日本語力を生かして活動する外国人に聞いた!
日本語を学び始めたきっかけ、学習法は? 日本語の魅力とは?
【後半】

マーティ・フリードマン(ミュージシャン)
カロリン・エックハルト(漫画家)
ジェーニャ(声優)

日本語力を生かして活動する外国人に聞いた!
日本語を学び始めたきっかけ、学習法は? 日本語の魅力とは?【前半】

アニメ、漫画、J-POPをはじめとする日本のポップカルチャーが世界で注目を集め、それに伴い「日本語」への関心も高まっています。国際交流基金が世界各国の日本語教育機関を対象に実施した「2015年度日本語教育機関調査」の結果が間もなく発表される予定ですが、2012年度調査の時点ですでに、世界には400万人近い日本語学習者が! テレビやラジオ、インターネットなどで独習している人も含めると、日本語学習者の数はさらに多いことが予想されます。では、海外の人は何をきっかけに、どのような方法で日本語を学習するのでしょう。また、日本語に対する印象とは? それを知るべく『をちこちMagazine』は、日本語に堪能なミュージシャンのマーティ・フリードマンさん(アメリカ人)、漫画家のカロリン・エックハルトさん(ドイツ人)、声優のジェーニャさん(ロシア人)に、自身の日本語学習法や日本語に惹かれる理由などを聞いてみました。

母国語にはない日本語の表現、文字、響き――そこに魅力を感じる

学習方法は違えども、今ではハイレベルの日本語力を備える3人。とはいえ、習得する過程では苦労もあったようです。

カロリンさんは困惑したこととして「日本語のニュアンス」を挙げています。

「日本語は曖昧な言い回しが多く、相手が何を言いたいのか理解できず困ることがよくありました。今でも、建前と本音を聞き分けるのは大変です(笑)」

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漫画家を志し、札幌の専門学校で学んだカロリンさんは、2012年に念願の漫画家に。©Carolin Eckhardt/Shueisha

ジェーニャさんは、漢字があまり得意ではないといいます。

「アニメを見て音楽を聴いて耳で日本語を覚えたこともあり、読み書きが後回しになってしまいました。平仮名とカタカナは書けますが、漢字は今も苦手。文章を作成する時はパソコンを使うため、手で漢字を書く機会がほとんどないからです。手で書くスキルを身につけるより、会話力やイントネーションを磨くことのほうが私には必要だと思っています」

マーティさんは「未だに日々苦労している」とはいうものの、漢字には魅了されているようです。

「まず、漢字は見た目が美しい。それに、アルファベットと違って、漢字は1つ1つの文字に意味があってすごく面白いです。どんなに頑張っても覚え尽せないから、永遠に追求していられる。日本語を勉強している外国人に言いますが、漢字は怖くない。面白さに気づくと、日本語学習に飽きることはありません」

ちなみに、マーティさんが好きな日本語は「十人十色」「一期一会」「紆余曲折」など。4つの漢字が連なった四字熟語です。

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日本在住歴13年のマーティさんはギタリスト、作曲家、プロデューサーと多彩な活動を展開。

一方、漢字が苦手というジェーニャさんは、日本語に対する第一印象でもあった「響き」を一番の魅力的要素に挙げました。

「日本語はメロディにのせやすい言語だし、響きがかわいいから話していて楽しい! 敬語の言い回しも好きですが、私にはまだまだ難しいですね。敬語をスムーズに使えるようになれたらいいなと思います」

カロリンさんは、母国語であるドイツ語にはない、日本語独特の表現に魅力を感じています。その代表的なものが「いってきます」と「いってらっしゃい」。

「『いってきます』は単に『出かけるよ』ではなく、『これから出かけるけど、ちゃんと帰ってくるよ』という意味合いを持っていると思います。簡単なひと言なのに、送り出す側に安心感を与える表現ですよね。『いってらっしゃい』は普段なら『気をつけてね』という気持ちで言うんでしょうけど、場面によっては『必ず帰ってきてね』『いつでも歓迎するよ』『また絶対に会おうね』などの思いが込められている。言い方はシンプルだけど、とても奥の深い素敵な表現だと感じます。ドイツ語には『いってきます』と『いってらっしゃい』に相当する言い方はありません」

外国人だからこそ感じることのできる、日本語の美点や面白さ。私たち日本人も、母国語の豊かな語彙や表現に、もう少し心を寄せてもいいかもしれません。

日本人を相手にどんどん日本語を使うことがベストな学習法

今回の取材では「日本語を勉強している人たちにおすすめの学習法」についても聞いてみました。
ジェーニャさんは、目的意識を持つことの重要性を一番に挙げます。

「まずは、『何のために日本語を覚えたいのですか?』と自分に問うことからです。通訳を目指すためであれば、いろいろな人と会話する、ドラマやアニメを見る。翻訳家になりたいのなら、日本語の文章を読んだり、母国語で文章を書いたり。普段から自分の目的に合った学習環境で日本語に触れることが大事ですね。

そしてもう1つ。日本に住んで日本語を勉強しているなら、いつも自分の国の友達と一緒に行動していても始まりません。周りはネイティブスピーカーばかりなのだから、どんどん話す機会を作らないともったいないです」

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ジェーニャさんは声優、歌手、タレントとしてアニメにライブ、テレビと活動の幅を広げている。

カロリンさんからも「日本語にたくさん触れることが大切」というコメントが返ってきました。

「完璧じゃなくてもいい、日本語を使うことを恐れないでください。勉強したばかりの文法で自信がなくても、例文以外の使い方を試してみないと。間違えていたらどうしようと使うことをためらっていたら、永遠に上達しません。口に出してみて初めて、自分の使った日本語が正しいのか間違いなのかがわかります。正確な言い方ができた時には自信がつくし、更なる上達にもつながるはずです」

さらに、こんなアドバイスも。

「テレビを見るにしても、ただ聞き流しているだけでは時間の無駄です。ニュース、バラエティ、トーク、アニメ、どんなジャンルの番組もしっかり聞くこと。漫画は漢字にふりがなが振ってある作品から読み始めるといいかもしれません。そこからふりがななしの漫画、日本語の小説へと、ゆっくりステップアップしていくのが効果的だと思います」

マーティさんがプッシュする学習法は、自身が実践してきたことでもあります。

「テレビを見たり、雑誌を読んだり、音楽を聴くのはもちろんいいですが、興味のない分野だとあまり意味がありません。自分の趣味に合う音楽を聴く、本を読む。僕自身、自分の仕事や生活に密着した邦楽の世界を通じて日本語を吸収したから楽しみながら学べたし、実際に使う機会も多いです。さらにレベルを上げるには、絶対に日本語を話さないといけない状況に自分を持っていくこと。ちゃんと話さなければという精神的な圧力は、日本語を上達させます。これは断トツ、効き目のある学習法です」

臆せず恥ずかしがらず、積極的に日本人を相手に日本語を使うことがベストな学習法――。3人のアドバイスから、そんなメッセージを受け取ることができます。やはり、実践あるのみです!

「日本語を話す、聞く、読む、書くチャンスを絶対に逃さないようにすることです。そうすれば、必ず日本語は身につきます」

とは、マーティさんからの励ましの言葉です。

続いて、カロリンさんからのメッセージ。

「自分なりのやり方を見つけましょう。日本語を勉強していて楽しいと感じるのは書く時なのか、それとも話す時なのか。それを見つけて、自分だけの〝日本語との関係″を築いてください」

そして「日本語をしゃべっていると幸せを感じる」というジェーニャさんは、こう断言しています。

「外国語を一言語でも話せるようになると、人生が変わります。私がそうでした。それまで不可能だったことができるようになり、新しい扉が開くこと請け合いです」

外国語の学習に励むみなさん、自らの語学力をフル活用して活躍する3人の「習得に取り組む姿勢」を、ぜひ参考にしてみてはどうでしょう。

(編集:斉藤さゆり)

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Marty Friedman(マーティ・フリードマン)
アメリカ・ワシントンD.C.出身。カコフォニーなどのバンド活動を経て、1990年に世界的なメタルバンドに加入。その人気メガバンドで10年間ギタリストを務めて脱退した後の2003年、J-POPに魅せられて日本へ移住。以降、日本の音楽シーンでギタリスト、作曲家、プロデューサー活動を展開するほか、テレビやラジオ、映画などでもマルチアーティストぶりを発揮。2014年にソロアルバム『インフェルノ』(ユニバーサル)をリリース。画期的英語学習書『「ジョジョの奇妙な冒険」で英語を学ぶッ!』(集英社)の監修も務めている。

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Carolin Eckhardt(カロリン・エックハルト)
ドイツ・ポツダム市出身。13歳で日本語の勉強を始め、日本で漫画家になることを志す。ポツダムの高校に在学中の2004~2005年、札幌市の高校に留学。ポツダムの高校を卒業後の2007年に札幌に戻り、専門学校の札幌マンガ・アニメ学院に入学。卒業後、2010年から同学院で準教員として勤めながら漫画を描く。2012年に連載がスタートし、漫画家デビューを果たす。2014年に連載が終了したのを機に7年間暮らした札幌を離れ、新しい刺激を求めて東京へ。

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Jenya(ジェーニャ)
ロシア・ノボシビルスク市出身。ノボシビルスク国立経済経営大学IT学部卒業。2000年頃から自身のウェブサイトにて、日本語でアニメソングを歌って音声を公開。2005年に日本に移住し、プロの声優を目指して本格的な活動を開始。2009年に『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』でデビューし、以降、『プリティーリズム・オーロラドリーム』『クレヨンしんちゃん バカうまっ!B級グルメサバイバル!!』『ガールズ&パンツァー』などのアニメ作品に声優として出演。また、現在は歌手、タレントとしても活動している。

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