雑誌『をちこち(遠近)』
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ロボット先進国NIPPON~最先端の日本文化

石黒浩、高橋智隆、吉崎航



robot_japan04.jpg  日本を代表する気鋭のロボット研究者が、2012年の秋から冬にかけて、世界各地で、「科学技術と文化」をテーマに講演やロボットのデモンストレーションを行いました。
 石黒浩氏は南アフリカ、アンゴラ、タンザニアで人間のミニマルデザインによるコミュニケーションロボット「テレノイド」を、高橋智隆氏はサウジアラビア、カタール、アラブ首長国連邦で小型のヒューマノイドロボット「エボルタ」と「ロピッド」を、そして吉崎航氏はスペイン、イタリア、スイスで誰でも簡単に操作できるソフトウェアの「V-sido(ブシドー)」を、それぞれ紹介。
 最先端の技術と日本的な文化が集約されたロボットに対して、海外で持たれているイメージや各地での反応、そして将来の可能性について、それぞれ世界唯一無二のロボットを創造し、この分野での開発・研究を先導している3氏に語っていただきました。
(2013年1月10日 国際交流基金JFICホール「さくら」での報告を収録)



◆ 人を知るためのロボット研究
石黒 浩(いしぐろ ひろし)
知能ロボット研究者、大阪大学基礎工学研究科教授&ATR石黒浩特別研究室室長

robot_japan06.jpg  これまで、国際交流基金の事業としては、南米や東南アジア、東欧、南アフリカなど各地で講演を行ってきました。ロボットの研究というのは人を知る研究でもあるので、日本の技術をアピールするだけでなく、その都度、渡航先の国の人について知識を深め、研究やビジネスの可能性を探る活動の機会にもなってきました。
 今回は、南アフリカ(プレトリア、ヨハネスブルク、ケープタウン)、アンゴラ(ルアンダ)、タンザニア(ダルエスサラーム、ザンジバル)と、アフリカ南部の3カ国・6都市を訪問し、日常で活躍する次世代を担うようなロボットについての話をしてきました。例えば、「僕自身がアフリカに来ている間には、日本では僕のアンドロイドが演劇公演で僕の代役として出演している」という話から始まって、「アンドロイド演劇」で人間とアンドロイドの境界がどんどんなくなってきているというようなことをお話しました。

robot_japan07.jpg  アンドロイド研究を通じて人間についての理解が進んでくると、人間のミニマルデザインという概念に行き当たります。そうやって制作したのが「テレノイド」です。テレノイドについては世界中で講演していまして、ミニマルデザインの効果を実感しています。今回、アフリカでは、特に黒人の学生が「テレノイド」への反応が一番素直だという印象を受けました。
 また、「テレノイド」は、お年寄りにもとても好まれます。人間そっくりなものよりも、こうしたミニマルデザインの方が好まれるようですね。例えば、デンマークで政府が実施している老人介護のための技術開発をする国家プロジェクトに、唯一の外国チームとして私の研究チームも参加しました。現在、介護の現場では日本で開発されたセラピー用アザラシ型ロボット「パロ」というロボットが活躍している実例がありますが、より親近感を感じさせる「テレノイド」と気軽に会話をすることで、老人に寂しさを感じさせないというような運用実験を行ってきました。
 こうしたロボットが有効なのは、人間の脳は、人と話すための構造を持っているためです。ロボット研究が進むと同時に、心理学、認知科学、脳科学の研究も進んでいます。世界各地で講演することで、技術開発とは何か、人間理解とは何かについて、お伝えするとともに、フィードバックを得ています。

robot_japan08.jpg 世界各地を巡って
 以前、南米で講演を行った際は、毎回、会場に入りきらない程の多くの人が来場するなど、日本のロボットに対する関心は非常に高かったです。相撲や三味線を弾くロボットなど日本文化と絡めて紹介すると一層反応が良かったですね。
 訪問後にも活発な情報交換が続いているのがロシアです。ロシアは冷戦時代の蓄積もあり、もともと技術力のある国です。宇宙開発のノウハウもある。小型ではないが、大型のロボットを作る技術もちゃんと持っています。でも西欧や日本のように、上手に実用に繋げることができていない。そのため、熱心に学ぼうという姿勢があり、ロシアの様々な大学や研究機関から何度も招待をいただきます。私自身も、ロシアから優秀な学生や研究者を日本に招くことができるのではと期待をし、いろいろな形で交流を続けています。
 ベトナムを訪れた際は、とても高い可能性を秘めた国だと感じました。親日的な国で、国民の平均年齢が20代後半と、若い人が多い。そして、ベトナムの人は手先が器用なので、もし中国の人件費が高くなると、ロボットの製造拠点がベトナムへ移るかもしれません。ベトナムは日本が共同作業をすべき重要な国の一つとも言えるでしょうし、ベトナムにとっても、日本と協働することで国際的な競争力を得る機会になるんのではないでしょうか。
 そして、人類の発祥の地と言われるアフリカは、人を研究する私としては、とても大切な場所だと考えていました。今回、実際に訪れたアフリカの状況は、強い衝撃を私に与えました。大学の教育・研究レベルは世界的に遜色ないものの、まだまだまだ社会格差は大きい。南アフリカはアパルトヘイト政策の終了で、高等教育の現場にもより多くの黒人がいるかと思いましたが、大学や先端技術の研究の世界ではまだまだ白人中心でした。また、街の景観は美しいのですが、治安は世界有数の悪さだと言われています。この点でも、日本の協力の余地があると思いました。

robot_japan09.jpg 新しい開発の視点とビジネスチャンス
 これまでも世界各地で本当に色々なことを学ばせてもらいました。いろいろな所に行くことは、人を知り、国を知ることになります。実利的には、訪問先から優秀な留学生を受け入れるきっかけになったりもします。
 また、発展途上国は先進国とは違った技術発展の可能性があります。たとえば、新興国では、固定電話が各家庭に普及する前に、いきなり各個人に携帯電話が普及したように、ロボットについても、違う発展を遂げる可能性があると考えています。そこに日本がどのように貢献できるのかなというのは面白いところです。先進国とは全く異なるニーズがあり、そのようなニーズを掘り起こすと新たなビジネスチャンスも生まれるでしょうし、日本のロボットの製造拠点が、世界各地にできる可能性もあるでしょう。


最先端を走る日本
 ロボット開発に関しては、日本は最先端を走っています。他の分野では、アメリカなどとの競争になっていますが、ロボットとマンガ・アニメに関しては日本が圧倒的存在です。こういった分野で、日本が発展途上国との国際協力を通じて、世界全体に対して貢献できることがあると思います。
 世界各地を巡って、改めて強く思うのは、日本は本当に安全で平和な国だということです。そのために、日本が「ガラパゴス化」されていると思うときもあります。つまり、優位なところもたくさんあれば、一方で課題も山ほどある。日本を客観視する機会というのは貴重で、今後もいろんなところへ出かけていきたいと思っています。




◆ 新しいロボット時代の創造
高橋 智隆(たかはし ともたか)
ロボットクリエイター

robot_japan10.jpg  私が開発したロボットで、広く知られているものとして、パナソニックのテレビCMに登場する、電池で動く「エボルタ」というロボットがあります。ロボット自体のサイズ小さいので、世界中の色々なところに「連れて」回っています。今回はサウジアラビア、カタール、アラブ首長国連邦の中東3カ国の5都市(ジッダ、リヤド、ドーハ、アブダビ、ドバイ)で、「新しいロボット時代の創造」というタイトルで講演をしました。
 ロボットは、今までの日本が誇って来たハイブリッドカーやデジタルカメラなどのハイテクな科学技術のイメージと、アニメ、マンガ、ゲーム、キャラクターなどのポップカルチャーとしての特徴の両方の要素を含んでいます。いわば、日本が得意とする分野同士を組み合わせた「最強のネタ」と言えます。
 私の考えでは、日本人はマンガ、アニメの影響もあり、ロボットのイメージが、日本以外の人のそれとは異なっていると思います。日本人は、ロボットと友達になるとか、ロボットと暮らそうという発想を持っていることが特徴です。なぜかというと、日本のロボットは、ほどよく人間らしく、ほどよく機械らしい。そのバランスが秀逸なんです。例えば、いわゆるハリウッド映画に出てくるロボットというのは、99%機械のような見た目で人間味を感じさせない、あるいは人間そっくりすぎて見分けがつかないなど、両極端であることが多いと思いませんか?
 日本のポップカルチャーが欧米社会でも浸透するにつれ、欧米の人々のロボットに関する考え方も変化し、日本人の感覚に近寄って来ているように思います。そんななか、「日本といえばロボット」「ロボットといえば日本」という、国としても技術とコンテンツ、両方を一度にアピールすることができる、とても恵まれた外部環境にあると思っています。

robot_japan11.jpg 将来の有望成長分野として
 以前、ロボカップという国際的なロボットの競技会に参加した際に、中東諸国からの参加チームがとても多かったのが印象的でした。中でも黒いベールをかぶった女性がハンダ付けの作業をしているのを目の当たりにしたこともあり、イスラム世界でもロボットへの関心が高いことを知っていましたので、今回のサウジアラビア、カタール、アラブ首長国連邦の3カ国訪問は、とても期待しながら現地に向かいました。
 カタールでは、第23回ドーハ国際図書展での日本ブースでの文化紹介のプログラムの一環として、ロボットの紹介を行いました。カタールをはじめ近隣諸国から図書展に来場したたくさんの人に関心を持ってくれました。世界共通のロボットの魅力が人を引きつけるとともに、ロボットがこれから産業としてどうなっていくのかということに関心が高いようでした。
 中東地域では、原油が近い将来に枯渇することを見据えて、原油に依存した経済からの脱却、つまり、今後も国を発展させていけるように、今ある資金をどの分野に投資するのかを、非常に真剣にそして貪欲に探求していると感じました。そうした状況から、実際にビジネスをされている方とお話する機会も多かったです。ロボット関係のベンチャー企業を起業している若い人にも会ったりしました。

robot_japan12.jpg 会話ができる小型のヒューマノイドロボット
 講演には、「エボルタ」の他に「ロピッド」というロボットも紹介しました。音声認識機能により、人間が話しかけると応答します。また、俊敏な動きが特徴で、ジャンプしたり走ったりすることができるロボットです。
 現在のスマートフォンは、音声認識機能、つまり人間の声で操作することが技術的に可能ですが、残念ながら、使いこなしている人はほとんどいません。何故かというと、人間は、「四角い箱」に話しかけるのに、とても抵抗があるからです。一方で人は、家で飼っている金魚やクワガタなんかには、言葉を理解していないと分かっているのに声をかけてしまう。それは擬人化できるからなんです。 
 私が、小型のヒューマノイドロボットを開発している理由はここにあります。人間との会話を通じて、その人の好みや生活に関する情報を吸い上げ、その情報をもとに、家電製品を動かしたり、インターネットを通じて欲しい商品を買って、届けてもらったりすることなどが、もっと容易に出来るようになる。
 解りやすく説明をすると、まるで「ゲゲゲの鬼太郎」に登場する「目玉おやじ」や妖精のティンカー・ベルのように胸ポケットに収まっていて、話しかけられるような手足が生えているスマートフォンを想像してみてください。作業するためのロボットではなく、人とコミュニケーションを取るために、人のような形をした小型のヒューマノイドロボットが普及している時代が、15年後ぐらいには実現するだろうと思っています。こうした未来が「日本発」でできればいいなと考えています。




◆ 巨大ロボットまでを自在に操作するソフトウェア
吉崎 航(よしざき わたる)
産業技術総合研究所テクニカルスタッフ

robot_japan13.jpg  私は現在、奈良先端科学技術大学院博士課程に在籍する大学院生として研究をしながら、個人で会社を立ち上げ、ロボットの開発をしています。私が開発しているロボット操作のソフトウェア「V-sido(ブシドー)」は、市販の小さなロボットから巨大ロボットまで誰でも自由に動かすことができるソフトウェアです。
 市販品のロボットは、コントローラーの十字キーを押すと前に進むとか、ボタンを押すとパンチをするとか、簡単な動きしかすることができません。しかし、「V-sido(ブシドー)」を使用することで、マウスやi Phoneを使ってロボットのCGをなぞるだけでロボットを自由に動かすことができます。例えば、即興で踊りをつくるとか、バランスをとりながら歩くといったことが可能です。また、シミュレーターで姿勢を安定させることで、人間の動きをそのまま全身コピーして動かすこともでき、風船を割るといった、瞬発力の必要な動きをすることもできます。そうした動作の全てを、まるでロボットのコックピットにいるかのように行うことができるというものです。iPhoneを使用して遠隔操作をすることもできます。

robot_japan14.jpg ヨーロッパ各地での反応
 今回、私はスペイン、イタリア、スイスの欧州3カ国・5都市(マドリード、バルセロナ、ローマ、チューリッヒ、ローザンヌ)を巡り、一般の方から工学を専攻する学生や専門家に、日本のロボット開発の現状や、日本のロボットアニメが研究者にどのような影響を与えているか-私自身も大きな影響を受けました-をお話し、実際に「V-sido(ブシドー)」使って小型の二足歩行ロボットを動かすデモンストレーションを行いました。
 最初に訪れたマドリードでは、街を挙げてのサイエンス・イベントを多数開催している最中だったため、カルロス・テルセロ大学を会場にして、主に大学生に講義を行いました。プロジェクトの規模やコスト、自分が作るならどうするかという質問を受けたり、「一緒に巨大ロボットを作りませんか」という、思ってもみないお誘いもいただきました。
 ローマでは、国際交流基金ローマ日本文化会館で一般の方を対象に話をしました。聴衆のほとんどが「日本のアニメは見たことがありますか?」という質問に手を挙げ、さらに「ロボットアニメは見たことがありますか」という質問にも、8割程度の人が手を挙げるなど、ロボットアニメに親しみを持つイタリア人が集まっている様子でした。そのため、開発に着目した質問よりも、自分が遊んでみるとしたら、と使い手としての感想が多く聞かれました。
 スイスのチューリッヒ工科大学では、「この技術はどのように開発したのか」「オートバランサーはどのような仕組みになっているのか」など、学術用語も飛び交いながら、開発をするための再現性を問う技術的な質問が多く出ました。提案やアイディアの交換などもでき、開発者としては、技術的な面で最も実りのあるデモンストレーションになりました。

robot_japan15.jpg ロボットに対する価値観の違い
 私自身がアニメ作品の影響を受けてロボット開発の道に進んだので、どの講演地でも、「ロボットアニメを見ていますか」という質問をしました。もちろん、「ガンダム」など有名な作品は当然多くの人が知っており、地域や参加者の世代などで差がありますが、日本ではあまり聞いたことがないような日本のアニメ作品まで知っている人もいて、私の想像以上でした。
 日本では「ロボットが好き」というと、アニメのロボットを指したり、私のように、その「好き」が嵩じて研究者の道に進むきっかけに繋がっていたりすることが多いのですが、欧州では一般的に、現実の世界で使われている産業用ロボットと、アニメ作品に登場する(架空の)人型ロボットは、全く別の物と捉えている人が多い印象を受けました。
 つまり、現実世界で活用されるために開発するロボットは仕事をこなしてはじめて有意と言えるが、一方で、アニメのロボットは、物語に登場するキャラクターなのだから、中身の機械の仕組みの詳細にはあまり気にしないという考え方です。
 私自身は、現時点では具体的にすぐ社会の役に立つことのない種類のロボット開発を行っていることが多いので、「巨大ロボットはいらないだろう」と言われると、非常に困るのですが、巨大ロボットがいらない社会というのは、現実的には妥当なのかもしれません。それでも、将来は、人間の努力で、巨大ロボットが役に立つような社会を構築することもできればいいなと考えています。作らないことを選ぶのではなく、どのような方法をとれば、社会で巨大ロボットが役に立つかということを考えながら、日々の研究開発に取り組んでいます。


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(編集:友川綾子)
(撮影:相川健一)





robot_japan01.jpg 石黒 浩 (いしぐろ ひろし)
知能ロボット研究者。自身のアンドロイド「ジェミノイド」等を開発。 大阪大学教授、ATR (国際電気通信基礎技術研究所) 石黒浩特別研究室長。 2011年大阪文化賞 (大阪府・大阪市) 、2012年志田林三郎賞 (総務省) 受賞。 『人と芸術とアンドロイド-私はなぜロボットを作るのか』 (日本評論社) など、著書多数。
国際交流基金の最近の事業では、2012年11月、 南アフリカ・アンゴラ・タンザニアでレクデモを実施。また、2013年1月~3月にかけて、平田オリザとの長年にわたる芸術と科学の相互学術的な協力の結果生まれた、人間俳優とアンドロイド/ロボットの共演作、アンドロイド演劇『さようなら』とロボット演劇『働く私』が北米で巡回公演

white.jpg http://www.geminoid.jp/ja/robots.html
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(左)ジェミノイドHI-2、(右)ジェミノイド F
(c) Hiroshi Ishiguro Laboratory, ATR


robot_japan02.jpg 高橋 智隆 (たかはし ともたか)
ロボットクリエイター。親しみやすく洗練されたロボットを多く開発。(株)ロボ・ガレージ代表、東京大学先端科学技術研究センター特任准教授。米タイム誌で自作「クロイノ」が「最もクールな発明」に選出(2004年)。2012年12月、サウジアラビア・カタール・アラブ首長国連邦にてレクデモを実施

white.jpg http://www.robo-garage.com/cr/index.html
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(左)CHROINO クロイノ、(右)FT エフティ
(c) 2009 ROBO GARAGE Co.,Ltd.


robot_japan03.jpg 吉崎 航 (よしざき わたる)
ロボット研究・開発者。産業技術総合研究所テクニカルスタッフ。 奈良産先端科学技術大学院大学博士後期課程在籍。 未踏IT人材発掘・育成事業「スーパークリエータ」認定 (2010年) 。 誰にでも簡単に操作できるロボットインターフェース「V-Sido」を開発。「V-Sido」搭載の巨大人型四脚ロボット「KURATAS」でも知られる。 2012年11月、スペイン・イタリア・スイスにてレクデモを実施 white.jpg http://vsido.uijin.com/index.html
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V-Sidoの機能(左)簡単姿勢制御、(右)ARコクピット
(c) 吉崎航 2009




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