先人たちが見た景色と感じた気持ちを伝統音楽を通じて知る~カンボジア、ミャンマー、ラオスで邦楽の魅力を発信

浅野 祥(津軽三味線奏者)



 国際交流基金(ジャパンファウンデーション)は、2013年2月21日から3月1日、日・ASEAN友好協力40周年記念事業として、カンボジア、ミャンマー、ラオスの一般の方々、とくに若者にもアピールするよう、若い世代の邦楽の担い手たちによる公演を行いました。また、邦楽器の歴史や奏法について紹介するとともに現地の伝統音楽と交流するレクチャー・ワークショップなども実施し、音楽を通じて相互理解と友好関係を深めました。
 公演を率いた、津軽三味線奏者の浅野祥さんに各地での様子について綴っていただきました。



アジアならではのメッセージの伝え方
 今回のツアーで訪問した国は、カンボジア、ミャンマー、ラオス。日本と同じアジアの国ということで共通点も多く、欧米での公演に比べ、公演を通して伝えたいメッセージの手段選びがとても難しかったです。
 日本の民謡を聴いて頂くにあたり、この三か国にはない「四季」に沿って、農作業をテーマに演奏しました。日本の民謡は、日常生活の一場面や豊作・豊漁への願い、感謝を唄った、昔からある、とても日本人らしい唄です。この日本独特の音楽を通して、古き良きものを継承することの大切さ、また洋楽器とのコラボレーションを通して、民族楽器の可能性、挑戦することの大切さ、面白さを共有したく、公演のプログラムを作りました。
 日本を発つ前にいろんな方に聞いたところでは、各国ともに、あまり自分の感情を表に出さない民族性だということだったのですが、実際に各地に行ってみて、そんなことは全く感じませんでした。
 最初こそ「拍手をして良いのかな」、「手拍子をして良いのかな」という雰囲気があったものの、ひとたび誰かがその均衡を破った途端、皆さん一斉にもの凄い盛り上がり。歌ったり、かけ声を掛けたり、同じ振り付けをしてくれたりと、一緒にライブを楽しんで下さいました。
 また全ての公演において、その国の曲-カンボジアでは「アラピア」、ミャンマーでは「水祭りの歌」、ラオスでは「チャンパーの花」-を演奏しました。私たちも通訳の方に歌詞を教えて頂き現地語で一生懸命歌いましたが、どの公演も会場が大合唱となり、言葉や国境を越え、音楽で心が一つになるということを体感した瞬間でした。どの公演も、出演者である私たちだけでなく、会場の皆さんと一緒に作り上げたライブでした。
 "最初は遠慮をする"点も、私たち日本人と同じような感覚だなと、アジア人としてとても身近な存在に思いました。



カンボジア太鼓グループとの共演
 最初の公演は、今年で国交60年を迎えるカンボジアの「カンボジア日本人材開発センター -CJCC-」で行われた「日本カンボジア絆フェスティバル」での演奏でした。
 このイベントは、空手やのど自慢大会、コスプレや日本のキャラクターの紹介など、参加しながら日本文化に触れることのできるイベントで、カンボジアの皆さんの日本へ対する興味や熱心な勉強心を目でも体でも感じました。
 また、カンボジア公演ではゲストで現地の太鼓グループ「サコーチャイ」の皆さんが出演してくださいました。カンボジアの打楽器が多く並ぶ中とても驚いたのは、チューニングを打面の皮に貼り付けた粘土の面積を変えながら行っていたことです。先人たちの知恵の豊かさ、素晴らしさを目の当たりにし感動しました。サコーチャイの皆さんとは、互いの民族楽器でコラボレーションもしました。よく"リズムを持たない民族はない"と聞きますが、そのリズムの取り方はやはり民族によって全く違うものなのでしょう。カンボジアと日本の異なったリズムが絡み合い一つの曲を織り成してゆく素晴らしい時間を共有できました。最後にサコーチャイのリーダーが、山形県民謡「花笠音頭」を踊って下さり、会場は大盛り上がりでした!

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一座の写真

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サコーチャイとのコラボ

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花笠音頭



ラオスの人気バンド・歌手とも音楽交流
 ミャンマー公演ではゲストはいませんでしたが、ラオス公演では二組のゲストが来てくれました。
 一組目は、よさこいソーランを踊ってくださった「ラオス・日本センター」の皆さん。二組目は、ラオスの人気バンド「Cells」と、同じく人気歌手「SAM」
 Cells・SAMとは、彼らの代表曲「Pieng mi」 、ラオスの有名な「お正月の歌」、そして日本の「昴」、の三曲を一緒に演奏しました。昴では、SAMが日本語で歌いだすと会場からは大きな拍手と歓声が湧きました。お互いの国の音楽を尊重し合うからこそ生まれた音楽交流だと思います。

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よさこいソーラン

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Cellsとのコラボ



各地のワークショップで
 また、今回は公演に加え、各国でワークショップもやらせて頂きました。ワークショップの内容は事前に決めていたのですが、会場である学校へ行き、ワークショップに参加してくれる生徒たちがどんなことを学んでいるのかや、みんなで一緒に演奏できそうな曲などを先生に教えて頂いたり、実際に生徒の皆さんにお会いし会話をする中で、毎回内容を変えました。その結果、日本の音楽や文化の紹介・和楽器体験はもちろん、逆に私たちが生徒の皆さんから民族音楽や楽器の演奏、伝統舞踊などを教えて頂き、最後には一緒に演奏をするなど、楽しく貴重な交流となりました。

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一緒に楽しんでいる様子

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体験の様子

 具体例としては、ミャンマーの「サウン・ガウ」という竪琴。これは16弦楽器で、三味線と同じ絹糸を使いますが、弦は太さに応じて全て演奏者が自ら作るそうです。音階は、日本の琴と非常に似ています。また「ワーパタラ」という木琴や、「オーシィ」という打楽器などがありました。

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ミャンマーの「サウン・ガウ」という竪琴

 ラオスでは、私たちの演奏を聴いてくれた生徒の一人が、「僕らの国の楽器の演奏も聴いてほしい」と、「ケーン」という楽器を演奏してくれました。これは日本の笙と同じ先祖を持つラオスの楽器だそうです。

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ケーンや踊っている様子



 今回訪問した三か国は、現在も日々発展を続けている国です。発展して行く過程で、つい新しいものにばかり目がいってしまうことがあるかもしれません。しかし、私たちが生きる"今"を生み出してくれた先人たちが見た景色や、感じた気持ち、考えを知ることで、これから先、私たちが新しいことへ進んで行くためのヒントを得られると思います。先人たちが残した古き良きものは切り捨てずにしっかりと継承して行くことが大切だと思います。これから発展してゆく国だからこそ、同じアジア人同士、そのようなことを日本の民謡や今回の公演を通して伝えることができていれば嬉しいです。  そして、きっとまた皆さんと再会できる日を信じています。





hougaku_cambodia01.jpg 浅野 祥(あさの しょう) 1990年生まれ、仙台出身。5歳の時、祖父の影響で三味線を始める。7歳で津軽三味線全国大会(弘前)に最年少で初出場。翌年より各級の最年少優勝記録を次々と塗り替える。2004年、14歳のときに津軽三味線全国大会A級で最年少優勝。その後06年まで3連覇、同大会の殿堂入りを果たす。07年、ビクターより「祥風」でメジャーデビュー。08年3月、ワシントンD.Cでソロライブ開催。同年4~5月のカナダツアー、11年9月、「バルト三国邦楽公演 -浅野 祥 & アンサンブル」(エストニア、ラトビア、リトアニア)(いずれも国際交流基金主催)に参加。
公式サイト http://www.j-s.co.jp/asano/



公演日程
■ プノンペン(カンボジア)
日時 : 2013年2月21日(木曜日)、2月23日(土曜日)
会場 : カンボジア日本人材開発センター(CJCC)

■ ヤンゴン(ミャンマー)
日時 : 2013年2月25日(月曜日)
会場 : パークロイヤルホテル(Parkroyal Hotel)

■ ビエンチャン(ラオス)
日時 : 2013年3月1日(金曜日)
会場 : 国立文化会館(Lao National Cultural Hall)




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