寄稿シリーズ「中国知識人の訪日ストーリー」<4>
日本の環境汚染の歴史から見る、中国における河川保護の主な問題と動向

2020.11.24

国際交流基金は対日理解の深化や知的ネットワークの構築を目的として、中国で高い発信力を持つ若手・中堅の研究者、知識人を日本に招へいしています。本事業は2008年度の開始から11年間で、個人招へい101件、グループ招へい21件を実施し、累計で192名が訪日しました(2019年末現在)。
本事業の過去の招へい者に日中共通の社会課題をテーマにご執筆いただいたシリーズをお届けします。第4回は環境保護がご専門の河川保護団体「緑色瀟湘(Green Hunan)」理事長・劉盛さん(2018年度個人招へい)によるご寄稿です。

日本の環境汚染の歴史から見る、中国における河川保護の主な問題と動向

劉盛(緑色瀟湘理事長)

2018年7月16日から8月24日までの40日間、私は、日本で実施された「日本における河川の保護と一般市民の公益活動参加」をテーマとする視察・訪問に参加しました。日本滞在期間中、私は河川保護と公益活動に関係する10を超える非営利団体を訪問し、大いに得るところがありました。

日本の河川保護について研究することは、工業化・都市化発展の段階にある中国にとって、意義のあることです。私は、先進国の経済発展の各段階における主な環境汚染問題と、これらに対して一般市民と社会が示している主な関心と役割を見ることは、特に現段階の中国にとって参考になると期待していました。中国では、2015年に「水質汚染防止行動計画(「水十条」)が公布されてから、河川の保護に関わる工業汚染対策に大きな関心が集まるようになり、政策による対策もとられ始めました。また、農業や生活排水(農業汚染、生活汚染)が多くの河川の汚染源になり始めました。

アメリカやヨーロッパと比べ、日本の生活習慣は中国とほぼ似ていることから、農業汚染と生活汚染の由来には、参考となる大きな共通性があります。例えば、琵琶湖の汚染と汚染対策の過程は、中国にある数多くの湖沼にとって学ぶべき価値があり、すでに多くの交流学習プログラムが実施されています(例:江蘇省の太湖、湖南省の洞庭湖
琵琶湖は、1970年代初めから大量の工業廃水と農業・生活廃水による深刻な富栄養化*¹ が進み、深刻な赤潮被害がたびたび発生していましたが、30年余りの汚染防止対策を経て、今では澄んだ水と緑の岸辺を取り戻し、著名な観光地となっています。

工業汚染対策の重点は、政府の政策と企業が主体的に責任を担うことにあります。農業汚染と生活汚染については、一般市民に幅広く働きかけ、教育を行うことで、社会的な共通認識を形成する必要があります。汚染の主な原因が一般市民によるものである時、共通認識と集団での行動は特に重要です。
琵琶湖周辺では、数多くの小規模な非営利団体が、さまざまな水資源保護活動に従事しています。その例としては、ホタルの保護や、井戸水と湧水の研究を専門とする団体、廃油を利用したせっけん作り等、リサイクルの普及に取り組む団体があります。

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琵琶湖の水質の変化を示す年表(滋賀県立琵琶湖博物館にて)

琵琶湖周辺でホタルの保護活動に携わる皆さんと(左から2番目が筆者)

中国は80年代に、「西側先進諸国がこれまで歩んできた『汚染が発生してから対策を講じる』という道を歩まない」という方針を打ち出しました。しかしながら、これまでの歴史を振り返れば、私たちも先んじて環境を汚染していました。中国では、今も大々的な汚染源の移転が発生しており、移転は、都市郊外からさらに遠方の地方へ、東部から中西部へと広がっています。汚染は低減することはなく、より目に見えない形で進行し、ひいては大規模な移転を伴っているのかもしれません。このような産業の移転に伴う汚染源の移転は、工業化と都市化の過程では避けがたいことと思われます。

人間と水、人間と河川の間にはさまざまな関係がありますが、水を汚染しているのも人間です。一般市民が参加できる仕組みの作成、河川を汚染しない商品の開発を通じて、一般市民の関心を高め、河川の保護を進めるためにはどうすればよいのか。これは私たち、河川を注視する「リバー・ウォッチャー」が模索し続けている課題です。私たちは、「河川保護への一般市民の参加」を中核的な強みとして、「河川のある場所には、必ず見守る者がいる」という長期的な目標を掲げ、全ての人にリバー・ウォッチャーとなっていただくことを願っています。

日本から帰国する際、私はたくさんの資料を持ち帰りました。今も多くの情報を消化しているところであり、これらを自分の仕事で活用したいと願っています。日本の同業者の皆様と情報交換をした際には、自身が困っていることについてもお話ししました。道理を説くだけでは、一般市民は耳を傾けようとはしません。彼らが必要としているのは具体的な解決策であり、「どうすればいいのか」を教えてほしいのです。こうしたことについては、日本人の慎重さと緻密さに大いに啓発されました。なぜなら、現時点での中国の非営利団体は、大部分が「道理を説く」段階にとどまっているからです。

東京のNPO「雨水市民の会」は、専任スタッフのいない小規模な団体ですが、全国に約100名の会員がいます。同団体は、水質汚染に関わる全ての過程を表した「すごろく」を開発しました。また、同団体が開発したオフィス向けの雨水回収装置「雨水集水継手(レインキャッチ)」は、異なる建物の状況に応じて簡易に雨水を回収でき、私もすぐに自宅に取り付けたいと思わせられるものでした。私もすぐに10個買い求めた後、この「雨水集水継手」の発明者を訪ねました。ご本人は、私が使用することを許諾してくださり、中国での雨水回収の普及を勧めてくださいました。中国での雨水回収は緒に就いたばかりで知名度も低く、雨水回収に関する政策や一般市民向けの教育もほとんど実施されていません。

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雨水を回収する装置「雨水集水継手(レインキャッチ)」

今回視察した環境技術展では、「ゴミ拾いトング」を見かけ、そのデザインに強く引き付けられました。なぜなら、そのデザインコンセプトは、まさに私たちが「ビーチ・クリーン活動」を進める上での悩みの種にもヒットしていたからです。ゴミを拾う際には、トングでは大きなゴミをつまみ上げることはできず、長さもちょうどよいものはなく、持ち歩きにも不便です。このような商品を普及させることは難しいですが、ゴミ拾いは簡単なことではないということを理解してもらい、これを持っている人には、川岸に出かけてゴミを拾い、気軽に環境美化に取り組んでもらうよう勧めることができます。この「ゴミ拾いトング」は、日本の「グッドデザイン賞」を受賞しているとのことで、日本の「匠の精神」はここにも体現されているのだと感動を覚えました。

このような商品とシーンについては、京都市環境保全活動センターでも数多く見ることができました。子ども向けの「かんきょう図書コーナー」には、工業化の過程とゴミ分別の展示ゾーンがあり、屋上には稲が植えられているほか、たくさんの双方向型教育設備があり、子どものいる家庭は一日中楽しめます。ここで一日過ごすことで、特に教育的な話をしなくても、環境保全という種子がまかれ、育っていくのだと確信しました。ヒトから始め、モノから始めて、一般市民が参加する。これこそが、今回の視察・訪問を通じて私が身をもって体験し、得られた大きな成果でした。私は、今後とも努力を続け、このような日本の優れたデザインを中国に持ち帰りたいと思っています。

日本の公益活動では、インターネットの利用が普及していないという面も見られました。中国では、公益活動や社会イノベーションの領域でインターネットが幅広く利用されています。私は、日本滞在期間中にも中国での多くの事例を紹介し、河川保護と公益活動の状況を説明しました。なかでもネットを中心に活動するネット非営利団体の概念は、日本の多くの同業者の関心を集めました。リバー・ウォッチャーの使命は、「住民による地域の環境問題解決を支援すること」です。このため、私たちも情報のデジタル化を図り、SNSを整備し、第一線で活動するリバー・ウォッチャーに「オンライン河川巡視ツール」を提供しています。さらにネットを中心に活動する「巡河宝」プログラムを開発して、リバー・ウォッチャーの河川巡視任務をより簡便にし、スタッフが活動を継続できるよう後押ししています。

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「巡河宝」プログラムのトップページ

40日間の日本滞在期間中、私は40近くの団体と個人を訪問し、日本の河川保護と公益文化に対する理解を一段と深めました。中国同様、日本にも密度の濃い慈善文化があり、居住地域に対する関心が高い一方で、公益活動の気運は高まっていません。「人と防災未来センター」(神戸市)の視察では、日本の地震災害からの復興について理解を深めました。中国では、四川大地震が発生した2008年を「公益元年」としていますが、日本でも、阪神・淡路大震災が発生した1995年を「ボランティア元年」としていました。日本では、個人での参加をきっかけに発生したボランティアチームは、その後組織的な団体へと発展し、1998年に公布された「特定非営利活動促進法(NPO法)」の成立を後押ししました。この法律は、福祉、障がい者支援、災害救援、環境保全等を主な内容としています。甚大な災害と事象が環境問題解決の契機となっていることについては、日本と中国に変わりはありません。これは、人類が全力で復興に取り組むべき災禍であり、その結果としてより多くの共通認識が得られるのかもしれません。

1983年生まれで今年37歳の筆者(訪日時は35歳)は、大学卒業後24歳から公益活動に従事し、環境保全活動の経験は14年を超えました。所属する団体「緑色瀟湘」では、私は最年長の「長老格」になるのですが、日本で訪問した非営利団体、特に環境保護団体は、ほぼ全てが50歳を超える年配のメンバーで構成されており、対応してくださった理事の中には70歳を超える方も多く、私の名刺をご覧になった皆様の第一声は、「とてもお若いですね」でした。

日本における環境保全活動は70~80年代にはすでにピークに達していました。当時の主役はすでに60歳を超えています。若者が公益活動に意欲を示さないため、多くの河川保護団体も深刻な世代交代の問題を抱えています。若者が公益活動に意欲を示さないのは、報酬が少ないこと(これは中国も同様です)や、日本社会全体の高齢化のほかにも、大きな原因があると思われます。すなわち日本の社会では、環境問題はもはや最も重要な社会問題ではなくなったということです。最も重要な社会問題ということになれば、今の社会でも、最も勇敢で、最も熱意にあふれ、最もイノベーション意識の高い若者たちが事業を立ち上げ、取り組むことが期待できるでしょう。これは良いことともとらえるべきであり、日本の同業者の皆様は、私たちをうらやましく思う必要はありません。


*¹ 富栄養化......湖沼・内湾などに、地表水等の流入によりリン・窒素などの栄養物質が蓄積すること。限度を超えるとプランクトンが異常繁殖して汚染や腐水化が起こる(デジタル大辞泉)。

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劉盛(りゅう せい)
1983年生まれ。河川保護団体「緑色瀟湘」理事長として環境保護活動に従事。資金獲得に関するコンサルティングサービスを行う団体を設立・運営する中堅実務家としても知られる。2018年度国際交流基金日中知的交流強化事業に参加し、日本貿易振興機構アジア経済研究所の海外短期訪問研究者として大塚健司主任研究員のもと、日本における河川の保護と一般市民の公益活動参加をテーマに研究を行った。


本シリーズ<完>

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