雑誌『をちこち(遠近)』
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そこでしか味わえない最高のステージ~'kuniko plays reich' 欧州ツアーを終えて

加藤訓子
パーカッショニスト



国際交流基金(ジャパンファウンデーション)からのサポートをいただき、2012年6月10日より7月10日まで一ヶ月に渡る欧州公演を行ってきました。
今回どの国もほぼ満席で、スタンディングオベーションに近い熱狂的なお客様の反応は、私自身の音楽活動の中でも大きな勇気をいただいたように思います。これも各地で協力してくださった皆さんすべてのおかげであり、忘れられない音楽の旅となりました。


すったもんだしてたどり着いたアルメニア
横浜での公演を終え、翌日には乗った飛行機、パリに着いたはよいものの、直前にアルメニア行きの飛行機はキャンセルでパリに一泊。翌日は5時間近く早く行った飛行場で、発券のトラブルから重量制限を超過した手荷物の処理やカルネ(業務用の物品を他国に一時的に持ち込む際に一時輸入通関を簡易に行う処理のこと)など、すったもんだしながら、何とかぎりぎり飛行機に乗りこみ、たどり着いたアルメニアでした。

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フェスティバルポスター

私を待っていたのは国をあげてのフェスティバル。
まず翌日には、首都エレバンのコミタスホールにてヴィブラフォンのソロでイタリアの私の尊敬する作曲家フランコ・ドナトーニの曲を一曲。随分とお客さんの反応がよいなあと感心。やはりアカデミックシーンはロシアでがっしり勉強したミュージシャンも多く、街中はインテリ層が目立ちます。こってりとしたヨーロッパスタイルですが、ストリートはすべて英語とアルメニア語が表記され、少し街を離れると4世紀5世紀の本当に古い教会がそこらじゅうにあったり、西ヨーロッパにはない雰囲気に見るもの-口にするものも(笑)-すべてが新鮮な経験でした。

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一歩街を出ると、広大な緑と荒野が広がります。
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そんな中に突然教会が。ほとんどが4世紀5世紀のものだそう。

翌日のスチールドラムワークスでは、一日の当日仕込みで(!)エンジニアをしてくださったルビック-ジャン (「ジャン」というのは日本語の「さん」などに近い敬称です) とたった一人で照明から音響、舞台が開ける3時間前まで揃わない部材を探し回り、一緒に創ってくれました。それでも演奏後にはスタンディングオベーションまで出て皆大喜び。後半アルメニアンソングが出ると拍手が自然と湧き上がり、あとで聞くと涙した人がたくさん居たとか!

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(左)スチールドラムワークス!、(右)一緒にステージを作ってくれたルビックージャン

交響楽団から大事なマリンバを借りたり、シンフォニーホールの指揮者の部屋でのリハーサル、ハチャトリアンホールを含めて合計4つのコンサートへ出演し、さらに公演の都度TV局のインタビューも受け、終いには、公園や市場でも「テレビで見たよ!」と声までかけられました。

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(左)ハチャトリアンホール、(右)アンサンブルは大編成でした。

本当に暖かい人々、オーガナイズも地元の大学を巻き込んでの形でしたが本当によくやってくださり、心に残る滞在になりました。
オーガナイズの中心であるソナ-ジャンは本当にあらゆることに気配りの効くアルメニア美人の素晴らしい女性、最後に訪れたオスマントルコによるアルメニア人大虐殺の記念塔ではスカーフをまとって祈りながら涙していました。

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(左)メモリアル塔はこんな形。先端は痛みを表すそうです。
(右)芸術総監督のシュテファンージャンと私


このフェスティバルの芸術監督のシュテファン ロストミアン-ジャン氏は毎度の私の演奏に涙してくださり、最後は私の手を握り締め、涙ぐみながら離さない姿を忘れることはできません。若いスタッフたちもずっとつきっきりで連日、本当に一生懸命で、最後の空港での見送りの際も涙ぐんでいました。きっときっと近い将来また訪れる国となることでしょう。


パリ上げての「音楽の日」にあわせて公演
アルメニアから10日後に戻ったEU、パリは何だか少しほっとしました。
まずは公演会場のパリ日本文化会館へ下見に行くと、すぐさまフランス人スタッフが私たちを自分たちのワーキングルームに招待してくれ、カフェをご馳走してくれました。すでに彼らは私の「kuniko plays reich」の舞台にために、初めての試みである舞台作りに張り切っており、これは素敵な舞台になりそうだと期待も膨らみます。
ついでに運搬ですっかり狂ってしまったスチールパンのチューニングを直したく、基金のスタッフへ相談したところ会場のテクニカルディレクターのフランクさんの友人にチューナーが居て、わざわざ会場へご足労いただきスチールパンをその場でリチューンして貰いました。その後に続くツアーのことも考えると本当に助かりました!
翌日、我々のメンバーも無事到着し、舞台作りも滞りなく、何とも現地スタッフとの気持ちの良いワークが本当に楽しかったです。

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(左)スチールパンをテューニング、(右)皆で早速舞台作りです!
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こんな風なきれいなステージになりました。

公演当日、6月22日はパリ上げての「音楽の日」(fete de la musique)。パリ日本文化会館としての催しとしてこの「kuniko plays reich EU2012」を取り上げてくださり、今年のツアー幕開けでした。
予想外のお客の反応に驚き!
カウンターポイント一曲一曲に何度も何度もお辞儀をし、最後はまたまたスタンディングオベーションとピーピーキャーキャーといつまでたっても鳴り止みませんでした。こんなこともパリでは(特に現代音楽シーン)滅多にないそうですが、私にとってもこのパリの観客の反応は本当に嬉しいものでした。また、この公演がテクニカルチーフであるグウェンデルさんの最後の公演にあたり舞台スタッフの皆がひとつになり、最高の公演をというスタッフからの雰囲気も来場者に伝わったものと思います。


マドリードの美しい劇場、バルセロナの抜群の響きのホール
次に待っていたのはスペイン。我々スタッフ一同、期待を持って到着しました。
15年ぶりくらいでしょうか?確かオーケストラでの演奏旅行のあと、一人で旅行した時の緊張感は全くなく-実はその昔スペインだけではスリにあったことがありまして(苦笑)-感じた空気は「ああここも安全な都市になりつつあるのかな」と少しだけ残念にも思いつつ、こうして安心して異国に居られるのは何とありがたいことか。

マドリードの会場は由緒ある古い劇場 (Círculo de Bellas Artes)は 円形で3階席まで舞台を取り囲むコロセニアム式で、ぞくっとするほどの美しい内装にどきっとするほど。(実際メンバーも劇場に住む幽霊を見たそうなのですが!)
そんなことも気にせず、また気持ちの良いスペインの舞台スタッフと一生懸命仕込みました。そうしたらリハーサル終了後、こちらの舞台と音楽があまりに綺麗だと言って劇場のディレクターが、スタッフに床のはげかけた黒の舞台を本番数時間前に塗るように指示したのです!こんなこと頼んでもなかなかやって貰えることではないなと思い、感謝!!
おかげで一層美しい劇場の照明とともにこんなところで演奏できる幸せを存分に味わうことができました。

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(左)夜景の中にそびえ立つ劇場、(右)中もセッティングとともに美しく
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演奏会も盛況に、ありがとうございました。

バルセロナは音楽院の中のホール。近代的な新しいスッキリとした雰囲気に響きは抜群。音作りも最高に楽しかったです。
ここでも本番前ちょっとしたハプニングもありましたが、無事に幕を開け、来て下さったお客様は大喜び。あとで「ありがとう、ありがとう、とってもありがとう!」などとたくさん言われました。カーテンコールの「テマスカル」メキシコの作曲家ハヴィエル・アルヴァレズ、マラカスを持ってリズムを刻み出した途端、そこにいたヴェネズエラの留学生などが、故郷を思い出して涙したとか!?
勿論、毎日食べたイベリコハムや市場で食べたピッチピチの魚介の素揚げは忘れることができません!

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(左)なかなかいい音。(右)ここでもやっぱりイベリコハムとカバを!


落ち着いた気持ちにさせるケルン
ラテンの国から整然としたドイツに着くと我々日本人にとっては更に安心するような気持ちでしょうか。今まで都市滞在も多かったせいか、広大な緑の公園の中を歩くと思いっきりいい空気を吸い、生き返ったような気持ちになりました。周りには寝そべって昼寝をしたり、ビールを片手におしゃべりしたりと、思い思いに時間というものを過ごしています。
ケルン日本文化会館はそんな緑あふれる素晴らしい環境の中にあり、毎日本当に落ち着いた気持ちで音楽をすることができました。ここは劇場ではないのですが、ここには一人で舞台から照明、美術展示を(住み込みで!) 管理している上野さんがおられ、一緒に我々メンバーで舞台を作ってゆきました。ここはシンプルな会館で音もナチュラルで音楽には向いているように感じました。

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(左)ここがケルン日本文化会館、(右)音響仕込みも大変ですが、ベルリンから長江和哉さんも応援にかけつけて来てくださいました。
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毎度きれいなスピーカーたちと楽器たち。

さて本番の日、意外に過ごしやすいと思いきや、結構気温の高い日で、ドイツには空調がないことが当たり前、お客様の中には倒れそうになり、立ち見の方と席を交換したり、という微笑ましい姿も見受けられましたが、我慢できず外へ出られた方もあったようでした。しかし最後まで残ってくださったたくさんのお客様と帰りにロビーでお話することができ、たくさんの方から興奮した声で「とにかく素晴らしかった!」「またここにきてください!」と声をかけられました。中でも普段からここに集まっている日本文化に興味を持つ目の肥えた方々や現地の音楽家ともライヒの音楽について話したりでき、大変充実した時間でした。
またここでいただいた京都レストランでの日本食はピカイチでしたね!素材からマスターの人間性、いい物をたくさん体に吸収し、大変元気になりました。


ローマでは一曲一曲の拍手が長くなった
ここの日本文化会館は建築物としても大変素晴らしく、閑静な高級住宅街にひっそりとそびえ立つ寺院のようでした。ここでも催されていた展覧会も大変貴重なものばかり!こうした日々の文化活動が海外での日本の正しい評価に繋がるのだなあとも感じました。館長さんご自身も現代音楽にも大変理解が深く、寛大でありがたいことでした。
こんなところでやらせてもらってよいのだろうか?と思いながらもそれをぶち壊すがごとく、舞台には「kuniko plays reich」のスピーカーたちが並びました。会場は独特な古風な雰囲気ですが、意外にも音は十分に響き渡り、迫力があります。ここにも住み込み常駐の管理人さん(秋山さん)がおられ、重たい荷物運びから、舞台創りまで、少ない人数で押しかけた我々と楽しく現場を作ってくださり、ご一緒できたことを光栄に思います。

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(左)ローマ日本文化会館が整然と建っています。(右)中もなかなか古風です。
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照明のちょっとした効果でなかなか奇麗ですね。

コンサート最終日、ヨーロッパでも、もう7月に入ると暑さも尋常ではなく、空調管理に気を遣いながら計画したに関わらず、溢れんばかりのお客様が入るともうパソコンまでも暑くて止まりそうなそうな状態、空調もつけっぱなしにせざるを得ず、正に熱演(!?)でした。
コンサート冒頭はドナトーニのオマール(ビブラフォンソロ)も演奏しました。スティーブ・ライヒの作品に入ってゆくにつれ、一曲一曲の拍手が長くなり、曲ごとに何度も何度もお辞儀をして、自分の作ったアレンジ作品がこうしてパフォーマンスとして成功することはこの上ない喜びでした。


今回は私のソロとしての海外公演で、国際交流基金のスタッフとともに回ることは初めてでした。すべての場面において、各国の基金スタッフの方々が本当に充分な準備をして迎えてくださり、それぞれの現場でもたくましくサポートしていただき、心強く、こんなに安心で安全で、その上でこそ、ここまで演奏に集中でき、存分なパフォーマンスができたことは未だかつてなかったかと、心から感謝しています。
日本から遠征させていただく上でも、楽器や機材も含め、今の自分が十二分にできること、やっているものをそのままのクオリティで存分に披露させていただくことができたのも、関係者のサポートあっての実現でした。
その上で決して大所帯でなく、私自身が現地のスタッフや観客とも真に交流できるように心がけ、それでこそ出来る、そこでしか味わえない最高のステージを目指し、そこに居る方々と喜びを分かち合う、そんな本当の意味での国際的な文化交流に繋がればと願っています。

本当にありがとうございました。





kuniko_plays_reich01.jpg 加藤訓子(かとう くにこ)
桐朋学園大学卒業。同校研究科在席時から渡欧し、ロッテルダム音楽院へ留学。首席で卒業。世界的な指揮者や作曲家から注目される打楽器奏者として世界を舞台に活躍する。その技量、音楽性、芸術性の高さは、学生時代から注目され、ソリストとしてマリンバ、打楽器に天性の才能を発揮する。
95年第1回「リー・ハワード・スティーブンス国際マリンバコンクール」準優勝、96年ドイツ、ダルムシュタッド国際現代音楽際にてクラニヒシュタイン賞受賞、2000年米国パーカッシヴ・アートソサイエティーより世界35人のマリンビストに選出、2002年愛知県豊橋市より文化賞奨励賞を受賞。
武満徹、スティーヴ・ライヒやフランコ・ドナトーニをはじめ、著名な作曲家や演奏家とも数多く共演、ソロ以外でもアンサンブル・ノマド、サイトウキネンオーケストラ、アンサンブル・イクトゥス(ベルギー)など国内外のグループへ参加。
日本を代表する打楽器奏者の一人として、グローバルに幅広いフィールドで活躍している。米国在住。
公式HP https://www.kuniko-kato.net/en/index/



Photo by michiyuki ohba




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