雑誌『をちこち(遠近)』
バックナンバー

バックナンバー一覧

「新型コロナウイルス下での越境・交流・創造」JFの取り組み<7>最終回
いつでもどこでも日本映画 ―デジタルとリアルのJFF事業から―

2020.12.18

許斐 雅文
(国際交流基金 映像事業部)

「新型コロナウイルス下での越境・交流・創造」JFの取り組み(特集概要はこちら

2019年、日本映画における年間国内興行収入は約2611億円(前年比17.4%増)の過去最高を記録し、日本映画業界をにぎわせました。ところが、2020年に入り、新型コロナウイルス感染症の影響により、様相は一変。2020年5月の1カ月間の大手12社の国内興行収入は、約1億9600万円となり、前年比のわずか1.1%(98.9%減)と壊滅的な減収となりました(出典:一般社団法人 日本映画製作者連盟)。

この危機により、国際交流基金(JF)も既存の事業全体を見直すことが求められました。あらゆる分野で「デジタルへの転換」が進む一方で、人と人とのつながりをミッションとするJFでは、リアルイベントは欠かせません。両者を共存させるには「デジタルとリアルの融合」が必要です。

JFでは以前から、実際に劇場で上映を行う「JFF(Japanese Film Festival:日本映画祭)ネットワーク」とオンラインプラットフォームの「JFF Plus」という2つの事業の融合とブランド化を目指してきました。今回、これまでの経緯を追いながら、同事業を紹介したいと思います。

konomi01rev2.jpg

「JFFネットワーク」は、2016年より「JFFアジア・パシフィック ゲートウェイ構想」として始動し、2019年までにASEAN10カ国(インドネシア、カンボジア、シンガポール、タイ、フィリピン、ブルネイ、ベトナム、マレーシア、ミャンマー、ラオス)、オーストラリア、中国、インド、ロシアと、計14カ国で展開しています。2019年の総動員数は17万人超となり、4年間で少なくとも累計50万人以上の人たちに日本映画を届けました。各国の映画祭を運営する現場スタッフやボランティアの並々ならぬ努力により、「JFFネットワーク」のブランド力も少しずつ高まり、ファン層も広がりを見せていると感じています。

konomi02.jpgJFFネットワーク各地での映画祭の様子:(左上から時計回りに)シンガポール、インドネシア、ミャンマー、ロシア

しかし一方で、懸念もあります。通常、映画祭は年に一度のイベントで、しかも大都市に集中しています。リアルイベントだけでは、日本映画祭に対する一時的な関心は高まっても、日本映画の認知度を継続的に上げることや観客の興味を持続させることにはつながりません。海外で日本映画を通して日本ファン層の拡大を目指すには、年に一度の日本映画祭だけでは不十分で、映画館、ネット配信、テレビ放映のすべての媒体を使い、日本のコンテンツがいつも身の回りにある状況をつくり出す、つまり見る人が「いつでもどこでも日本映画」を見ることができる環境を構築することが不可欠です。そのためには、オンライン配信を含めた視聴環境のインフラ整備が必要であると考え、数年前より日本映画のオンライン配信事業の準備を始めました。

それまでも、日本映画の記事やニュース、そして各国のJFF情報をオンライン上で掲載し、2017年10月の開始からの累計ユニークユーザー数は150万以上に上っていました。しかし、それだけではまだ不十分と言わざるを得ませんでした。

そこで、利用者が喜ぶような新たな機能を追加し、ファンをバーチャル体験からリアル体験へと誘導する事業体系に変えていくことを目指しました。ファンがオンライン上で映画やゲストトークなどを視聴したり、その関連記事を読んだりすることで、世界中のより幅広いファン層へ日本映画の魅力が拡散されるという考え方です。そして、他の映画ファンや映画作家と実際に交流したいと思えば、リアルイベントに足を運んでもらうのです。そうすることで、ファンは「JFFネットワーク」との絆がより深まり、オンラインプラットフォームやさまざまな関連イベントへと返ってきます。このリアルとオンラインの融合こそがファン、映画業界、スポンサーや協力機関が一体となるエコシステムを生み出し、ファン層の拡大、そして日本(映画)市場の活性化につながるのではないかと考えていました。

しかし、オンライン配信の事業化は、一筋縄ではいきません。まずは実績とデータが必要だと考え、比較的上映許諾の得やすいインディーズ作品を、2020年3月より世界(日本を除く)へ向けて無料でストリーミング配信しました。新型コロナウイルス感染症が猛威を振るい始めたのはちょうどこの頃でした。コロナにより、2020年上半期に予定されていた実際の上映会が、ベトナムの4都市中2都市、シンガポール、そして初めて開催予定だった武漢を含め、中国の7都市中3都市で中止になってしまいました。

ストリーミング配信の特別企画は、「映画と音楽の融合」をテーマに、新進気鋭の映画監督とアーティストを組み合わせ、新たな映画制作を行うコンペ形式の映画祭「MOOSIC LAB」との共催で、計12作品(長編9本、短編3本)を配信しました。コロナ禍の外出自粛の影響で世界的にオンラインの需要が高まったことも後押しになり、JF海外拠点がある国の日本映画ファンを中心に、世界中から多くの反響が寄せられ、累計再生回数が9万5000超を記録しました。

konomi03.jpg「MOOSIC LAB」共催によるストリーミング配信サイトのビジュアル

第1弾の好評を受けて、第2弾では同じく「MOOSIC LAB」の10作品をラインナップし、今回は作品の配信にとどまらず、JFの重要な現場力である各国の海外拠点とPRやイベントでの連携を図りました。例えば、配信作品の一つで、「MOOSIC LAB 2019」で観客賞をはじめ4部門で受賞した『眉村ちあきのすべて(仮)』をテーマに、国際交流基金メキシコ日本文化センターが主体となり、メキシコ人の映画ファンとのオンラインディスカッションが開催されました。同作品の松浦本監督と主演でアイドルでもある眉村ちあきさんが登壇し、メキシコ人ファンに日本のサブカルチャーの魅力を届けました。その模様は、イベントレポート*¹ にアップされているので、ぜひご一読ください。

エンタメ作品でも芸術作品でも集客が重要ですが、幅広い客層を取り込むことは容易ではありません。特に作家性が強く、芸術性の高い作品は、その面白さが伝わりにくい。そこで、まずは多くの方に参加してもらい、交流の場(プラットフォーム)を構築し、その市場に対してシンプルかつ分かりやすい作品を集中的に発信し、作家性の強い作品や芸術性の高い作品へ誘導することが戦略的に重要だと考えていました。これが我々のプラットフォーム戦略の基本的な考え方です。

konomi04.jpg松浦本監督(左上)、眉村ちあきさん(右上)、メキシコの歌手・マリアンMGさん(下)によるオンラインディスカッションの模様

2020年5月中旬、突然、中国の最大手配信会社のテンセントビデオから、オンライン上での日本映画祭を共催したいとの打診がありました。

中国は政府の規制が厳しいため、それまでも映画祭の運営は非常に難しく、他国と違った単独のアプローチが必要でした。2017年から始めた「JFF中国」は、いきなり2万人超の動員数となり大盛況でした。しかし、中国の映画市場規模が16億人(2017年映画館入場者数、出典:ユネスコ)であることを考えると、2万人というのはごくわずかでしかありません。地方には日本映画を見られない人が多くいるはずです。この問題を解決する方法として、日本映画祭と同時に、オンライン配信の重要性に着目し、中国の大手配信会社にオンライン上での共催事業を打診していました。そのことが、今回の共催事業へとつながりました。

ここ数年で中国と日本の映画ビジネスは一気に加速し、多数の日本映画が配信されています。しかし、星の数ほどある配信作品の中に日本映画は埋没している状態です。そこで、我々は既に配信されている多数の日本映画の中から、オンライン映画祭用に特別ラインナップを組み、テンセントビデオのサイト上の特設ページで配信する、という提案をしました。

テンセントビデオは、会員数1億人を持つ、中国最大手の配信会社です。その市場規模と影響力は非常に大きく、そのプラットフォーム上で日本映画祭を開催し、トークイベントなどを仕掛ければ、たとえ既に配信されている作品でも、必ずリピーターが集まり、新たな層も獲得できるに違いないと感じていました。

中国側のビジネススピードは想像を超えるものでしたが、テンセントビデオとの特別共催事業「オンライン日本映画祭(公式名:日影季線上映画祭)」を2020年6月11日から10日間実施することができました。我々の提案どおり、テンセントビデオが独占配信権を持つ作品の中から、31本の現代映画と30本のクラシック映画の計61本を選出し、特設ページ上で配信しました。

本事業のアンバサダーとして中国の若手人気俳優、マーク・チャオさんを迎え、PRに協力していただきました。トークイベントでは、日本側から『横道世之介』の沖田修一監督や主演の高良健吾さん、『キングダム』の佐藤信介監督、そして『Shall we ダンス?』の周防正行監督ら豪華なゲストが登壇し、中国の著名監督や脚本家とそれぞれ2時間にわたり親交を深め、累計40万人以上の視聴者がそのイベントを楽しみました。最終的に、映画祭期間中の特設サイトへのアクセス数は185万ユニークユーザーとなり、日本映画の合計視聴回数は少なくとも234万回(上映61本中、現代映画30本の再生数)を記録しました。

konomi05.jpg(写真左)「オンライン日本映画祭」特設サイトビジュアル
(同右)高良健吾さん(前列左)、沖田修一監督(前列右)、西ヶ谷寿一プロデューサー(後列)が出演したトークイベントの様子

集客(市場)規模が拡大すると、映画祭のブランド力は高まり、映画を取り巻くさまざまな要素をめぐって相乗効果が生まれ、ある種のエコシステムが構築されていく。今回の共催事業を通じて、日本映画発信のプラットフォームを作っていこうという自分たちの方向性が間違っていないという自信にもつながりました。


2020年10月、新たな日本映画情報ウェブサイト「JFF Plus(ジェイエフエフ・プラス)」*³ をオープンし、日本映画を楽しむ交流プラットフォームとしての第一歩を踏み出しました。JFF Plus では、新たな作品が生まれ続けている日本映画のいまを「Read」「Watch」「Join」の3つの切り口で紹介し、配信事業の一つとして、「オンライン日本映画祭(JFF Plus: Online Festival)」を開催します。世界20カ国を対象に、近年の話題作から定番アニメ、クラシックまで、全30作品の多様な日本映画の無料配信を予定しています。2020年11月から2021年3月までの5カ月間、対象20カ国を5つのグループに分け、順次開催*² していますので、開催国の皆さん、ぜひご参加ください。

konomi06rev.jpg
日本映画情報ウェブサイト「JFF Plus」のビジュアル

同プロジェクトを構築するにあたり、海外拠点を含めた「JFFネットワーク」チームのこれまでの努力は並大抵なことではありませんでした。さまざまな経験を通し、試行錯誤を繰り返した末、ようやくたどり着いたのが、この新たなプラットフォームです。

このコロナ禍の中、「JFFネットワーク」のみならず、各国の日本映画の上映会が次々に中止もしくは延期となる中で、オンライン配信への注目度が高まり、事業実施に向けたスピードが一気に加速しました。一方で、JF本部と各国の海外拠点が一体となり、リアルイベントとしての映画祭実施に向けて準備をし、カンボジア、シンガポール、タイ、フィリピン、ベトナム、マレーシア、ラオス、中国の8カ国については開催を予定しています。その中で、中国とラオスを除く6カ国ではオンライン日本映画祭も実施予定で、「リアルとオンラインの融合」の第一歩を踏み出したと言えます。

JFFとJFF Plusでは、「BRINGING JAPAN TO YOU -いつでもどこでも日本映画」をモットーに、「日本映画で、世界と日本をつなぐ」というビジョンを掲げ、これからも世界中の人へより多くの日本映画を届け、日本ファンが増えていくことを願っています。


*¹ 日本のアイドルSFドキュメンタリー『眉村ちあきのすべて(仮)』。メキシコ人はどう見た?
https://jff.jpf.go.jp/ja/read/report/allaboutchiakimayumura/
*² 「オンライン日本映画祭(JFF Plus: Online Festival)」
https://watch.jff.jpf.go.jp/
*³ 「JFF Plus」
https://jff.jpf.go.jp/ja/


許斐 雅文(このみ まさふみ)
出版社勤務(マンガ・芸能雑誌の編集)および学習塾経営を経て、1993年から2014年までシドニー日本文化センターにて文化芸術事業を担当。2015年、アジアセンターへ異動し、現在映像事業部にて、JFFネットワーク/JFF Plusプロデューサー。

Page top▲

Twitter - @Japanfoundation