雑誌『をちこち(遠近)』
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「新型コロナウイルス下での越境・交流・創造」インタビュー・寄稿シリーズ<2>
「Art Center Ongoing」代表 小川 希さん

2020.10.15
【特集073】

特集「新型コロナウイルス下での越境・交流・創造」(特集概要はこちら )インタビュー・寄稿シリーズ第2回は、東京・吉祥寺でギャラリーやカフェを併設する芸術複合施設「Art Center Ongoing(以下、Ongoing)」を設立、代表を務める小川希さんにお話を伺いました。アートを通してさまざまな人々が集まり、交流する場を大切にしてきた「Ongoing」ですが、緊急事態宣言発令時には一時閉鎖も余儀なくされました。小川さんはこの状況の中、どのように活路を見いだしているのでしょうか?

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――そもそも、2008年に「Ongoing」を始められた経緯からお聞かせいただけますか?

2002年くらいから毎年1回、「Ongoing」という公募展をやっていたんです。廃校や街中の飲食店等、場所やテーマを変えながら、参加作家も、彼ら自身がお互いにプレゼンし、投票し合って決めていました。お金もないし、コネもないから、会場には公的な場所を探して「こういうのをやりたいんですけど」と片っ端から電話して。ちゃんと社会と地続きというか、つながった場所でアクションを起こさないと意味がないと思っていたんです。
延べ300人以上の同世代の作家との出会いを通じて、お祭りみたいに年1回だけでなく、もう少し恒常的に彼らが集えたり、アートが好きな人たちもぶらっと遊びに来て、作家と出会えたりする場所をつくれたらいいなっていう思いがずっとあったんですよね。それを周りの作家たちにも昔から言っていたので、延べ100人くらいが空き物件の改装を手伝ってくれて、ここができたんです。

――武蔵野美術大学在学時から、アートマネジメントを勉強されていたのですか?

いやいや、僕は大学や大学院の時も自分で制作していて、ここをつくるときに、制作と両方やる体力や時間がないからプロデュースする側に回りました。場所をつくって、自由に自分たちで考えて、自分たちの価値をつくっていくということに興味があったんです。

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「Art Center Ongoing」前で。壁画はフィリピンのアーティスト、デックス・フェルナンデスが手掛けた

――2011年の東日本大震災後も休まず営業を続けていたそうですが、2020年4、5月は緊急事態宣言の発令を受けて設立後初めて展示を中止されましたね。コロナの影響はいかがですか?

展覧会ができなくなった人も何人かいました。僕は文化庁の新進芸術家海外研修制度でオーストリアに2021年3月から1年間調査に行く予定なので、ここは一度閉じて、帰国後移転して再開することにしていたんです。閉じることが決まっていなければ会期をずらすだけでよかったんですが、この場所の最後の1年間ということで、作家たちも展示にとても気合いを入れていたから、展示ができなくなった人には申し訳ないと思って。外部の人とコラボレーションするはずが、コロナで会えず、制作ができなくなった作家もいましたね。
ディレクターを務めている、中央線沿線を舞台にしたアートイベント「TERATOTERA」でも、2020年は5月に東南アジアと日本から各3組くらいアートコレクティブ(集団)を呼んで、展覧会やシンポジウムをやろうとしていましたが、全部中止になってしまいました。実際に東京でさまざまなコレクティブが集まれなくなったのはとても残念だったのですが、代替案として10月15~18日にオンラインでやることにしました(現在開催中)。
また、海外アーティストを受け入れる「アーティスト・イン・レジデンス」でも、年間5人ほど、2カ月程度ずつ滞在してもらい、展覧会を行っていましたが、全作家が来られなくなってしまいました。彼らのために用意している住居の家賃も払い続けていて、きついですね。

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2015年に「Ongoing」に滞在したレジデンス作家、ディアドラ・マックケナ(手前中央)を囲んで(本人提供)

――コロナに対抗し、どんな取り組みをされていますか?

8月から「Ongoing Stamp Card Drawing Project」というのを始めました。ここでのイベントやドリンクと引き換えられる回数券をつくり、裏にはゆかりのある国内外のアーティストたちが直筆のドローイングを描いてくれたものを1万円で販売しています。チャリティーにもかかわらず、思いのほか多くのアーティストが「自分にも描かせて」と1人2、3枚描いてくれて、200枚限定の予定が250枚くらいつくってくれたんですよ。「つぶれてほしくない」という思いをいろんなアーティストが持って、快く引き受けてくれて、すごくありがたいです。今140枚くらい売れていて、新生「Ongoing」でも使えるようにしたので、オーストリアから帰国後には、ますます新しい場所をつくらないといけなくなりました(笑)

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アーティスト直筆のスタンプカード。絵柄はホームページにも掲載している

また、5月から、「オンゴーイング・スタジオ」と称して、アーティストたちによるコロナ事情や制作についての投げ銭形式のトークをYouTubeで配信しています。ただ、見てはもらっても全然投げ銭は入っていないんですけど(苦笑)、少なからずトークを通して展示やアーティストに興味を持ってくれるという意味では、お金にならなくてもネットでイベントをやるというのは、やっぱり重要だと思っていますけどね。

「Ongoing」は本当にずっと自転車操業というか、人が1週間来ないとなるとつぶれてしまうというところがあるから、そのサイクルを止めずに2週間の展示を間髪入れずにやり続けないといけなくって。コロナで展覧会もできず、人も来なくてこのままつぶれてしまうかもとも思ったけど、「Ongoing Stamp Card Drawing Project」や「オンゴーイング・スタジオ」をやって、なんとかしのいでいます。でもやっぱり精神的には......人が常にいっぱいいた場所だから、それが突然誰も来られなくなって、オンラインでつながるのもやりましたけど、「なんかこういうのじゃないよな」とも思いましたね。でも、周りの人たちもいろいろ応援してくれましたし、立ち止まっていてもしょうがないよな、というのはあります。

――コロナ以降、アートや社会の状況を見ていてどう思われますか?

人と出会えなくなって、アートっていうものが機能するのかな? ということはすごく考えます。すべてがデータ化されて、そこに自分が行かなくともアートに触れられるようになってしまうのかなと思いますけど、そうすると、こういう場所は本当に要らなくなるなって。でも、そうでなくて、もっと泥臭いというか、直接的なつながりみたいなものを求める人たちが集まってくる場所だから、アンダーグラウンドになっていくのかなと思いますけど。

――秘密裏で開催するような(笑)

そうそう(笑)。直接人に会って、ライブ感で何か創作をするという欲望自体はきっとなくならないから。そうやってアンダーグラウンドになっていくのも、それはそれで面白いなと思いますけどね。

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アーティストらと屋上につくった庭園。野菜は収穫してカフェで提供することも

――この社会の変動の中で、考え方に変化はありましたか?

どうなんだろうな......。今、いろんなポリティカル・コレクトネス* 的な動きが世界中で起こっていて、アートの世界にもそういうのが流れてきて、いいことだと思うんですけど、そういう方向性だけだとつまんなくなっちゃうなぁとなんとなく思います。コロナで人と距離をとらなきゃいけなくなって、潔癖になっている中、社会で今まで隠されていたゆがみが明るみに出てきた時に、それを撲滅しようとか、「正しさ」を求めようとするのが、それだけだと少し気持ち悪いなと思っていて。アートとして、正しいことより面白いことをやれる場所をつくりたいし、人が集まって、時空間がすごく満たされて楽しいとか、かけがえのないものに思うとか、アートってそういうものだったのになぁと思って。頭だけで問題を考えていくような時代になってしまっているのかな。もう少し社会に対して、当たり前だと思っていたものが当たり前でなくなるように、全然違う価値観を提示するということにアートの意味があるのになぁと思います。
「これが正しいから、アクションを起こそう」というのは疑ってしまう。ここで集まって、今社会で起きていることについて「どう思う?」というところから始めて、いろんな意見が出るという状況が好きなんです。誰も排除しないし、知らない人もいていいという。

――小川さんはアートに関わる人々と「Ongoing Collective」というアート・コレクティブも結成されていますが、どうして始められたのですか?

2016年に国際交流基金アジアセンターフェローとして、東南アジアを3カ月間回ってアートスペースをリサーチした際、たくさんのコレクティブを見て、こういうものが日本に今必要だなと思いました。帰国後、協働で何かをできそうな人50人くらいに声をかけてすぐに立ち上げました。いろんな人がいて、いろんな意見をフラットに言い合える場として、別に展示もしなくてもいいし、なにかしらアートを通じて人がつながれる共同体のようなものが必要だなと。3分の2は作家で、残りはキュレーター等の裏方です。緩くて、全然方向性は定まらないけど、みんなが従わなくてもいいし、全員が参加しなくてもいい。

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国際交流基金のフェローとして、インドネシア・ジョグジャカルタのコレクティブ「Ruang MES 56」のスペースを訪れた際の一枚。同コレクティブは2020年の「TERATOTERA祭り」にも招いた(本人提供)

僕はここをずっと一人でやっているけど、僕が全部決めて、ぐいぐい引っ張っていくのには限界が絶対くるから、それよりみんなで緩く、なんとなく方向性が決まっていくほうが未来があると思ったんです。
基本的にはみんなバラバラとここで会っていて、全員揃うのは1年に1回の総会ですが、今はそれもできなくなっているから、2カ月に1回くらいオンラインでつないでミーティングをしています。コレクティブの中でもいろいろな意見が飛び交うので、考える機会になって面白いです。

――コレクティブの中で、180度違う意見があるときはどうするのですか? どれかに決めるとか?

どれかに決めるところまでまだ追い込まれていないですが、誰かがどこかで引くのかもしれないですね。コレクティブとして表明や声明を出すようなことは僕はすごく嫌いだし、別にみんなが一本になる必要もない。「違いがあるっていうことがわかったね」というので良くて、「お前の考えは間違いだ」とは言わなくてもいい。

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冨井大裕さんの個展「紙屑と空間」開催中のギャラリーにて(現在は終了)

――多様な人との共存の在り方について、コレクティブには可能性がありそうですね。

そう思います。一つの考え方に固執しないためにコレクティブは有効だと、なんとなくみんな気付き始めているんじゃないかと思います。自分と同じような人たちが、同じ方向を向いていたと思いきや、実はみんな微妙に違う考えを持っていることの面白さに気付いている人は多いんじゃないですかね。一昔前まで「アートはこういうふうにやって、こうやると成功」という筋道があると勘違いしていたのが、そんなものはないんだとようやく気付き始めたように、自分の信じているものが絶対ではないと知るために、コレクティブは機能するんだろうなと思います。
許しあう心というのは、コレクティビズムの本質的なことかもしれないですね。「絶対こうじゃないといけない」という考えではなく、お互いに譲り合うことは共存のために必要ですよね。僕は"正義"というのが嫌なんです。正義なんて、結局どっちかの視点での正義でしかないから、それが真逆のものにだってなり得るとわかりながら生きないと。絶対的な自分の正しさみたいなものを信じてしまうと恐ろしい。それはコロナの状況下でも露見してしまったように思います。アーティストには、比較的柔軟性を持っている人たちが多いから、その姿勢に学んでいくことは重要なことかもしれないですね。

* ポリティカル・コレクトネス
人種・性別・宗教等の違いによる偏見や差別を含まない、中立的な表現や言葉を用いること

ogawa08.jpg小川 希(おがわ のぞむ)
1976年、東京・神楽坂生まれ。2001年、武蔵野美術大学映像学科卒。2004年、東京大学大学院学際情報学府修士課程修了。2007年、東京大学大学院学際情報学府博士課程単位取得退学。
2002年から2006年にわたり、東京や横浜の各所を舞台に若手アーティストを対象とした大規模な公募展覧会『Ongoing』を、年1回のペースで企画、開催。その独自の公募・互選システムにより形成した数百名に上る若手アーティストネットワークを基盤に、既存の価値にとらわれない文化の新しい試みを恒常的に実践し発信する場を目指して、2008年1月に東京・吉祥寺に芸術複合施設「Art Center Ongoing」を設立。現在、同施設の代表を務める。2013年には国内外の作家を招き、滞在制作させるレジデンスプログラム「Ongoing AIR」を開始する。
2009年より東京都から依頼を受け、JR中央線高円寺駅から国分寺駅周辺を舞台に展開する地域密着型アートプロジェクト「TERAOTERA」のチーフディレクターに就任。アート、音楽、ダンス、映像などさまざまなアートを街中で展開している。2016年には、国際交流基金のフェローシップを獲得し、東南アジア9カ国83カ所のアートスペースのリサーチを行った。

Art Center Ongoing http://www.ongoing.jp
TERATOTERA http://teratotera.jp/


2020年9月 於・東京「Ongoing」
インタビュー・文・写真:寺江瞳(国際交流基金コミュニケーションセンター)
※インタビューは新型コロナウイルス感染対策に配慮して実施しました。

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