アジア学生パッケージデザイン交流

森 孝幹(株式会社デザインフォース代表取締役)
富岡 順一(公益財団法人横浜市芸術文化振興財団理事)



 7月某日、アジア学生パッケージデザインコンテスト(ASPaC)実行委員会のメンバーは、タイにおけるパッケージデザインの現状調査と、バンコクで開催するパッケージデザインフォーラムのためTCDC(タイ・クリエイティブデザイン・センター)の1室を訪れました。
 そこで待っていたのは、タイパッケージデザイン界の先駆者であるオラサー教授。
 明瞭な日本語で「ようこそおいでくださいました!いつかこんな日が訪れることを40年以上待っていたわ!」突然の日本語に驚く実行委員会の面々をよそに、オラサー教授の日本語による熱い講義が続きます。オラサー教授は46年前千葉大学に留学、そこで学んだ日本のデザインノウハウをタイに持ち帰り、沢山のタイ人デザイナーを輩出した方だったのです。今回、国際交流基金バンコク日本文化センターが開催したタイのパッケージデザイン交流には、オラサー教授の教え子である大学の先生たちもオブザーバーとして参加し、タイと日本のデザイン交流の歴史を物語るものとなりました。

 ASPaCの審査員を務める森孝幹氏とASPaCを後援する公益財団法人横浜市芸術文化振興財団理事の富岡順一氏にそれぞれの立場からASPaC、各国でのパッケージ文化、国際交流の意義についてご寄稿いただきました。



パッケージデザインから見える文化や風土

森孝幹
株式会社デザインフォース代表取締役)

 日本と韓国から始まった学生によるパッケージデザイン交流は、今年アジアに対象国を拡大し、タイとインドネシアが参加、4カ国で新たにスタートしました。参加国が増えゆくASPaCは"アジアの今"を結ぶものです。

 海外に行った時に景色や街並、料理や人々との触れあいなど、新しい体験に出会うことは楽しみの一つです。楽しみと言えば、お土産や旅の思い出にその土地らしい商品を見たり買ったりも欠かせません。旅行関連のサイトや本には様々なその土地ならではの商品の紹介がたくさん掲載されていますし、旅先のスーパーマーケットやコンビニはもちろん、空港などさまざまな店で見る商品は、見ているだけでも楽しめます。その土地で生まれ親しまれている商品を包むパッケージは、文化や風土を凝縮した小さな世界。お土産の代表格はお菓子ですが、スキンケアや飲料、調味料から雑貨、文具なども地元の人はもちろん、旅行者にも人気です。

asian_student_package_design01.jpg asian_student_package_design02.jpg  パッケージは、商品表現だけに留まらず、各種プロモーションや広告的側面を持ったり、あらゆるメディアを取り込むブランドの核であるとも言えます。各国のパッケージと、その特徴を一部お伝えします。

 日本のパッケージは、美しさや"間"を大切にしたデザイン、安心安全を担保する最先端の工夫、エコやサスティナビリティの追求などが特徴です。
 韓国のパッケージは、魅せるアイデアがあるデザイン、そしてプロモーションや広告を取り込んだ派手なものが多く見られます。
 タイのパッケージは、明るく元気なデザインで、日本の制度をモデルにしたという一村一品運動(OVOP)で政府公認のMADE IN THAILANDが人気です。
 インドネシアのパッケージは、豊かな色彩とローマ字を使う国ゆえの統一感、そしてハラル食品とハラム食品の徹底的な区別などが特徴です。

 色は同じ赤でもいろいろな赤色があり、それぞれの色が持つ意味や根源が違ったりします。柄も多種多様でリズムを感じるものが多く、伝統的な音楽や生活習慣などと繋がっているとも言われています。地理的に近い国である日本と韓国、タイとインドネシアでも違いがはっきり出ていて、パッケージのデザインからその国々の風景が見えてくるようです。

asian_student_package_design03.jpg asian_student_package_design04.jpg  以上のように、パッケージは、その国の今昔を映す貴重な資産であり、そこで暮らす人々の今を理解するのに最適であると言えます。そのためASPaCは、デザインコンテストの開催で「デザインの交流」を推進しています。そして、ASPaCが他のデザインコンテストと一線を画すのは、更に真の交流を深めるため各種フォーラムやワークショップから合同研修といった「人の交流」をも主眼においた新しいカタチのデザイン国際交流であるということです。

asian_student_package_design05.jpg  参加国のパッケージデザインを通じて、お互いの伝統や文化に興味を持ち、理解をより深め、各国の芸術、美術系大学や専門学校で学ぶ学生や先生、一線で活躍するデザイナー、そして商品を作っているさまざまな企業、"パッケージ"に関わるあらゆる人が集い交流する。その集いは相互理解はもちろん、相互研鑽にも作用し、アジアのパッケージデザインレベルの向上へ繋がり、そのことがアジアの商品力アップにもなり得るでしょう。また、アジアのデザイナーが一つになれる道へと続いているのかもしれません。
 海外の仕事を受けたいデザイナー、現地でのネットワークを作りたい企業、海外で働くことも視野に入れて就職活動する学生が増えているので、他国のデザイン事情を知り、ネットワークを持つことには大きな価値があります。その大きな価値を産み出すASPaCは、アジアの"今"を牽引している企業やデザイナー、"これから"を担う大きな可能性を持つ学生、"パッケージ"に集う国際交流事業であり、果たすべき役割は大きくなっていくと言えるでしょう。



ASPaCによる国際交流

富岡 順一
(公益財団法人横浜市芸術文化振興財団理事)

 「アジア学生パッケージデザイン交流事業」(ASPaC)は、2010年及び2012年に実施した「日韓学生パッケージデザイン交流事業」が2014年から参加国にタイ、インドネシアを追加してASPaCへと拡大したものです。両事業では、主要プログラムとしてデザインコンテスト、作品展、デザインフォーラム、受賞学生の研修、ワークショップを行っています。「日韓学生パッケージデザイン交流」同様、ASPaCにおける国際交流は、学生同士の交流、学生とプロのデザイナーの交流、プロのデザイナー同士の交流が行われています。

 2010年は韓国の受賞学生が日本へ行き、2012年は日本の受賞学生が韓国へ行って交流しています。滞在は約1週間ですが、その間両国の学生が同じホテルに泊まり、表彰式、作品展、企業研修、ワークショップと全員がともに行動をして交流し、デザインについての情報交換、食事や市場視察などで親睦を深めています。現在もメールやLINEなどで情報交換するなど交流が続いています。ASPaCでは、タイ、インドネシアの学生も加わり、4カ国の学生がコンテストから研修が終わっても交流を続け、新しい刺激を与え合うものと思っています。

asian_student_package_design06.jpg asian_student_package_design07.jpg  ASPaCでの学生とプロのデザイナーの国際交流は、タイ、インドネシアで開催したワークショップで実現しています。学生は、チーム毎に与えられた課題について、コンセプトワークと新しいパッケージデザイン制作を行い、最後に日本と韓国のデザイナーから評価をもらいます。学生にとっては、自分たちが作成したコンセプト、パッケージデザインについて海外(日本と韓国)のプロの目で判定してもらい、評価・コメントをもらうという学校の授業では受けられない経験をしています。

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タイでの国際交流とASPaCデザインフォーラムの様子

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インドネシアでのワークショップの様子

 プロのデザイナー同士、デザイン関係機関との国際交流は、タイ、インドネシアで開催したデザインフォーラムに関連して行われています。ASPaC実行委員で日本パッケージデザイン協会の森孝幹理事がタイ、インドネシアで開催したデザインフォーラムの講演者として同行され、現地のプロのデザイナーやパッケージ関係機関との打ち合わせに参加し、情報交換を含めた交流を行いました。

 日本と韓国には「パッケージデザイン協会」が存在しますが、タイ、インドネシアでは、これから設立等の検討を始める段階であり、タイ、インドネシアに「パッケージデザイン協会」を設立するための協力もこれからのASPaCの役割の一つでもあります。

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タイでの国際交流とASPaCデザインフォーラムの様子

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インドネシアでの学生、デザイナーの国際交流の様子

 日本、韓国、タイ、インドネシアの4カ国が参加するASPaCは、パッケージデザインコンテスト、学生研修を中心に学生の育成が目的ですが、以上述べてきたように、学生同士、学生とプロのデザイナー、プロのデザイナー同士による国際交流も目的の一つとなっています。

 今回のタイ、インドネシアで開催したASPaCデザインフォーラム、ワークショップを通じて感じた点は、どこの国のパッケージデザインが進んでいるということより、お互いに学ぶことが多かったということが分かったことです。今回参加の4カ国だけでなくアジア全体のパッケージデザイン「力」の向上を目標にASPaCを軸とした国際交流の促進がますます求められていると思います。





asian_student_package_design15.jpg 森 孝幹(もり たかき)
株式会社デザインフォース代表取締役。1969年生まれ。立命館大学卒業。都市計画/建築デザイン企業を経て出版社に勤務。出版社時代に大手代理店でデザインやディレクションを経験。2001年起業。文字やデザインによる"コミュニケーションの最適化"をコンセプトに、企業、商品、公共団体からの伝統工芸品のブランド化を手掛ける。2007年~公益社団法人日本パッケージデザイン協会理事。JPC賞部門賞、iF賞入賞など入選、入賞多数。グルマン世界料理本大賞グランプリ受賞。

white.jpg asian_student_package_design16.jpg 富岡 順一(とみおか じゅんいち)
公益財団法人横浜市芸術文化振興財団理事。1974年慶応義塾大学商学部卒業後、株式会社資生堂に入社。フランス駐在、本社商品開発部を経て、資生堂インターナショナル副社長。ピエール・ファーブル・ジャポン商品開発部長、在仏日本国大使館一等書記官(広報文化担当)、ピエール・ファーブル・ジャポン代表取締役社長を務めた後、国際交流基金文化事業部長、事業開発戦略室長、日中交流センター事務局長。




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