雑誌『をちこち(遠近)』
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004 国境を越えるマンガ研究

ジャクリーヌ・ベルント
京都精華大学マンガ学部教授

201011-01.jpg  日本マンガがグローバルな若者文化の一部となるにつれ、それをめぐる学術研究も国境を超えつつある。日本マンガ研究は、フレデリック・L・ショット(Frederik L. Schodt)の画期的な著書『Manga! Manga! The World of Japanese Comics』(1983年)を出発点に、主に日本語のできる評論家あるいはジャパノロジスト(日本研究者)によって行われてきたが、近年、日本とは直接関係のないコミックス専門家も言及をはじめ、また、海外でマンガやアニメと触れながら育った若手研究者が学位論文の題材に選ぶ分野となってきている。つまり、マンガ研究を行う動機として、マンガの経済力あるいは表面的な話題性だけではなく、国籍を問わずコミックス自体に寄せられる興味や、日本文化あるいはそれが代表する21世紀初頭の文化の考察、さらにファン・カルチャーでの活動に由来する関心があげられる。

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 マンガ自体のグローバル化にふさわしい形でマンガ研究者の交流を促すために、京都精華大学国際マンガ研究センターは、2009年12月に第1回国際学術会議を開催(*1) 、2010年秋には、第2回の会議をドイツのケルン日本文化会館において、国際交流基金とケルン大学、ライプツィヒ大学、そしてチュービンゲン大学と共催して開催した(*2) 。ドイツ語圏や英語圏、ベルギー、イタリアに加え東欧の研究者も参加したこの会議は、マンガ/コミックスに限らず、それをめぐるインターカルチャー(異文化交流)とトランスカルチャー(文化横断)という2つの側面に焦点を当てた。この文化論的テーマを設定したところ、企画者の予想を超えるほどの多数の研究者から、会議にて、欧米コミックスではなく、まさに日本マンガについての報告をしたいとの声が寄せられた。

201011-04.jpg  基調講演でショットは、日本マンガが従来から持つ国際性と日米におけるコミックス/マンガのローカライゼーションを振り返った。彼のように、「マンガ」と「交流」といった両面をバランスよく絡み合わせる発表こそ珍しかったが、ドイツにおけるマンガ家を調査したカナダ人独文学者P・マローンと、マンファ(韓国のマンガ)言説を分析した山中千恵による問題提起は、報告者自身の立場を含めて文化横断的な特質があった。また、国単位の「異文化」だけでなく、商業誌と同人誌との「交流」も論じられた。会議の3日目に行われたワークショップ「マンガ研究への挑戦としてのNARUTO」では、表智之が日本マンガ雑誌論を提示し、藤本由香里はヤオイ的な読み方が果たす役割について紹介した。最後に、伊藤剛は、これら越境的マンガ研究を、マンガ文化への関心を共通の底流とする「渦巻き」のようだと例えた。ケルン会議で、まさにその「渦巻き」の一つとして話題になったのは、マンガの学術研究の障害ともなる著作権問題である。そうした研究を含む交流を2011年秋、韓国・富川(ブチョン)で継続しようと、企画を進めている。

*1 第1回国際学術会議「世界のコミックスとコミックスの世界――グローバルなマンガ研究の可能性を開くために」/Comics Worlds and the World of Comics, 1st International Conference, Kyoto International Manga Museum, Dec. 18-20, 2009。そのプログラムと(無料ダウンロード可能な)和英論集はこちら
さらに、筆者による報告記事はこちら

*2 「異文化交流と文化横断的な流れ:マンガ/ コミックス」/Intercultural Crossovers, Transcultural Flows: Manga/Comics, Sept. 30 - Oct. 2, 2010. プログラムはこちら


201011-03.jpg ジャクリーヌ・ベルント Jaqueline Berndt
京都精華大学マンガ学部教授(マンガ理論担当)・マンガ研究科長・国際マンガ研究センター副センター長。
1963年生まれ。国籍:ドイツ。1991年以来、日本在住。
1991年、ベルリン・フンボルト大学にて博士号(美学・芸術学)
著書に『マンガの国ニッポンー日本の大衆文化・視覚文化の可能性』、『マン美研 マンガの美/学的な次元への接近』、『Reading Manga』がある。
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