「新型コロナウイルス下での越境・交流・創造」JFの取り組み<1>
「中国ふれあいの場事業」にみるデジタルネーティブ世代の日中オンライン交流

2020.10.15
【特集073】

山﨑 貴哉
(国際交流基金 日中交流センター)

「新型コロナウイルス下での越境・交流・創造」JFの取り組み(特集概要はこちら

国際交流基金日中交流センターは、日中間の青少年交流の活発化を目的として2006年に設立されました。中国の高校生を約1年にわたり日本に招き、ホームステイや日本の高校への留学を体験する「中国高校生長期招へい事業」と並んで、センターの主要事業として10年以上継続して実施しているプログラムが「中国ふれあいの場事業」(以下「ふれあいの場」)です。
「ふれあいの場」は中国各地17カ所に設置されている交流スペースで、現地では主に中国の大学が運営しています。日中交流センターはイベント実施等の支援を行っていて、各地の「ふれあいの場」を巡回するイベントを共催したり、講師や日本の学生の派遣等を行ったりしてきました。
今回の新型コロナウイルスの世界的な感染拡大で2020年3月に予定されていたイベントが延期や中止となる中、「今できることをやっていこう」と、「ふれあいの場」に関わってきた多くの人たちが創意工夫によって交流を続けています。今回は、こうした交流の現場の取り組みについて紹介します。

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第3回「日中茶話会」でオンラインで交流する日中の学生たち

2020年2月、中国での感染拡大を受け、「中国ふれあいの場大学生交流事業」で3月に中国各地に派遣される予定だった日本の大学生グループの渡航は中止になってしまいました。日本の大学生グループは、中国の大学生に向けた応援メッセージの動画を作ってくれました。一人一人が中国の参加者に向けて「中国加油(中国頑張れ)!」、「会える日を楽しみにしています」等と呼びかけました。SNSを通じて中国側参加者に共有すると、早速中国側からも日本への応援メッセージ動画が届きました。
日中ともに今の学生さんたちは動画やオンラインに親しんだ"デジタルネーティブ"世代といってもよく、半日で企画、撮影を終え、編集も素早くこなしてくれたのには、私たちスタッフも感心しきりでした。ここで動画を作ってくれた学生の一人、和歌山大学の小林亜美さんに聞いてみたいと思います。

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国際交流基金関西国際センターで動画を作成した際の小林さん(左から3人目)ら和歌山大のメンバー

小林さん:今回中国への派遣が中止になり、オンラインでの交流を試みましたが、やはり慣れないことだったので戸惑いました。中国側の直接的な反応が分からず、出来上がりの想像もつかず撮影したので不安もありましたが、「気持ちを伝えよう!」と撮影しました。しかし、WeChat(中国のSNS)に動画を投稿すると、すぐに中国のカウンターパートや中国人の友達から「動画見たよ! ありがとう」とメッセージがきて、安心するのと同時に、うれしさが込み上げてきました。「またいつか会おうね!」というカウンターパートの強い気持ちが文面から伝わってきました。渡航できず悲しんでいた私たち皆が、彼ら彼女らからのメッセージでやる気を取り戻し、いつか会える日を楽しみにお互い頑張ることを約束しました。実際に会うことでしか得られない感動はもちろんあると思いますが、こんな時だからこそオンラインでお互いを励まし合って、切磋琢磨していける仲間は大切だと実感しました。

★動画はこちら(国際交流基金 日中交流センター公式YouTubeチャンネル)
日本から中国へのメッセージ


中国から日本へのメッセージ

その後、中国側の感染状況が沈静化してきたこともあり、各「ふれあいの場」でオンラインイベントが試験的に実施され始めました。ここでは、各地の「ふれあいの場」の運営のためにセンターが派遣している「ふれあいパートナーズ」として、「貴陽ふれあいの場」(貴州省)で活動する作間温子さんに聞いてみました。

作間さん:4月から8月にかけ、中国のビデオ会議アプリを用いて、「日中茶話会」を3回開催しました。過去に大学生交流事業に参加してくれたOB・OGのつながりを生かして日中両国の参加者を募集し、日本語学科の学生や日本人大学生等、毎回30人程度が参加してくれました。5月に実施した第2回では、ゴールデンウィーク中の過ごし方、日中の5月の祝日の意味、習慣の違い等をテーマに日本語を使って話し合いました。
最初の頃は、参加人数が多くて一人一人が話す時間が短かったため、第3回では、事前に2グループに分けて交流を行うよう工夫しました。募集時に日本側・中国側参加者の語学力や大学生事業の所属チームなどの情報を把握し、できるだけバランスよくグループ分けするように考えたほか、司会は2人で中国語と日本語で担当を分け、通訳補助の学生も配置する等改善したので、進めやすくなったと思います。
難しかった点は、「日中茶話会」に利用した中国のSNSを使う時、普段使い慣れていない日本人にとっては、ソフトやアプリをダウンロードできない、できてもログインできない等のトラブルが発生しました。こうした茶話会のほかにも、日本語能力に不安があり日本語での参加を遠慮していた学生のために、歌を披露しあって交流する「茶歌会」も企画しました。

また、「アモイふれあいの場」(福建省)では、「オンラインでのすし作り」という、一風変わったイベントも行われました。中国の学生がオリジナルの寿司の写真や動画を投稿し、SNSで一般の視聴者からのオンライン投票と、日本語学科の先生3名の審査員により、すしの作り方や盛り付け、創造性や動画編集等の総合スコアによって優秀作品が選ばれました。本格的な握りずしから見た目も華やかな巻きずしまで、学生の皆さんのスキルの高さには私たちも驚かされました。担当者である厦門大学嘉庚学院の林芸華さんのお話です。

林さん:すし作り大会自体は「ふれあいの場」ができる前から大学内で実施してきたのですが、オンラインでの開催は初めてでした。参加者の間の交流はどうしても限定的となり、皆で一つの活動に参加している、という一体感を出すのは難しかったですが、寿司作りの動画を評価対象とすることで、動画の演出面を競う要素も出てくるとともに、活動の記録が動画や写真を通じて容易になりました。今回のように動画を作成してもらうことでより効果的なイベントになったと思います。何事もチャレンジですね。

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プロ顔負けの仕上がりで審査員らを驚かせた入選作の一例


★寿司づくりの様子はこちら(「アモイふれあいの場」公式SNSアカウント、中国語のみ)
https://mp.weixin.qq.com/s/ar3iXUxOhQyjRJja5aZ2Zg

このように、各地の「ふれあいの場」で、いくつかのオンラインイベントが始まっているほか、西寧(青海省)のように一部の地域では、茶道のような対面のイベントも実施できるようになってきました。オンライン交流の取り組みは始まったばかりですが、若い世代の皆さんの順応力により、思っていた以上に早く、新しい企画が生まれつつあります。今後も試行錯誤しながら交流を続けてもらうべく、日中交流センターとしてもサポートしていきたいと思います。

中国ふれあいの場
https://xinlianxin.jpf.go.jp/fureai/


国際交流基金日中センターでは、中国との文化交流に関心を有する学生からのオンラインイベント企画を10月26日まで募集しています。
https://xinlianxin.jpf.go.jp/network/college/proporsal/


山﨑 貴哉(やまざき たかや)
大学院修了後、国際交流基金入職。中国駐在などを経て、2017年より日中交流センターにて、「中国ふれあいの場事業」を主に担当。

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