雑誌『をちこち(遠近)』
バックナンバー

バックナンバー一覧

「新型コロナウイルス下での越境・交流・創造」JFの取り組み<5>
オンラインでつながる全国各地の国際交流団体

2020.11.17

那波 育子、佐藤 麻里絵
(国際交流基金 コミュニケーションセンター)

「新型コロナウイルス下での越境・交流・創造」JFの取り組み(特集概要はこちら

海外での事業が多い国際交流基金ですが、国際文化交流に取り組む日本各地の団体を対象に「国際交流基金地球市民賞」を贈る事業も行っています。「文化芸術による地域づくりの推進」「多様な文化の共生の推進」「市民連携・国際相互理解の推進」の3分野を対象に、これまでの35年の歴史の間に受賞団体は109となりました。2016年からは従来の顕彰に加え、フォローアップイベント*¹ として、過去の受賞団体が集まり、各団体の課題を共有するワークショップや、受賞団体の活動を広く知っていただく公開シンポジウムを、富山、兵庫、三重の3県で開催してきました。

しかし、コロナの影響により、2020年3月9日に東京で予定していた2019年度国際交流基金地球市民賞授賞式が中止になってしまいました。フォローアップイベントの開催も困難となり、2020年8月に手探りでオンラインでのトークイベントを実施しました。2019年度の外部の選考委員とも協議を重ね、「コロナ禍でも市民同士の国際交流活動を止めてはいけない」という熱い思いや、「解決策を提示する場ではなく、コロナ禍で皆が抱える課題意識を共有する場であることが重要」という心強いアドバイスが開催決定の後押しとなりました。

21.1 2019-citizenship-followup-report_08-thumb-475xauto-25305.jpg
21.2 2019-citizenship-followup-report_01-thumb-475xauto-25298.jpg

2019年に三重県で開催したフォローアップ事業の公開シンポジウム

2019年のフォローアップ事業参加受賞団体や関係者

7月上旬、まずは受賞団体の皆さんの状況を把握しようと、コロナで今何が起きていて、何が課題となっているのか、ヒアリングを行いました。

神戸市を拠点に活動する、社会とアートをつなぐアーティストたちの団体「C.A.P.(芸術と計画会議)」ディレクターの下田展久さんは、「皆、コロナ禍はすぐに元に戻ると思って待っていた中、まず動き出したのは、動けなくてうずうずしていたアーティストだった」と言います。
これまで対面で行っていたアート講座を「人と会えない」ということをテーマに家でも楽しめる形で用意するアーティストや、目白押しだった海外とのプログラムが延期になる中、2020年9~11月開催の「六甲ミーツ・アート 芸術散歩2020」に向けて、ドイツのアーティストと共に、「この共創のプロセスこそがかけがえのないもので、たとえ中止になっても悔いはない」と思いを一つに創作活動をしているアーティストたちの、前に進もうとしている姿に力を得たそうです。

神奈川県で外国人の医療通訳のコーディネートをしている「MICかながわ」理事の岩本弥生さんからは、「コロナで病院に行くことを自粛する患者が増え、さらに通訳がウイルスの媒介者になってはいけないとの考えから同行が難しくなった。同行でなければ通訳はいらないという病院もあり、改めて同行通訳と遠隔での通訳それぞれの意味を考えるきっかけとなった。また、医療通訳の研修をオンラインで実施することで受講者が増え、外国人が参加しやすくなった」等の実情を伺うことができました。

世界中で同じ課題を共有することで一体感が生まれたこと、過去に縁のあった人から連絡がきて、時には寄付や新しいプロジェクトにつながったり、思いがけない再会になったり、この状況下で生まれた事象も共通のものがありました。
大変な状況なのではないかというこちらの心配も杞憂に終わり、コロナに負けず、活動の継続に取り組む皆様に逆に元気をもらいました。

こうして2020年度のフォローアップ事業は、コロナ禍での各団体の課題を共有し新たな可能性を探ることを目的に、「コロナ時代の地域の国際文化交流」と題した2日間のウェブセミナー*² を8月上旬に実施。両日計10団体、300人を超える方が視聴してくださいました。

21.3.jpg1日目の配信の模様

初日8月6日のテーマは、「多文化共生」。モデレーターに田村太郎さん(ダイバーシティ研究所代表理事)、藤沢久美さん(シンクタンク・ソフィアバンク代表)を迎え、テーマに関わる5つの受賞団体の活動状況を伺いました。
オンラインとオフラインを組み合わせて活動することでより多く、地域にとらわれず広範囲に支援者を募ることができ、新たな連携の可能性が生まれたという報告もありました。「交流の基本は対面だが、ウィズコロナの今、オンラインを組み合わせて臨機応変に対応できる体制づくりが大事。コロナ後の新しい生活様式でも、大切な命を守る『つながりと連帯』を意識したい」(熊本市国際交流振興事業団事務局長・八木浩光さん)、「課題解決のために、ベンチャー企業と連携する等、業態を超えた交流が重要である」(グローバル人財サポート浜松代表理事・堀永乃さん)、「本質的な価値のあるものは形を変えてでも生き残る。国際交流活動は変わらず必要であるからこそ、今後もチャレンジが必要だ」(モデレーター田村さん)という未来志向の議論が交わされました。

2日目は2部構成とし、第1部「国際交流・市民連携」は、藤沢さん、若林朋子さん(プロジェクト・コーディネーター、プランナー)をモデレーターに迎え、若者向けに国際交流プログラムを行う3つの受賞団体が参加しました。
オンライン化で参加が手軽になった反面、交流のきっかけに不可欠な言葉を超えた部分の情報量が少なく、初参加やオンラインに慣れていない人と関係を深めることが難しいという体験や、国をまたいだ交流でネット環境の違いや時差に戸惑う等、リアルな声が共有されました。
「アジア太平洋こども会議・イン福岡」プログラム・コーディネーターの有冨愛さんからは「対面だからこそできることは言語を超えた心の交流。ウェブでリアルタイムに交流していくには、言葉が大きな役割を果たすが、目指すのは言語を超えた心の交流にあり、子どもたちが心を通い合わせていくためには、相手の表情や雰囲気等を感じ取り、分かり合おうとする非言語での交信も積み重ねていくことが重要」との指摘がありました。

第2部「アートによる地域づくり」では、河島伸子さん(同志社大学経済学部教授)、若林さんのモデレーションで、コロナ下でも2020年度のイベント実施を決定し、それに向けて奔走されている2つのアート団体にお話しいただきました。

「黄金町エリアマネジメントセンター」事務局長の山野真悟さんは、横浜市で主催するアートフェスティバル「黄金町バサール2020」(11月29日まで開催中)に向けたリモートでの作品制作や、これまで受け入れていたインターンの業務をオンラインで行う「オンライン・インターン」という新しい取り組みを紹介。

2021年3月に演劇フェスティバル「りっか*りっかフェスタ」の開催を決めた、国際児童・青少年演劇フェスティバルおきなわ実行委員会代表の下山久さんは、「コロナ禍で大人も大変だが一番大変なのは子どもたち。この子どもたちにどのように舞台や芸術を通して生きる勇気を届けるか、世界共通の課題となっていて、各国の参加カンパニーとオンラインで頻繁につながって試行錯誤している。今回の経験を経て、多くの国や地域を巻き込んだオンライン国際共同制作も一層増えていくのではないか」と語りました。

21.4.jpg
2日目のクロージングセッションに登場した皆さん

最後に登壇者9人全員がそろったクロージングセッションでは、パンゲア理事長・森由美子さんから、「オンラインでは何から何まで伝えるのは難しい。目的とする要素を分けて、それぞれを訴求するためにオンラインで何ができるかと考えることが必要」との興味深いお話も聞くことができました。モデレーターの藤沢さんからは、「第1部で有冨さんが問題提起した、オンラインでは難しい非言語での交信に、第2部で登場した団体が取り組むアートとの協働が助けになるのではないか」というコメントもあり、各参加団体同士のコラボレーションへの期待感が示されました。

両日とも視聴者からは答えられないほどの数の質問や提案が寄せられ、ライブ配信ならではの双方向的なセッションとなり、視聴者の皆さんもコロナという前例のない状況の中で、同じように模索しながら参加してくださったことがうかがえました。

コロナ禍は、今までの常識が覆される中で、いったん立ち止まる機会となり、革新のチャンスにもなるのではないか。ただじっと待つのではなく、今何ができるか考えて試行錯誤し、横断的につながりながら、少しでも前に進んでいくことを受賞団体の皆さんから教えられました。全国各地からこれだけの受賞団体に実際に集まっていただくのは難しく、オンラインならではの利点もありました。一方で対面の重要さ、また言葉を超えた交流は、対面でないと伝わらないことがあるのを再認識しました。
コロナが収束したとしても、オンラインとオフラインの両方を活用することで、交流事業をさらに深みのあるものにできるのではないかと思います。私たちにとって、その第一歩となるイベントとなりました。

serialized-essay_jp_202008_1-9.jpg
国際交流基金地球市民賞
https://www.jpf.go.jp/j/about/citizen/

*¹ 2019年度国際交流基金地球市民賞フォローアップ事業レポート(ウェブマガジンをちこち)
https://www.wochikochi.jp/foreign/2019/10/2019-prizes-for-global-citizenship-followup-report.php
★シンポジウム報告書はこちら
2018年 https://www.jpf.go.jp/j/about/citizen/followup/pdf/2018_fellowup-report.pdf
2019年 https://www.jpf.go.jp/j/about/citizen/followup/pdf/2019_fellowup-report.pdf
*² 当日のイベントの模様は国際交流基金公式YouTubeチャンネルでご覧いただけます。(2020年12月末日まで配信中)
第1回 https://www.youtube.com/watch?v=YBv2YfjbYoA
第2回 https://www.youtube.com/watch?v=WclX05dfx08

21.5_2.jpg
那波 育子(なわ いくこ)写真手前
2017年、国際交流基金入職。国際交流基金地球市民賞を担当して4年目となる。

佐藤 麻里絵(さとう まりえ)写真奥
民間企業を経て、2019年より現職。コミュニケーションセンターにて顕彰事業などの業務を担当。

※写真は当日の配信の様子

Page top▲

Twitter - @Japanfoundation