雑誌『をちこち(遠近)』
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同じ未来を目指すライバル

山崎 亮(studio-L代表、東北芸術工科大学教授)



 国際交流基金(ジャパンファウンデーション)は、インドネシアのジャカルタ、メダン、スラバヤでの巡回展「3.11-東日本大震災の直後、建築家はどう対応したか」の開催に伴い、コミュニティデザイナーの山崎亮氏を派遣し、コミュニティの役割やコミュニティづくりを伝え、共有することで、現地コミュニティとの協働の可能性を探るべく、インドネシア人の専門家、学生、住民向けの講演会とワークショップを開催しました。インドネシアから帰国した山崎氏に、今回のインドネシア訪問の意義についてご寄稿いただきました。



コミュニティデザインをインドネシアへ

 2015年3月の最終週、国際交流基金の計らいで人生初のインドネシアを体験することができました。日本でもまだあまり知られていない「コミュニティデザイン」という手法を、インドネシアの人たちに紹介して欲しいというありがたい機会です。
 「コミュニティデザイン」とは、地域に住む人たちが自分たちの地域課題を解決することを手伝う仕事です。そのため、まずは地域を調べ、住民の話を聞き、人々に集まってもらって話し合いを進めます。話し合いによって地域の課題を共有し、その解決策について検討し、生み出された解決策を実行してみます。この過程をデザイナーとして支援するのが我々の役割です。日本語でいう「まちづくり」に近い仕事ですが、百貨店、病院、公園やお寺など、「まち」という規模ではない、施設での仕事も多くあります。
 1週間のインドネシア滞在で、ジャカルタ、メダン、スラバヤの3都市を巡りました。全体を通しての印象は、暑いということと、人が多いということです。特に若い人が多いのが印象的でした。日本では、まちを歩いていて赤ちゃんを見かけると思わず微笑みかけたくなりますが、インドネシアでは至る所で赤ちゃんを見かけるのでいちいち微笑みかけていられません。その一面だけ見ても、この国が「若い国」だということがわかります。



ジャカルタの「パサールサンタ」

 ジャカルタで印象的だったのは「パサールサンタ」という市場です。1階と2階は普通の市場ですが、3階だけが若いクリエイターたちのオシャレな店で溢れています。

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パサールサンタ3階 若いクリエイターの店が並ぶ

 韓国の全州で訪れた「青年モール」を彷彿とさせる場所です。一般的に市場では低層階のほうが商売上有利です。だから昔からの商売は低層階に残り、上層階から順番に店が抜けていきます。パサールサンタも青年モールも、こうして抜けた店の跡地に若い人たちがクリエイティブな店を開いてできた場所です。当初は家賃が安いのですが、人気になるとどんどん家賃が上がります。パサールサンタも同じで、100人以上の若者が出店を待っているといいます。若い国には若い力が溢れているというわけです。一方、低層階の市場で働く人を観察するのも興味深かったです。若いクリエイターと違って、昔ながらの市場で働く人たちはのんびりしていて、ダンボールの上で寝たり、販売台の上で寝たりしています。

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パサールサンタ1階 ダンボールの上で昼寝する

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パサールサンタ1階 販売台の上で昼寝する

 上層階に見られる若者の新たな挑戦もいいですが、下層階に見られる「良い加減」な働き方もまた魅力的です。両者の営みが床一枚を隔てて共存しているのがパサールサンタの魅力だといえます。



メダンの「歴史的建造物の保存プロジェクト」

 メダンで印象的だったのは「歴史的建造物の保存プロジェクト」です。日本で歴史的な建物を保存しようと思えば、建物を取り壊そうとする土地所有者との交渉が大変です。所有者が市役所の場合は、建物の耐震性能が課題だったり、すでにその場所に新しい公共施設を建てる計画があって変更できないことが問題だったりします。所有者が民間の開発業者の場合は、古い建物を耐震改修して低層のまま残すことのコストに加え、全面を新しい建物に建て替えたときに得られる利益との戦いになります。ところがメダンで取り組む歴史的建造物の保存は、そこに不法占拠している人々に立ち退いてもらうことが課題だといいます。実際、現場を見せてもらったときも案内してくれた学生がかなり用心していることがわかりました。古い建物を占拠している組織が掲げる青いフラッグが外周に並び、その前では盗品を販売する市場が並んでいました。

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メダンの歴史的建造物 中は不法占拠で外は盗品市場

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(左)不法占拠された建物 中から歌声が聞こえる
(右)歴史的建造物がある地区の市場


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メダンの市街地

 こうした人達から建物を取り返し、リノベーションし、どう活用するのかを考えなければなりません。明確な使い方を考えなければ、リノベーションした建物を快適に不法占拠し直す人たちが登場するだけでしょう。

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給水塔を展望台へとコンバージョンした例



スラバヤの「アヨレック」

 スラバヤで印象的だったのは、古い住宅をリノベーションして施設図書館を開設している若者たちの取り組みです。

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(左)アヨレックが主宰する施設図書館
(右)施設図書館内観


 彼らは「アヨレック」という団体で、スラバヤのまちを若者視点で探り、その魅力を内外に発信する活動を続けています。施設図書館には多くの本が並ぶとともに、アヨレック自らがつくった本も販売されています。アヨレックはデザイン、写真、編集など多様な専門家によって構成されているため、書籍やウェブサイトなどを自分たちでつくることができます。

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アヨレックが出版している書籍

 また、図書館の奥にはちょっとしたスペースがあり、そこでミニレクチャーなどを開催することができます。彼らはスラバヤで活動する他の市民活動団体とも連携しており、協働でプロジェクトに携わったり、他団体のウェブサイトをデザインしたりしています。アヨレックのメンバーはほとんどが20代です。今後、どんな活動へと展開するのかが楽しみです。弊社studio-Lが、その前身となる「生活スタジオ」という任意団体で活動していた頃、まさか自分たちがコミュニティデザイン事務所を立ち上げて活動を仕事化できるとは思っていませんでした。アヨレックは今、活動を仕事化すべきなのか、仕事化できるのかと悩んでいます。存分に悩むのがいいでしょう。しっかり悩んで答えを出せば、悩んだ分だけ未来は確実なものになるはずです。



講演とワークショップ

 ジャカルタ、メダン、スラバヤの三都市では、それぞれの大学で講演とワークショップを行いました。講演はそれぞれの都市で見聞きしたことを踏まえて話を変えたため、通訳を担当してくれた松井氏には苦労をかけたはずです。しかし松井氏は我々の活動をよく理解してくれており、私の言葉を適切に学生たちへと伝えてくれました。ワークショップはダンボール製の天板を使い、参加者の膝の上に天板を置いてテーブルとしました。

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ジャカルタにあるペリタハラパン大学でのワークショップ

 このスタイルだとテーブルメンバーとの間に親密な関係が生み出されます。各大学ともに建築系の学生が多いということだったので、ワークショップは言葉ではなくダイアグラムで表現してもらうことにしました。

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メダンにある北スマトラ大学でのワークショップ

 ジャカルタでは「都市生活における課題とその解決方法」について、メダンでは「歴史的建造物保存に関わる課題とリノベーションした建物の新しい用途」について、スラバヤでは「大学生活における課題と、それを解決するための屋台のデザイン」について、それぞれ話し合ってもらうことにしました。ダイアグラムで表現してもらえば、インドネシアの言葉がわからない私でも何が描かれているのかをある程度理解することができます。

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ジャカルタでの発表風景

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(左)メダンでの発表風景
(右)スラバヤ工科大学での発表内容 ユニークな屋台が提案された


 学生たちの発想と明るさに、若い国の今後に対する希望を見出すことができました。



刺激を与え合うライバルとして

 よく「インドネシアの都市を見ていると日本の1970年代を見ているようだ」と言われます。確かに都市部以外は道路がほとんど舗装されていないし、下水道の整備もほとんど進んでいません。交通渋滞は酷く、子どもの労働も頻繁に行われています。日本の1970年代に似ていると言われる所以でしょう。しかし、同時に彼らはスマートフォンを使い、インターネットから情報を得ています。インドネシアの今後が、日本と同じ道をたどることはないでしょう。すでに我々は共通の未来を目指すことができるはずです。これからの40年は、インドネシアも日本もそれぞれの立場から理想的な未来に向けて歩んでいくことになります。ジャカルタのクリエイターたちのショップも、メダンの歴史的建造物のリノベーションも、スラバヤのアヨレックの活動も、同時代的に日本で若者たちが取り組んでいることとほとんど同じです。相互に事例を参照し、刺激を与え合いつつ、それぞれの国で実現すべき社会へと一歩ずつ近づいていくことでしょう。その時、ジャカルタの市場で昼寝する人の時間の感覚や、歴史的建造物を不法占拠する人の生活の工夫もまた、未来のライフスタイルに大きなヒントを与えてくれるような気がします。
 我々は、「先を進む国」の人間としてではなく、同じ未来を目指す国で活動する者として、今後もインドネシアの若者たちと張り合っていきたいものです。





aim_the_same_future14.jpg 山崎 亮(やまざき りょう)
studio-L代表。東北芸術工科大学教授(コミュニティデザイン学科長)。慶応義塾大学特別招聘教授。1973年愛知県生まれ。大阪府立大学大学院および東京大学大学院修了。博士(工学)。建築・ランドスケープ設計事務所を経て、2005年にstudio-Lを設立。地域の課題を地域に住む人たちが解決するためのコミュニティデザインに携わる。まちづくりのワークショップ、住民参加型の総合計画づくり、市民参加型のパークマネジメントなどに関するプロジェクトが多い。「海士町総合振興計画」「studio-L伊賀事務所」「しまのわ2014」でグッドデザイン賞、「親子健康手帳」でキッズデザイン賞などを受賞。
著書に『コミュニティデザイン』(学芸出版社、不動産協会賞受賞)、『コミュニティデザインの時代』(中公新書)、『ソーシャルデザイン・アトラス』(鹿島出版会)、『まちの幸福論』(NHK出版)などがある。




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