雑誌『をちこち(遠近)』
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日本文化を体験する~京都からの発信

京都支部
斎木 宣隆



 国際交流基金は京都に支部を持ち、関西圏の国際交流の担い手と連携し、海外からの留学生・研究者を対象とした日本文化紹介活動を進めています。また、国際交流に関心をもつ市民の皆さまとの対話や交流などの活動も行っています。そんな京都支部の活動について、ご紹介します。



外国人の目に映った能と狂言とは
 国際交流基金の京都支部では、毎年秋に「国際交流の夕べ~能と狂言の会」という事業を開催しています。関西在住の外国人の方々に日本の伝統芸能を鑑賞していただくことが目的です。
 2012年は、国際交流基金設立40周年および関西国際センター設立15周年記念事業として11月20日に開催しました。
 演目は狂言が「寝音曲」(茂山千五郎師)、能は「一角仙人」(片山九郎右衛門師)。晩秋で冷え込みが強い日となったにもかかわらず、会場の京都観世会館には開場前から長い行列ができました。国際交流基金の招聘者や海外からの留学生、外交官、芸術家など様々なバックグラウンドをもった外国人が来場し、会場は満席の盛況となりました。

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写真撮影(左下、右下):高橋章夫

 能と狂言を鑑賞した外国人が、何を感じ、どのようなことを発見したのか、アンケートとあわせてヒアリングを行なったところ、次のような感想が寄せられました。   



初めて能を観た。オペラのようなものだと思っていたが全然違う。オペラではオーケストラは隠れたところで演奏しているが、能の場合は、舞台の上に地謡と囃子方の奏者がいて主役と一体となって能の流れの重要な部分をつくっている
(イタリア人留学生)

ヨーロッパの古典演劇で出演者が見せる動きと比べると、能の役者が舞台で展開する動作はスローモーション画像のように見えるが、スピードを極力抑えた一つひとつの手の動きや仕草は、鼓(つつみ)や太鼓の音、そして囃子の音色と絶妙に連動している
(ドイツ人アーティスト)

能は日本で生まれた文化なのに、中国やアジアなどを舞台にしているので身近に感じた
(中国人留学生)

シリアスで深い内容の能を笑いを誘う狂言とセットにして観客に楽しんでもらうという演劇スタイルはヨーロッパにはない日本独自のもの
(イタリア人外交官)

狂言は、楽しくて分かりやすい。イタリアの喜劇に通じるものがある
(イタリア人研究者)

能衣裳の目の覚めるような美しさに圧倒された
能面の表情は固定しているのに、心の動きが伝わるような表現技術は見事すぎる。600年も続いてきた伝統芸能の根っこが見えたような気がする
(米国人留学生)



 これらの感想は、ただ単に珍しいものを見たという皮相なレベルにとどまるものではありません。自分の国の文化との比較で日本文化をとらえ、その真髄に迫ろうとする鑑賞眼の鋭さには驚くべきものがあります。



日本文化体験~伝統工芸からロボットまで
 「能と狂言の会」は日本文化紹介という観点から大きなインパクトを残しましたが、京都支部としては、能と狂言の他にも京都ならではの様々な文化にふれる機会を提供したいという思いから、2年前に「日本文化体験プログラム」を新たに立ち上げました。


錦織物の工房見学
kyoto_experience03.jpg kyoto_experience04.jpg 織物美術の第一人者として活躍中の龍村光峯先生の工房を訪問。織物の歴史や作品の講義の後、機織の現場を見学。完成した美しい織物を鑑賞するだけでなく、完成に至る工程を知ることができて貴重な文化体験になったと参加者全員が感銘を受けていました。


紙漉き体験
kyoto_experience05.jpg kyoto_experience06.jpg 和紙の老舗「楽紙館」にて紙漉きを体験。参加者たちは「ふだん目にする和紙は完成品。完成させるプロセスを知りたかったので手漉きを体験できて有意義だった」「和紙が以前よりも身近に感じられるようになった」と話していました。


清水焼の現場を訪ねる
kyoto_experience07.jpg kyoto_experience08.jpg 京都の東山五条にある「藤平陶芸」の登り窯を見学。「京都の伝統的な陶芸について歴史的背景を知ることができた」「焼き物がどのようにして作られるかがよくわかった」と参加者たちは焼き物についての理解を深めました。


和菓子の手づくり体験
kyoto_experience09.jpg kyoto_experience10.jpg 京都の和菓子の老舗「老松」で和菓子の歴史について講義を受けたあと、実際に和菓子を作ってみました。参加者たちは「和菓子は味覚だけの文化ではない。季節感が表現されている」「見るだけでなく体験できたことで理解が深まった」と喜びを語ってくれました。


酒造りの現場を訪ねる
kyoto_experience11.jpg kyoto_experience12.jpg 京都の伏見にある月桂冠の酒蔵を訪問し、酒造りの用具と製造工程を見学したあと、試飲も行ないました。参加者たちは「海外で日本酒は人気があるが、製造工程を見たのは初めて。ワインの製造方法との違いがわかって、貴重な文化体験になった」と話していました。


友禅染め体験
kyoto_experience13.jpg kyoto_experience14.jpg丸益西村屋」の工房で友禅染めの体験を行ないました。参加者たちからは「風呂敷を京友禅で染めるプロセスは楽しく有意義なひとときだった」「友禅染めに凝縮された美意識にふれる貴重な体験となった」との感想が聞かれました。


ロボット研究の現場を訪ねる
kyoto_experience15.jpg kyoto_experience16.jpg 関西文化学術研究都市(愛称:けいはんな学研都市)にある国際電気通信基礎技術研究所(ATR)を訪問しました。ロボット研究の最新事情についてレクチャーを受けた後、新しく開発された様々なロボットの実物にふれる体験をしました。参加者たちは「日本のロボット研究のレベルの高さに驚いた」「伝統工芸と先端技術はつながっていると実感した」と興奮して話していました。



日本文化を体験することで見えてきたもの
 日本文化体験プログラムには、国際交流基金が世界各国から招いているフェローのほか、ゲーテ・インスティテュート(ドイツ文化センター)日仏交流会館の招きで京都に滞在中の芸術家など幅広い層の外国人が参加しました。
 皆それぞれの専門領域における高度な知識を持った人たちですが、日本文化についてオールラウンドな知識をもっているわけではないので、国際交流基金京都支部が企画した「日本文化体験プログラム」は日本文化を肌で感じる貴重な機会となったようです。伝統工芸からロボットに至るまで、様々な「ものづくり」の現場を訪ね、完成品を見るだけでなく、完成までのプロセスを知ることができて有意義だったと参加者は異口同音に語っていました。
 また、「和菓子の手作り体験」、「友禅染め体験」、「紙漉き体験」など、初めての体験に悪戦苦闘しながらも実際に「作ってみる」、「染めてみる」、「漉いてみる」ことで、それまで表面しか見えなかった日本文化の中身が見えたそうです。
 こうしたことに加えて、参加者たちは、ものづくりを支えている職人のスピリット(心意気のようなもの)を感じたと言います。織物、染物といった伝統工芸から酒造り、和菓子などの食文化に至るまで、匠の技を発揮する人たちとの対話を通して伝わってきた「ものづくりへの熱い思い」、「頑ななまでの完成度へのこだわり」、そして「伝統を受け継ぎながらも常に新しいものを追求する姿勢」に心を打たれたそうです。日本文化に対して芽生えた関心が「体験」というステップを踏んで「感動」へと発展した瞬間です。
 日本人とは文化的バックグラウンドが異なる外国の人たちから、日本文化体験で得たものについてフィードバックを受けたとき、日本人でありながら、気づかなかった日本文化の新しい面が見えてきます。
 京都は文化の宝庫であり、外国人に日本文化を発信する上で理想的な環境を備えています。このメリットを最大限に生かした取り組みを進めることで、外国から来ている人たちに日本文化の根っこにあるものを感じ取ってもらうことをめざすと同時に、日本人にとっても日本文化を再発見する機会になればと願うものです。





国際交流基金(ジャパンファウンデーション)京都支部
〒606-8436
京都市左京区粟田口鳥居町2番地の1
京都市国際交流会館3階
(地下鉄東西線蹴上駅より徒歩6分)
電話 : 075-762-1136




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