雑誌『をちこち(遠近)』
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01 ほほえみの国"タイ"

河瀨直美
映画監督



 初めての海外ロケを行ったのは、「七夜待」という作品のとき。2008年のことである。タイは宗教とマッサージが深く結びついていてお寺の中にマッサージをしてもらえる場所があるという、日本では考えられない情景がまずわたしの心をとらえました。そこには、心の滞りを流してくれる宗教の役割と、身体の滞りを流してくれるマッサージの役割が、共存していたからです。考えてみればどちらも「人」にとって必要なものだということが言えます。どちらかが滞ればたちまち病気になってしまう。病院でお医者様に見てもらう前に、自分の行い、考え方を調整しながら生きることはとても大切だと思いました。

 またタイのスタッフは非常に勤勉で優秀です。みんな英語が話せて言ったことをきちんとしてくれます。驚いたのは、撮影に使用する家の候補を見て回った時のこと。この家がいいとわたしがいうやいなや、近所のひとたちが一斉にお掃除をはじめ、数時間で家はぴかぴかになりました。川沿いにあったお家だったので家の庭に続く道の先に桟橋を創ってほしいというと、2時間後には洗濯も干せるような立派な桟橋ができていました。ベッドや台所用品もどこからやってくるのか、あれよあれよという間に揃い、今日から立派に生活のできる状態、いや、これまでずっとここに住んでいて生活し続けてきたようなしつらえが出来上がりました。

 撮影中は、ケイタリングの方が食事を用意してくれるのですが、昨日頼んだ飲み物をしっかり覚えていて、今日わたしがオーダーに行くと「昨日のでいい?」と聞いてさっとその飲み物を用意してくれます。そのおもてなしの心に心底感動しました。日本に入ってくるニュースだけではとても危険な場所のようにイメージされていますが、とてもフレンドリーな国タイ。ほほえみの国の快適な撮影でした。最後に、これからもずっとこの国で撮影し続けたいという誘惑に駆られたエピソードをひとつ。オーディションでマッサージを生業にしているタイ人女性に会ったのですが、少しイメージが違って断った方がいました。けれどその方はどうしても撮影現場にいたいということで、わたし専属のマッサージ師としてスタッフに加わりました。彼女の毎日のマッサージのおかげでハードな撮影もその日のうちに肉体の疲労はとれ、元気に翌日の撮影に臨むことができました。

 あれ以来、現場にはマッサージのスタッフが必須とおもってしまうわたしです。


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「殯の森」
http://www.mogarinomori.com/news.html






kawase01_00.jpg 河瀨直美
生まれ育った奈良で映画を撮り続ける。
「萌の朱雀」(96)カンヌ国際映画祭新人監督賞を史上最年少受賞。
「殯の森」(07)カンヌ国際映画祭グランプリ受賞。
「玄牝-げんぴん-」をはじめドキュメンタリー作品も多数。
自らが提唱しエグゼクティブディレクターを務める『なら国際映画祭』は今年9月14-17日に第2回を開催〈http://www.nara-iff.jp/〉。
奈良を撮りおろした作品「美しき日本」シリーズをWEB配信中〈http://nara.utsukushiki-nippon.jp/〉。

公式サイト:http://www.kawasenaomi.com/
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