雑誌『をちこち(遠近)』
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震災の記憶を風化させない為に~被災者の今と笑顔をカナダに届ける

3.11肖像写真プロジェクト代表、写真家
小林伸幸



「今、東北の為に自分が出来る事は何か?」。おそらく日本中の、そして世界中の人々が思いを同じくしたであろう2011年3月11日。この日以降、僕も例外に漏れず考えました。でも実働が伴わず、気ばかりが焦り、無力感に苛まれる日々を過ごしました。その間に出来た事と言えば、募金くらい。でも、それだけではいけないような気がして、更に気は焦り、重い気持ちになるのでした。

悩んでいても仕方がないので、実際に行ってリアルを感じてこよう、現状を見聞きしてこようと被災地入りしたのが2011年4月初旬のこと。被災地の現状を知る事で、何か次に繋げられる事があるかもしれないと思えたからです。ですが震災から1ヶ月が経とうとしているのに、そこで目の当たりにしたものは、機能を完全に失った壊滅状態の町々と、したくても改善し難い避難所の住環境等、想像を遥かに凌ぐ惨状ばかりでした。「この中で自分に出来ることなんて本当にあるのか?」また考えてしまいました。でもそうした事実の裏で、最も印象深く目に入って来たのは、それでも負けずに前を向こうとする人々の姿でした。

ならば「頑張っている人を撮ろう」、「今はまだ頑張れないでいる人の支えになろう」そう思えた事から、「3.11肖像写真プロジェクト」という復興支援プロジェクトを立ち上げました。この活動は、写真を媒介にした復興支援を行なうものですが、ただ単に被災者のお写真を撮影してお渡しするだけの一過性のものではなく、個人(被災者)と個人(非被災者)を繋いでいくことを最大の目的としています。撮影前のヘアメイクや撮影を通して彼らの内なる声に耳を澄ませ、心のケアを担うと同時に、撮影させていただいたお写真は非被災県の小中高校生の皆さんのご協力のもと、額装し、個人宛のお手紙を添えてもらった上で再度被災地を訪れ、様子伺いも兼ねてお一人おひとりに手渡しさせていただいています。
すると再訪を喜んでくれるばかりか、自分自身に宛てられたお手紙故の親密さから、感激し返信を書く方も多く、またその返信を待つ事が楽しみとなり、日々の生活が充実し、明日への活力にしてもらえる、そんな願いが込められています。また学生の皆さんには、写真に写る本人のお顔を見ながらお手紙を書いていただく事で、当事者意識が芽生え、5年後10年後の地域復興活動を担ってもらう契機にもなるのではと期待しています。

これまでに、この活動を通して1,080世帯の方々を撮影し、2,201名の学生さん達にお手紙を書いてもらいました(2011年12月現在)。この中から多くの繋がりが芽生え、そして現在も続いています。

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撮影されたポートレート

toronto_kobayashi05.jpg toronto_kobayashi06.jpg 撮影前のヘアメイクや撮影時の様子




カナダでの「3.11肖像写真プロジェクト」展
そんな中、有り難い事に「海外でもこの取り組みを紹介すべき」とのご要望を頂き、2012年1月、資生堂カナダと国際交流基金トロント日本文化センター双方の協力のもと、カナダのトロントにて活動報告写真展を開催しました。

そこで感じた事は、海外の皆さんも東北の現状を、そして被災者の今を知りたがっていたのだな、という事でした。世界的に見ても報道は一頃よりも下火になり、津波被害よりも放射能被害に関心が傾き、津波により全てを流された人々の事は忘れ去られたようになっている感が否めません。これは仕方のない事かもしれませんが、それでも写真展開催にあたり、多くの方々が会場に足を運んで下さり、被災された方々の笑顔の写真を見て、口々に「安心した」と言って下さった事が本当に嬉しく、また有り難く感じました。

写真展オープニングの際のトークイベントにも沢山の方々にお越しいただきました。そこでの質問の数々は、親身になって日本や被災地の方々を心配するものがほとんどでしたが、中には「その後の彼らの生活を垣間見る機会を作ってくれてありがとう」と、お礼を言って下さる方々も多く、海外で活動報告を行う事の意味や意義を再確認した思いでした。

また恥ずかしながら、この時までは気が付きませんでしたが、東日本大震災では数々の団体や地域が、海外の多くの国や企業や個人からも声援や物資や募金を受け取っており、被災者ではなくても、我々はそこに対する報告義務の責を担わなければいけなかったのだなと、反省も致しました。
加えて言うなれば、海外に出る日本人は、どんな状況であれ震災を知る日本人の代表として、日本や東北の現状報告をすると共に、これまでの多くの方々からのお気持ちに対する感謝の意を伝えなければいけないのだなと、そんな気付きも頂きました。

震災の記憶を風化させない為にも、一人でも多くの方が一日でも早く笑顔を取り戻してもらう為にも、伝え広める事が大事なのだなと思います。それ故に、この活動をもっともっと多くの方々に知っていただき、長期的に展開する事が重要と、震災から一年が経った今、思いも新たにする次第です。

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カナダでの「3.11肖像写真プロジェクト」展の様子

* 「3.11肖像写真プロジェクト」は、NHK道徳ドキュメント「心をつなぐ写真」でも番組として放映されました。活動内容の詳細を知る参照として、ご覧ください。 http://www.nhk.or.jp/doutoku/documentary/index_2011_019.html





toronto_kobayashi01.jpg 小林伸幸
1970年埼玉県生まれ。写真家。1993年からフリーランスとして広告/雑誌等で主に人物全般を対象とした撮影に携わる。また自然をテーマとしたプラチナプリントによるファインアーツプリントの制作も積極的に展開。国内外で発表し好評を博している。「知っておくべき偉大な写真家50人」に選出される他、受賞/個展開催歴多数。3.11肖像写真プロジェクト(311PP)主宰。APA日本広告写真家協会正会員。http://www.zenne-inc.com
2012年5月15日より6月24日まで、311PP活動報告写真展とプラチナプリント作品とを併設展示する写真展「小林伸幸の写真世界」を開催。




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