雑誌『をちこち(遠近)』
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10 『もういっかい』テクネ・トライ

大山慶



今回は、NHK「テクネ 映像の教室」(2014年の3月にオンエアされました)のために制作した『もういっかい』という作品を紹介したいと思います。

「テクネ」は、映像の様々な技法を解説する番組で、その中の「テクネ・トライ」というコーナーでは、毎回、クリエイターたちが、その回の技法を使って映像作品の制作に挑戦しています。僕に与えられたテーマは「ロトスコープ」。ロトスコープとは、実写映像を描き起こすことでアニメーションを作る技法です。

実写映像はカメラで機械的に記録されたものなので、そこに「感情」が写りこむことはありません。「感情」を表現するための工夫はできますが、基本的にはそこにあるもの(光)しか記録できません。

逆に、絵画やアニメーションの場合、その世界は、それを描く人間に全てが委ねられます。作者が描いたものしか存在しない世界です。

この企画のお話をいただいた時、実写映像の持つ「真実性」と人間の描いた絵の持つ「主観性」を融合させることで(つまり「ロトスコープ」という技法を使うことで)、「記憶」をテーマにした作品を作ろうと決めました。

まずは動画をご覧ください。高画質設定で観ていただけると嬉しいです。



女の子が遠くへ歩いていく様子を写した実写映像を、1コマ1コマプリントアウトし、それを鉛筆で画用紙に描き起こしています。

keioyama10_01.jpg 画用紙は1枚だけしか使っておらず、1コマ描いたら撮影、消しゴムで消して2コマ目を描いてまた撮影、消しゴムで消して......を繰り返しています。そのため、消し跡が少しずつ残っていきます。

keioyama10_02.jpg 画用紙を撮影する際、画面に対して女の子が常に同じ大きさになるよう、カメラを画用紙に少しずつ少しずつ近づけていきます。

keioyama10_03.jpg 特殊なレンズを付けてかなりの接写ができるようになっているため、次第に画用紙の凸凹が大きく現れ、女の子の輪郭はぼやけ、最終的には何が写っているのかよくわからない状態にまでなり、画用紙の繊維が見えてきます。

keioyama10_04.jpg この、捉えようとしても掴みきれない形、消したつもりが完全には消すことのできていない輪郭線、それが積み重なってできた汚れや傷によって、「記憶」そのものを表現することを試みたのです。

アニメーターとして起用したのは国安悠太君。その時、彼は、長く付き合っていた彼女と別れ1年以上引きずっているという状態でした。「国安君ならきっとこの作品に魂を吹き込めるはずだ」僕はそう考えました。

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国安悠太君

国安君にコンセプトを話し、「なるべく絵画を描く気分で描いてほしい。つまり、見えるからといって全て機械的になぞるのではなく、自分が美しいと感じられるように描いてほしい」とお願いしました。

国安君は元カノのことを何度も何度も頭に浮かべながらこの作業を繰り返したそうです。制作期間が短かったため、時には会社に泊まり込んで作業を続けました。「筆圧を強くしすぎると紙がダメージを受けるからね」という忠告も忘れ、一心不乱に描き続けました。僕が想像していた以上に魂を吹き込んでくれました。

画が完成し、サウンドを付ける段階になり、僕と国安君でこの作品はどういう作品なのか、何度も繰り返し議論をしました。当初は「記憶」についての映画を作る予定で進めていましたが、作画を進めるうちに「失恋を引きずる男の女々しい心の叫び」の要素が強くなってきているのを感じていたためです。様々なセリフや音を録音し、複数のサウンドパターンを試し、最終的には国安君にどうするかを決めてもらいました。その結果、よりプライベートなもの、そして笑ってしまうくらいにセンチメンタルな作品として仕上げることとなったのです。

最初に考えていた方向性とは違いますが、この形になってよかった、この作品が生み出されてよかったと、心から思っています。とても愛おしい作品です。オンエア時には共同監督作品としてクレジットしていましたが、最終的には国安悠太監督作品としました。

国安君はこの作品を作ったことで、気持ちを前向きに切り替えることができたそうです。皆さんも失恋した時にはぜひ、画用紙に何百回何千回も絵を描き続けてみてください。その様子を記録すれば素敵なアニメーションが出来上がっているはずです!





keioyama00.jpg 大山 慶(おおやま けい)
アニメーション作家 1978年東京都生まれ
2005年、東京造形大学の卒業制作『診察室』が学生CGコンテスト最優秀賞、BACA-JA最優秀賞などを受賞。カンヌ国際映画祭監督週間をはじめ、海外の映画祭に正式招待される。'08年には愛知芸術センターオリジナル作品として『HAND SOAP』を制作。オランダアニメーション映画祭グランプリや広島国際アニメーション映画祭優秀賞など多数の受賞を果たす。映画『私は猫ストーカー』('08)、『ゲゲゲの女房』('10)ではアニメーションパートを担当した。現在、自ら設立に加わったCALFに在籍し、制作、配給、販売など幅広くアニメーションに携わりながら、新作『放課後』を制作中。

公式サイト : http://www.keioyama.com/
CALF : http://calf.jp/
CALF STUDIO : http://calf.jp/studio/




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