雑誌『をちこち(遠近)』
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東京オリンピックでスーダン選手を

砂川 航祐(レスリング選手、学校法人 日本体育大学 柏日体高等学校教員)



国際交流基金(ジャパンファウンデーション)は、スーダンの首都ハルツームにレスリング・コーチとして砂川航祐氏を派遣し、現地有力選手に対するレスリング実技講習を行いました。スーダンでは、3千年以上受け継がれてきた伝統的なスーダンレスリング(「ヌバレスリング」)の人気は高いものの、オリンピック・レスリングルールが十分に浸透していないため、国際的な選手が育ちにくい現状にあります。 そこで、2012年の全日本学生選手権覇者であり、現役選手としても活躍する砂川氏が直接現地に赴き、オリンピック・レスリングルールに基づく実技講習を行いました。今回の指導期間中、「ヌバレスリング」の試合にもチャレンジした砂川氏が、スーダンでのリスリング指導を通して感じたこと、今後のスーダンとのレスリング交流についてご寄稿くださいました。





スーダンへレスリング指導に

 今回、日本レスリング協会・国際交流基金の協力で2020年の東京オリンピックにスーダン人選手を輩出するために、アフリカのスーダンに昨年の11月に1ヶ月、今年の2月に1ヶ月、合計2ヶ月間滞在し、オリンピックレスリングの指導を行ってきました。

 このお話を頂いたときに、はじめ「スーダン」という国がイマイチ頭でイメージできませんでした。アフリカにあるのは分かっていたのですが、「どのような国だろう」と思ったのが正直な感想です。昨年11月に世界を恐怖に陥れていた「エボラ出血熱」など、日本のアフリカに対するイメージはあまり良くないもので、加えて2月にはイスラム国による「日本人ジャーナリスト人質事件」もありました。このような状況の中で、家族・友人にスーダン行きを心配され、私も多少ではありますが、不安になっていたのは事実です。私自身、海外へは何回か行ったことがあったので心配はなかったですが、アフリカましてや途上国へ行く機会はほとんどないですから、スーダンへ行くまでは楽しみ反面、不安な毎日でした。



言葉の壁

 スーダン人に指導していくうえで一番大変だったのが、「言語の問題」です。
 こればかりはどうにもなりませんでした。英語圏ではなく、基本はアラビア語を話す一般人がほとんどです。スーダン人の中には英語もできる人がいますが、ほとんどが話せないという現状です。
 ありがたいことに、練習中はスーダン人の通訳がついてくれました。しかし、日本語が上手というわけではありません。日常会話、しかも単語でしか聞き取れないし、話せないというのが現状でした。そのレベルで、レスリングの指導がスムーズにいけるかいけないかを聞かれると、いけません。やはり、どんなスポーツの指導において「口で説明する」というのは必ず必要だからです。その中で、合計2ヶ月指導したわけですが、その間に選手、レスリング協会、オリンピック協会などスーダン人の気持ちの変化が見られました。

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(上・下)スーダン人選手に対するオリンピック・レスリング指導の様子。現地「ヌバ・レスリング」とのルールの違いに苦戦。

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多くの観衆が見守る中、「ヌバ・レスリング」親善試合にも参戦。



スーダン人の気持ちの変化

 まず、一番驚いたのはスーダンのオリンピック委員会です。2月18日にあったスーダン側との会議で日本側は、伊藤大使、反町書記官、そして私。スーダン側は、スポーツ省の副大臣、オリンピック委員会の副会長や幹部の方、レスリング協会会長などトップに近い方たちが会議に来てくれました。ここでの会議の主な内容としては、これからどのような過程をふんでいけばオリンピックに出場できるのか、レスリングの練習はいるのかなどで、この会議ではいい点と悪い点がありました。いい点は、オリンピック委員会がさまざまなことを考え、行動を起こそうとしていたところです。彼らに言われたことは、「日本にコーチと選手を送り、10日ほどレスリングを勉強させ、スーダンにそれらの技術、ルールを持ち帰りスーダンレスリングの発展を目指したい」。これほど具体的に考えているなんて思いもしなかったので私たち日本側は、とても驚いたことを鮮明に覚えています。悪い点としては、彼らトップの人間はこの会議まで一度も練習を見学に来なかったことです。そのくせに、「なぜ砂川さんが、ルールや技術をもっと教えてくれないんだ」と言うわけです。私は、その言葉を聞いて失望しました。
 「満足に練習人数もいない。練習に来るメンバーも日に日に少なくなる。こんな状態でどうやってレスリングを教えていくんだ。そこまで言うのなら一度練習に来てくれ」と声を大きくして言いました。
 その数日後すぐに、オリンピック委員会の幹部の方が練習に来てくれました。通訳を使って、どの選手が有望だとか、いまこんな練習をしているなど様々なことを説明したら満足そうに帰って行きました。

 今回の経験を通して、スーダンの人たちは日本人とは国と国が違うだけで、こうも考え方や、行動力が違うものなのかと、考えさせられました。しかし、このような貴重な経験を糧にして、今後の生活や教員としてのスキルを向上させたいと思います。また、今回指導した選手の中から将来東京オリンピックに出場する選手が生まれ、今度は東京にて再会できることを、心から願っています。

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(左・右)親善試合終了後、大いに盛り上がるハッジユースフ競技場。「レスリング」を通じて、現地選手や観衆と一つになった瞬間。

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講習に参加した選手の皆さんと

 最後にこの事業に協力してくださった日体大松浪理事長、日本レスリング協会、国際交流基金のみなさんには、ほんとうに感謝の気持ちでいっぱいです。 ありがとうございました。





砂川 航祐 (すながわ・こうすけ)
4歳からレスリングを始め、今年で競技生活19年目。2012年 全日本学生選手権優勝、2013年明治乳業杯全日本選抜選手権3位、2014年世界学生選手権5位などの実績を誇る。現在、日本体育大学 柏日体高等学校で教員を務める傍ら現役レスリング選手としても活躍。




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