地域から世界へ、世界を身近に
2024年度国際交流基金地球市民賞授賞式レポート

2025.09.30
【特集085】

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2024年度で40回目を迎える「国際交流基金地球市民賞」は、1985年に創設され、日本各地で地域に根ざした国際文化交流活動を通じて、日本と海外の市民同士のつながりを深め、互いの知恵やアイデア、情報を交換しながら共に考える団体を顕彰してきました。例年以上に多数のご応募とご推薦をいただいた今年度は、東九条マダン実行委員会(京都府京都市)、公益財団法人 佐賀県国際交流協会(佐賀県佐賀市)、特定非営利活動法人MIYAZAKI C-DANCE CENTER(宮崎県宮崎市)の3団体が受賞。2025年2月19日に東京都内の会場において、高円宮妃殿下の御臨席の下、外務省から生稲晃子外務大臣政務官を来賓としてお招きし、授賞式が執り行われました。本レポートでは、各受賞団体の活動概要と受賞理由、そして受賞に際してのスピーチの一部をご紹介します。

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「いこか、つくろか、みんなのまつり」を合言葉に、地道な地域活動で多文化共生を体現。

東九条マダン実行委員会

所在地:京都府京都市 / 代表者:実行委員長 具 明徳 / 1993年設立

朝鮮半島の言葉で「ひろば」を意味する「マダン」。東九条マダンは、在日コリアンをはじめ、さまざまなルーツを持つ人々と日本人が共に暮らす京都市南区東九条で、地域のまつりとなることを目指し1993年から毎年開催されてきました。会場は地域の財産である学校の跡地にこだわり、次代を担う子どもたちの学校や地域の多様なセクターと連携しながら、毎年共にまつりを創り続けてきました。それぞれの立場、ルーツ、文化、心身の状態の人々が、ありのままの自分を表現し、互いを受け入れながら新しい自分を見つける場としての「みんなのまつり」。それは、いまや多文化共生・地域交流のまつりとして広く知られる存在となっています。

【受賞理由】
ルーツや文化などの面で多様性に富んだ人々が、年に1度、集い、繋がり、自己を表現するまつり「東九条マダン」は、多文化共生のひとつのあり方を体現しています。中でも和太鼓と朝鮮半島の伝統的な打楽器が融合した演目は参加者に感動を与え、異なる文化が対話しあうことの重要性を示し続けてきました。年に1度のまつりながら、活動拠点である京都市南区東九条地域に根差すことを常に重視し、絆を深めてきた東九条マダン実行委員会が、今後も地域・社会に対して有意義な経験を地道に提供し、国際的な市民社会の発展に寄与することを期待し、本賞を授与します。

授賞式で壇上に立った東九条マダン実行委員会の代表である具明徳さんは、「年にたった1日のまつりの場を創るために一年を通して活動しています。個人と個人がぶつかり合いながら多文化共生という価値観を育むために、30数年間悪戦苦闘しながら共に足跡を刻んでくれた実行委員と開催スタッフの皆さんに敬意を表し、心から誇りたいと思います」と受賞の喜びと感謝の思いを述べました。また、同団体は、コロナ禍が世界を覆った時も、困難の中から「繋げよう、貯えよう、発信しよう」と奮い立ち、Web配信や展示に舞台を移してまつりを創り続けました。「東九条マダンが目指すのは、人と人を隔てるさまざまな障壁やあらゆる違いを越え、手を携えて共に乗り越える『明日への希望を灯すまつり』。それが甘ったるい理想に過ぎないとしても、敵対的な関係を徹底的に排し、その日は1日参加し、交流し、表現することで、誰もが楽しめて居場所がある、こんな社会であってほしいと願える場でありたいのです。今回の受賞でいただいた評価を糧に、より楽しい多文化共生・地域交流のまつり創りに邁進いたします」と未来への意気込みを語りました。

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「心の国境をなくそう!」外国人を仲間として迎え入れ、共に佐賀の地域づくりを推進。

公益財団法人 佐賀県国際交流協会

所在地:佐賀県佐賀市 / 代表者:理事長 黒岩 春地 / 1990年設立

佐賀県国際交流協会(略称「SPIRA(スパイラ)」)が創立された1990年には、佐賀県に住む外国人は1799人でした。それから34年が経った現在、1万人を超える外国人が佐賀県に住み、100人に一人が外国人県民となりました。その間に活動のテーマは国際交流から多文化共生へシフト。外国人をはじめ、外国人と関わる県民からの相談を毎日受けながら、 医療通訳や日本語学習サポーターの派遣など、外国人県民をサポートする活動も飛躍的に増えてきています。同時にサポートされる側にとどまらず、外国人の皆さんが自らサポートする側に回ることも多くなってきました。外国人を佐賀県の仲間として迎え入れ、共に地域づくりを推進しています。

【受賞理由】
1990年設立の佐賀県国際交流協会は、長年にわたる国際交流活動による知見を生かしつつ、県内外国人住民の急増という背景のもと、「多文化共生」をテーマとした活動へシフト。高い専門知識や倫理意識が求められる「医療通訳」や「災害時の多言語支援」でも高い成果を上げてきました。2019年には「さが多文化共生センター」を開設。外国人・日本人双方の相談対応を行うなど、佐賀県における多文化共生推進に欠かせない存在です。同協会の「心の国境をなくそう!」をスローガンに地域社会と連携しながら共生社会を推進する姿勢は、他地域の模範となる取り組みであると考え、本賞を授与します。

理事長の黒岩春地さんは、かつて言葉が通じない海外の病院で、看護師さんがそっと寄り添ってくれたありがたさが身にしみたという自身の体験を交えながら、同協会の医療支援について語りました。「佐賀県庁の支援のもと行なっている医療通訳サポートの最大の特徴は、県内の医療機関であればどこでも医療通訳が受けられ、そのサービスが無料であることです。電話通訳サービスも含めると23言語の通訳が可能で、47人の通訳サポーターのうち約4割が外国人の皆さんです。だからこそ、外国人患者の苦労に寄り添い、共感することができていると思います。また、台風など災害時や大雨など警報以上の際は、直ちに9言語に翻訳してホームページやSNSで外国人県民の皆さんへ通知します。心の国境をなくすことは決して難しいことではないと思います。『Free your heart of borers!心の国境をなくそう!』という思いを胸に抱きながら、外国人も日本人もない、誰もが安心して暮らせる、学べる、働ける、夢を描くことのできる佐賀県をめざし、外国人の皆さんと一緒に歩んで参ります」と熱くスピーチしました。

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逆転の発想とダンスで未来を切り拓く。
世界から「ダンスの聖地」宮崎へ。

特定非営利活動法人 MIYAZAKI C-DANCE CENTER

所在地:宮崎県宮崎市 / 代表者:代表理事 野邊 壮平 / 2008年設立

宮崎大学教育文化学部舞踊学研究室で2006年に結成されたダンスカンパニー「んまつーポス(スポーツマンの逆さ読み)」が運営するMIYAZAKI C-DANCE CENTERは、「逆さから物事を考えることで新たな価値を創造する」をコンセプトに、国内外での創作上演活動を行うと共に創造的でユニークな身体活動とダンス体験を提供する団体。アーティストを世界各国から宮崎に招聘し、地域住民が世界のコンテンポラリーダンスに触れる「空はひろいな!みやざき国際ダンスフェスティバル」を開催。国際ダンスフェスの地方モデルを確立しました。地域全体を空のダンスフェスの活気で満たすことを目指し、精力的に活動を続けています。

【受賞理由】
MIYAZAKI C-DANCE CENTERは、宮崎に根ざして国際ダンスキャンプや国際ダンスフェスティバルを重ね、地元住民と海外アーティストとの交流の機会をつくってきました。教員専修免許状を持つ専門家としての知見を活かし、学校の身体表現教育の支援にも携わっています。子どもや教員に大好評のプログラムは国境も超えました。2019年には、保育園の体育館兼劇場「透明体育館きらきら/国際こども・せいねん劇場みやざき」を開設。コロナ禍など困難にも名前通りの逆転思考で、創造活動と経営、地域貢献と国際交流を明るく両立してきました。同団体の地球市民活動を高く評価し、本賞を授与します。

「まず16年間にわたり国内外のアーティストや地域の子どもたちと『創作ダンス』を続けてきた私たちに、手を差しのべてくださった全ての方にお礼を伝えたいです。芸術で身体を育む『創作ダンス』が含まれる日本型の学校教育に僕らは感動し、この感動をダンス作品で世界へ発信すると同時に、世界の反応や驚きを日本へ逆輸入することこそが『逆さ』にこだわる「んまつーポス」の役目だと奮い立って起業し、国際文化交流活動を行ってきました」こみ上げる喜びとともにそう語るのは、3代目の代表理事、野邊壮平さん。今回の受賞の副賞を活用して、2025年の国際ダンスフェスに海外からのゲストを招聘する、という次なる企画を披露すると同時に、宮崎を「創作ダンスの聖地」にするという大きな夢を受賞の舞台で宣言。「国や地域を超え、ダンスを共創するなら宮崎へと、未来を担う子どもや青年たちが世界各国から宮崎を訪れる日はそう遠くなさそうです」とスピーチを締めくくりました。

【最後に】
授賞式では、選考委員を代表してダイバーシティ研究所 代表理事の田村太郎氏から、本賞・理事長特別表彰を1995年に受賞した『多文化共生センター(旧・外国人地震情報センター)』での活動以来、30年にわたって続けている自身の取り組みを紹介しつつ、「非常に緊迫した世界情勢のなかにあって、国際交流活動は大変重要な時期を迎えているのではないかと思います。コロナ禍、外国人の増加など、状況の変化に対応しながら国際交流活動に力を注いでこられたそれぞれの団体が、この受賞を契機に成功モデルとして取り組みを続けていくことで、他の地域の模範となり、広く効果的に社会に影響を与えていくことを望みます」と激励の言葉がかけられ、これからのさらなる活動への期待と受賞団体の皆様の喜びと未来への意気込みが交差する、華々しい式典となりました。

国際交流基金 地球市民賞
https://www.jpf.go.jp/j/about/citizen/

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