心と心をつなぐ 1 ― 中国人高校生が日本で暮らした11ヶ月

日中交流センター



 元気いっぱいの若者たちの声が、ロビーに響いた。日本語と中国語が入り交じっている。
 若者たちは白と黒の色違いのTシャツを着ているが、左胸のところにはいずれも「心連心」とプリントされている。中国語で「心と心をつなぐ」という意味だ。
 国際交流基金は2006年、日中の青少年交流を促進するために日中交流センターを設立。「心連心」は、国際交流基金と日中交流センターの推進する事業の総称で、その中の1つが中国高校生長期招へい事業だ。中国の高校生たちを日本に招き、11カ月の日本滞在で、勉学と生活を通して日本の社会や文化を知ってもらうというもので、2006年からスタート、今期(2013年9月~2014年7月)はすでに第8期生になる。
 その第8期生の28人が、11カ月の研修を終えた。帰国報告会の様子と合わせて、中国の高校生たちが日本各地でどのような研修生活を送ったのか、聞いてみた。彼らが日本で「心と心をつないだこと」とは?


connect_heart01.jpg  2014年7月18日、東京・四谷三丁目の国際交流基金本部で、第8期生の帰国報告会とレセプションが開かれた。毎年、中国全土から選ばれた優秀な高校生たちが、日本各地の高校で11カ月の研修生活を経験している。中国の高校や外国語学校で、第1外国語に日本語を選択している若者たちだ。帰国を控えた報告会では、自信にあふれた高校生たちの笑顔がそろった。
 日中交流センターの阿南惟茂所長は挨拶で、高校生たちが研修生活を振り返ってまとめた「作文集」について触れ、「何よりうれしいのは、高校生のみなさんが日本を理解しようとする過程で、自分に向き合う姿勢が強くあらわれてきたことだ」と指摘。
 その上で「生まれ育った社会と、文化や価値観が違う世界に接する経験から、『自分とは?』 という問いかけをみんながしている。それこそが異文化交流であり、この研修の一番の成果だ」と異文化交流の大切さを強調した。

 プログラムに協力する中国大使館教育処の一等書記官、楊光さんは、「この招へい事業は、日中関係にとってますます重要なプログラムだという感を深くしている。28人の生徒さんは、よくがんばりました。日中関係の厳しい時期に、青少年交流に力を入れる関係者の皆様に、中国政府と中国大使館を代表して心から感謝を申し上げたい。私も微力ながら、日本でも中国でもがんばります」と挨拶。
 この4年間、プログラムを見守ってきたという楊光さんは、まもなくの帰任を前に、感動した面持ちで感謝の意を明らかにした。

 来賓で、中国に留学経験のある衆議院議員の菊田真紀子さんの挨拶に続いて、第8期生の11カ月を振り返るDVD映像が流れ、8人の元気な研修生活が紹介された。
 宮城県の仙台育英学園・秀光中等教育学校で寮生活を送った王若寒くんは、北京市の出身。日本のアニメやゲームが大好きで、学校では模型工作部に入部。いろいろなプラモデルを積極的に作ったという。
 「日本のプラモデルは材質がいいし、パーツもちゃんとしている」と目を輝かす。アニメにも詳しくて「日本人以上に、アニメのことを知っている」と仲間たちは声をそろえる。

王若寒くん
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Tシャツに全員からメッセージをもらいました
connect_heart03.jpg  楊沐渓さんは遼寧省出身で、大阪府立大手前高校で研修した。ホストファミリーの「お母さん」は茶道の先生で、毎月のお茶会にも参加。正座して足がしびれ、ふらついたこともあったが、日本人でもあまり体験できないことにチャレンジできて「幸せだった」と振り返る。帰国したら、友人たちに茶道を紹介したいと思っている。

楊沐渓さん
connect_heart04.jpg  上海市出身の束親欣さんは、鹿児島県の神村学園高等部で研修。年に1度の学校行事、サンドクラフト大会に参加して、クラス対抗で砂のオブジェを作った。みんなで相談し、協力し合って"自信作"を作りあげた。クラスメートが、何かと話しかけてくれたのがうれしかったという。

束親欣さん
connect_heart05.jpg  三重県の三重高校で研修したのは、福建省出身の張婷婷さん。伝統文化に関心があり、華道を学んだ。ホストファミリーの「お父さん」には、日本でもっとも格式の高い伊勢神宮を案内してもらった。本を読むことだけが勉強ではない、いろいろな所へ行って、いろいろな人と話す、そういったことすべてが勉強だと気がついた......。

張婷婷さん
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帰国前研修オリエンテーションで
connect_heart07.jpg  映像の後は、生徒代表による活動報告が行われた。河南省洛陽市出身で横浜市立みなと総合高校で研修した王文嘉さんと、映像でも紹介された上海市出身、大分県の岩田高校で研修した伏詩宣くんの2人だ。 いずれもパワーポイントを駆使して、流暢な日本語で研修成果を報告。会場からは時折「ほう」といった感嘆の声が漏れていた。

王文嘉さん
connect_heart08.jpg  この後、阿南所長から修了証書が1人ひとりに手渡された。阿南所長はその都度、生徒に励ましの声をかけた。
 生徒を代表しての謝辞は、張天鴻くん。遼寧省の出身で、北海道の立命館慶祥高校で研修した。寮の仲間とロックバンドで演奏し、温かなホストファミリーと出会った喜びを語った上で、「私たちを支えてくださった全ての方々に、心から感謝します」としっかりとした日本語で感謝の意を表した。

 28人の笑顔が清々しい。続くレセプションではさらに詳しく、高校生たちに研修生活の思い出や将来の夢を聞いた。次回以降で報告したい。

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日本の大学への留学を考えている人たちのための説明会を開催


(取材・文 二井康雄、小林さゆり)


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留学ドキュメンタリー
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