雑誌『をちこち(遠近)』
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気仙沼の色 - JENESYS東アジア次世代リーダープログラム・教育グループに参加して感じたこと

マルシア・ジョーンズ



 あらゆる所に色があります。私たちをほほ笑ませ、家庭や学校を陽気で居心地良くする、明るく、鮮やかで、幸せな色です。しかし、自然災害によって、そうした色が完全に消えてしまうことがあります。自然災害から立ち直って行く子どもたちが、再び明るい色を見るようになるまでには長い時間が必要かもしれません。特に周囲の大人たちが、自身の生活を立て直すのに懸命なときはそうなります。教育者は、若い人たちが自分の感情や不安と向き合う中で再び明るい色を見ることができるよう手助けするだけでなく、そうした色を創り出すのにも一役買うことのできる特別で恵まれた立場にあります。

 3月上旬に実施されたJENESYS東アジア次世代リーダープログラムは、16カ国から参加した教育者に、子どもたちが困難を乗り越える、しなやかな力を育むためのアイデアと経験を共有する機会を与えてくれました。私はニュージーランドのクライストチャーチで小学校教師をしており、幸運にもこのプログラムに招かれて参加しました。今回のプログラムは、参加者すべてにとって、それぞれの母国で発生した災害の後に教育分野で起きた問題を振り返って考える機会となりました。また、宮城県気仙沼市を訪問することにより、現地の学校が生徒たちの生活にどうやって色を取り戻しているかを実際に目にするという心温まる経験もしました。

 東北地方をはじめ世界各地の例からも明らかなように、子どもたちは災害から立ち直る力を持っています。けれども、母なる自然が世界中で途方もない力を見せつけている今、今回のJENESYS教育グループのようなプログラム通じて、教育者に互いに学び合う機会を提供することがますます大切になっています。実際、しなやかな力を構成する不可欠な要素のひとつは、単に困難を乗り越える力だけではなく、あらゆる経験から学び成長する力を持つことなのです。そうしたプログラムを日本で実施することで、国際交流基金は、子どもたちが自然災害から立ち直るのを手助けするために私たちが全力で取り組めるよう、他の人々の経験から学ぶことの価値を認めたことになります。

 JENESYS次世代リーダープログラムは、東南アジア諸国間の連帯の構築と教育者のネットワークづくりを目指す取り組みです。参加者を日本に招き、課題を分かち合い、学び、観察する多様な機会をフォーマル・ノンフォーマル組織の両方にわたり提供しています。それによって国際交流基金は、すべての参加者が、自分は東南アジア地域の一員であるという意識を高めて帰国することを可能にするとともに、教育者が助けを求めたり連絡を取り合ったりするのに役立つ、熱意にあふれたネットワークを築くことを可能にしてきました。

 気仙沼市教育委員会副参事の及川さんは、プログラム参加者に対し、災害が「起こる前から」地域コミュニティの中に友だちを作っておくことが大切だと話しました。JENESYS次世代リーダープログラムは、地元のコミュニティや学校を支えたいという共通の願いを持つ、様々な国からの参加者を結びつけることで、この考え方を国際的な次元に広げています。他の教育者と親しくすることによって、この広い地域で自然災害が発生したとき、他の人々により手厚い支援を提供することが可能になります。他の人々が直面する問題、特に教育の問題について直接聞いて理解を深めたいま、私たちは最初に支援の手を挙げることになるでしょう。

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(左)Making friends with students at Ashinaga Rainbow House, Tokyo
(右)Sharing what we have learned from Kesennuma City


 教育における次世代リーダーの役割は、創造性を発揮し、私たちの学校を支えるための調査や事業を率先して行うことです。今回のプログラムに参加することによって、参加者はそれぞれの地域コミュニティの人々に、変革と新しいアイデアの実行に取り組む力を与える責任を引き受けました。引き換えに、参加者は日本に様々な違ったものの見方を提供しました。私たちは災害の後の困難や問題について認識を共有することができました。これによって、解決策を見つけるための素地が作られたのではないかと考えています。教育の指導者はどんな地域コミュニティにおいても不可欠の存在であり、災害に見舞われた際には、その重要性はさらに増します。

 直接会って話し合う機会を持つことはたいへん重要です。様々な国から来た人たちと顔を合わせ、国は違っても似たところがあることを発見する喜びを経験することにより、世界がつながっていることがさらに深く理解できます。話している言葉や世界のどこに住んでいるかは関係ありません。私が気仙沼市大谷小学校の6年生のクラスで給食を食べていたとき、担任の先生と視線が合い、生徒たちのにぎやかな言動を見て、思わず一緒ににっこりしてしまいました。その瞬間、何も言わないのに、また何千マイルも離れた教室で教えているにもかかわらず、私たちはつながったのです。国も違えば話す言葉も違う2人の教師が、一言も言わずにお互いを理解したのです。

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(左)With students from Ohya Junior High School
(右)Passing down traditions to a younger generation, Sakihama-Tairyo-Utaikomi Preservation Community Society, Karakuwa Junior High School


 JENESYS次世代リーダープログラムは、文化や宗教の違う人々が経験を分かち合い、ともに学習するためのまたとない機会になっています。他の文化について学ぶことは、学校や地域コミュニティで異なる文化の受け入れの手本となりその理解を深めることに責任を負う教育者にとって、きわめて重要なことです。このプログラムは異なる文化についての学習をさらに興味深く有意義なものにしてくれます。参加者が互いから学んだことは、単に本を読むだけで身に付けたり、生徒に教えたりできるものではありません。韓国の最新のポップ音楽、「おはよう」のいくつもの言語での言い方、マレーシアにおいしいポテトチップがあることなどを私たちは学びました。そして何よりも大切なことは、世界をより色鮮やかなものするために、私たちは違いがあることを祝福すべきであり、そのことを子どもたちに伝えることがきわめて重要だということを学んだことです。東京のあしながレインボーハウスの八木さんは、参加者に対し、子どもたちが災害を乗り切っていくためには、自分がひとりぼっちではないことを理解することが大切だと話しました。JENESYSプログラムは、教育者もひとりぼっちではないことを思い出させる良い機会になりました。

 今回のJENESYSプログラムの参加者は、宮城県気仙沼市で4日間を過ごす機会に恵まれました。旅のハイライトは学校訪問と、風の布・パピヨンの斎藤さんとその支援者による野染めのアート・ワークショップでした。子どもを相手にする仕事をしている多くの人々は、生徒たちが自分の感情を表現する上で、アートの果たす役割が重要であることを認めています。斎藤さんは地元の学校の児童と共同で行うアート活動を私たちに体験させてくれました。きれいな白い雪を背景にして、私たちは直面している困難をしばらく忘れました。子どもたちの顔に浮かんだ笑顔を見て、アートと遊びの力がどれほど大きいかに改めて気付かされました。学校訪問は本当に得るところが多かったと思います。教育者として、私たちの心がいちばん休まるのは、教室で子どもたちのそばにいるときです。大谷小学校では、訪問を受け入れてくれたことに対し、私たちの一人がお礼を述べる機会がありました。彼は「ありがとう」とお礼を言ったあと、驚いたことに、歌をひとつ歌わせてほしいと言いました。彼の母国インドネシアの歌だと思ったのですが、気づけば講堂に集まった全員で、笑顔を浮かべてドラえもんの主題歌を歌っていました。私たちは互いに助け合うことによって再び色を目にすることができます。必要なのはその機会と言葉をみつけることだけです。

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(左)Younger students watching the 5th Graders get ready for a performance at Ohya Elementary School
(右)Jenesys East Asia Future Leaders Programme Education Group at Karakuwa Junior High School


 今回のプログラムを通じて、私たちの意欲をかき立てる多数の人々に会う機会に恵まれました。特に、人災や自然災害に見舞われた多くの国で活動した経験を持つ、フロントライン(地球のステージ)というNPOの桑山医師とお会いして、大きな刺激を受けました。音楽と写真を使った桑山医師の公演は、日本国民が津波災害に見舞われて以来直面している人間の悲劇がとてもよく理解できるものでした。また、自分たちが直面する困難を率直に話してくれた気仙沼の教育者たちと会ったこと、震災後あまり時間を置かずにどうやって学校を再開したかについての感動的な話を聞いたことで、私たちもさらに努力しなければならないという気持ちになりました。

 気仙沼の学校は「持続可能な開発のための教育(ESD)」プログラムを強力に進めており、学校、地域コミュニティ、自然の強い結びつきを奨励してきました。生徒たちは地域の環境問題について創造的に考え、解決策を探してみるよう励ましを受けます。ESDの一環として、地域の住民は子どもたちに伝統を伝える取り組みをしており、私たちは唐桑中学校で行われた崎浜大漁唄込保存会の公演に深い感銘を受けました。こうした地域コミュニティと学校の間の強い絆が、津波災害の後、気仙沼の人々がまとまって協力し、復興に向けての長い取り組みを始めるのに役立ったのだと私は思います。

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Nozome art workshop with Mr Saito

 日本酒や温泉、寺社参拝といった日本文化の楽しみを体験できたことも、JENESYSプログラムの重要でたいへん面白い一面でした。あらゆる交流がそうであるように、このプログラムの参加者も自分たちの文化を日本に伝えました。ニュージーランドと日本では文化的に違うところがたくさんあります。それだけに日本を訪れることはたいへん刺激的です。東京の地下鉄網を把握することから、スリッパをはいて学校の階段をつまずかないで昇れるようになることまで、私たちは日本と心やさしい日本人についての知識を次々と深めて行きました。できるだけ多くの日本語を覚えようと最善を尽くし、たいへん辛抱強い主催者から若干の指導を受け、やがて全員が「よろしくお願いします」と詰まることなく言えるようになりました。

 気仙沼の子どもたちと同じように、クライストチャーチの学校の生徒たちも、2010年9月4日のマグニチュード7.1の地震に続く数え切れないほどの余震を経験した後、自分の感情をうまく表現できるようにアートと遊びを利用した活動を行っています。生徒と教師を支援するやり方に類似点があるのが分かり、興味深く感じました。また、未来に目を向けること、前よりも良い状態に作り直す機会であることに焦点を合わせることも、子ども向けのアートと遊びの活動の大切さと同じく、共通のテーマでした。私たちはこれからも、学校でしなやかな力を育てていくため、実際に役に立つアイデアと支援を分かち合っていくことが可能です。

 このほか、東京に滞在中だった平和・環境活動家のサティシュ・クマールの講演を聞く機会にも恵まれました。サティシュは「自然と文化は共に踊らなければならない」と述べました。自然災害の後にしなやかな力を育て、すべての色を私たちの都市や町に取り戻すため、私は「自然と『すべての文化は』共に踊らなければならない」と言いたいと思います。世界中で協力し合い親交を結ぶことによって、私たちはしなやかな力を持った将来の地球市民を育成する責任を分かち合うことできるのです。





kesennuma01.jpg マルシア・ジョーンズ
ニュージーランド・クライストチャーチ、マイレハウ小学校教師
2011年2月22日に発生したクライストチャーチ地震を経験、教え子の生徒から預かった絵や贈り物を携えて来日。ニュージーランド・マオリの言葉で『Kie Kaha』(元気をだして)を伝えてまわった。




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