の専属盆栽技師を務める。2013年、欧州文化首都2013コシツェに盆栽デモンストレーターとして、第8回世界盆栽大会(2017年開催)のさいたま誘致プレゼンテーションに盆栽師代表プレゼンテーターとして参加。2014年にはスロヴァキアの国際盆栽フェスティバルでもデモンストレーションを行い、2016年の国際園芸博覧会トルコ・アンタルヤでは日本政府出展の展示に盆栽専門スタッフとして携わった。現在、盆栽師の仕事に従事する傍ら、2013年に構えたアトリエ「盆栽もり」などで初心者向けワークショップを開く他、米カリフォルニアでも講習会を行うなど、国内外で盆栽の普及活動に取り組む。

盆栽もりHP http://bonsaimori.jp/
盆栽もりfacebook https://www.facebook.com/Bonsaimori/

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