雑誌『をちこち(遠近)』
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ダイバーシティ=多様性の実現に向けて 〜ザルツブルクの湖畔で放つ次世代へのメッセージ〜

須藤 シンジ
NPO法人ピープルデザイン研究所代表理事、有限会社フジヤマストア/ネクスタイド・エボリューション代表取締役社長)



国際交流基金(ジャパンファウンデーション)は、1994年よりザルツブルグ・グローバル・セミナーに助成を行っています。2012年からは、本セミナーの一つで、各国から文化芸術を通して地域社会の活性化や新たな価値の創造に取り組む若手が集まり、意見交換、共通課題の解決に向け議論をする、ヤング・カルチュラル・イノベーターズ・フォーラムに企画参画し、日本人参加者の人選・派遣を行っています。2015年10月に開催された本セミナーで講演をお願いした、須藤シンジ氏に講演の内容、現地で講演を聴かれた方々の反応、セミナーに参加した感想と今後の展望についてご寄稿いただきました。

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ヤング・カルチュラル・イノベーターズ・フォーラムの様子


「列車はシリアからの難民の影響で、最大二日間止まるかもしれません」。
ザルツブルクからミュンヘンへの帰路を鉄道で予定していたのだが、急遽乗り合いバスへの変更を余儀なくされた。

古城の麓、静かな湖畔で過ごしたザルツブルクでの一週間は、その穏やかな環境とは裏腹に現実を超越した刺激に満ち溢れていた。

世界中から招へいされた「ヤング・カルチュラル・イノベーターズ」約70名。今回、ザルツブルグ・グローバル・セミナー2015、#554のKey Note Speakerとしてお招きいただいた。私達が"意識(心)のバリアフリーをクリエイティブに実現する思考と方法論"として提唱している「People Design」の展開実例を用い、様々なディスカッションとワークショップを通して、次世代に向けた新しい「視座」を伝えるのが目的だ。

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「People Design」について、実例を挙げながら講義する須藤氏


伝えるべくは、"ダイバーシティ=多様性の容認"こそ、地球市民が共存する上での持続可能な有様のひとつであること。違いがある人々が混ざり合い、共生することを地域や国の価値にしていこうとするアプローチの提示。それは、今既にあるリソースや知恵を発動することで実現可能であるというのが出発点だ。自身の息子が障害児として出生したことに起因する13年に渡る私達の活動を通して、障害者の社会参画に焦点を絞りこれを展開した。ややもすると弱者救済やイデオロギーの対立に至る可能性も高い医療・福祉がテーマだが、これを、デザインやファッション、スポーツやエンタメなど、経済の力を活用して行う具体的な実例を製品や写真を多用してレクチャーする。障害者や高齢者を、"社会的なコスト"から"経済発展の為のコンセプト"と位置付ける意識変化を促す試みでもあった。要諦は、義務や理屈を凌駕するほどの"ワクワク・ドキドキ"する感覚の喚起。"直感的"に。"LIKE !=いいね!"の数を集めるノウハウと言えるかもしれない。

今回用意したのは、
•ファッションをツールにしたダイバーシティ=多様性のメッセージとマーケティング。
•スポーツを活用した障害者就労の新たな形。
•社会的コストから市場創造へ、都市を"媒体"に市場ニーズをも喚起するプロモーション。
の三つの事例だ。
( NPO法人ピープルデザイン研究所ネクスタイド・エボリューション)

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(左、右)各分科会の様子


毎日開催されるその他セッションは、分科会形式で概ね15名単位で進行する。各会合後、各国の未来を創るイノベーター達との議論は終わることがなかった。それぞれが抱える"problem=問題"に対して"solution=解決策"を見出していく作業が連日連夜、時に明け方まで続いた。その一つひとつがどれも具体的で主体性の高いものだった。

例えば、図書室を会場にしたあるワークショップで、カンボジアから来た女性が問題を提起した。
「私は文学作家として恋愛を核に据えた小説を書いているが、自国ではイデオロギーの問題から"恋愛表現はご法度"で発刊できない」というものだ。
私達のグループの導き出した解決策は、本セミナーの参加者全員に原作を同報配信し、各国語に翻訳。それを各々のSNSで発信する。数年後の当セミナーで出版。この図書室に並べようというものだった。

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セミナー会場となり、本セミナーで生まれた書籍が並ぶ予定の図書室

ここを離れるのは名残惜しい。
少し寒くなってきた。
参加者の一人がやってきて、乗り合いバスを待つ私に早口でプレゼンを始めた。

「是非、今回のあなたの話や手法を多くの人に伝えたい。僕も自分で始めたい。学生、市民、企業人を集めるよ。この街から新しいダイバーシティを世界に発信したいんだ。観光業と重ねるのもいいと思ってる。」

帰国した今、来年のスケジュール帳にはこう記されている。
"2016年6月、新規プロジェクト始動@ザルツブルグ国立大学"

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ザルツブルグ・グローバル・セミナー参加者による記念写真





diversity_salzburg06.jpg 須藤 シンジ(すどう しんじ)
大学卒業後、株式会社丸井に入社。宣伝、バイヤー、副店長などを歴任。次男が脳性麻痺で出生し、以来障害児の親として現行の福祉の在り方に疑問を感じ、数年間ボランティア活動等に参加しながら、自身が能動的に起こせる活動の切り口を模索。2000年に独立し、有限会社フジヤマストアを設立。2002年にソーシャルプロジェクト/ネクスタイド・エヴォリューションを開始。世界のトップクリエイターとのコラボレーションで、「意識のバリアフリー」を実現する「ピープルデザイン」という新たな概念を立ち上げ、障害の有無を問わずハイセンスに着こなせるアイテムや、各種イベントをプロデュース。2012年にはNPOピープルデザイン研究所を創設し、代表理事に就任。




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