雑誌『をちこち(遠近)』
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九、同じ一門でも、芸風はてんでバラバラなんです

立川志の春




秋ですね! 秋といえば運動会。
このところ近くの幼稚園や小学校でもやっていたようです。
でもニュースを見ていると意外ですね。学校教育が優しくなってきている昨今かと思いきや、組体操の分野だけはスパルタが残っていたとは。ピラミッド十段って!
柔道でもそんな人なかなかいませんぜ。十段。
私なんかどうせ一番下ですから、迷うことなく運動会休みます。そうしたら先生が代わりに入るのでしょうか。気の毒に。

ま、でも大勢が集まるのは楽しいこと、ということで、今回は一門会について書きます。

shinoharu10_01.jpgのサムネール画像
弟子が6人だった2012年10月の志の輔一門会

先日、府中にて3年ぶりの立川志の輔一門会がありました。
現在、一門には総勢7人の弟子がいます。上から、晴の輔、志の八、志の春、志のぽん、志の彦、志の太郎、志の麿。そのうち一番弟子が真打、二番弟子から六番弟子までが二つ目、そして七番弟子が前座です。
この日は、前座の志の麿くん以外の二つ目以上6人が、昼夜どちらかに出るという会でした。もちろんトリは両方とも師匠、志の輔。

二つ目になると、みんな普段はそれぞれの活動をしているので、同じ一門でも一緒になることはあまり多くありません。ましてや全員が一緒になるというのは、年に数回あるかどうかです。
同じ修業時代を送った者同士ですから、一門会は楽屋からしてちょっとした同窓会のようで楽しいんです。特にうちは仲のいい一門ですから。師匠が厳しい一門は弟子同士の仲が良くなる......ということを、誰かが言っているのを聞いたことがあります。

寄席で修業をしない立川流なので、前座修業中は師匠とも兄弟弟子とも常に一緒にいるんです。毎日、15時間くらい。毎日です。そこらへんの夫婦や親子よりもずっと長い時間ですね。
師匠は選べるけれど、兄弟弟子は選べないという言葉があります。兄弟弟子と反りが合うか合わないかというのはかなりの部分で運任せです。

そういう意味では、私はラッキーでしたね。二人いる兄弟子には修業中、本当に世話になりました。着物の着付けから畳み方、楽屋での立ち居振る舞い、太鼓の叩き方、それから車の運転に至るまで、何から何まで教えてもらいました。気遣いの仕方についても、アメリカ育ちで気働きのまるでできない私に辛抱強く教えてくれました。

それだけではなく、食事も数え切れないくらいおごってもらいました。我々の世界には「割り勘」という言葉がないんです。その場にいる目上のものが全部払わなくてはならない。それはそれで、お金があればまだいいですが、前座時代はみんなお金がないんです。それでも弟弟子にはおごらなくてはならない。だから大変です。

私がヘマをして落ち込んでる時なんか、兄弟子とこんなやり取りもありました。

「志の春、元気出せ。じゃ、いい、なんか美味いもんでもパーッと食いに行くか!」
「兄さん、ありがとうございます」
「いいんだ別に。ただな、俺は今、財布の中に200円しか金を持ってない。だから少し貸してくれ。それでお前におごるから」
「ごちそうさまです!」

と言いながら私の財布の中からお金を出すという、不思議なやり取りです。もちろん兄弟子は後日すぐに返してくれます。お金がないのにおごってくれる、その気持ちがありがたいですね。
中には後輩におごるために実際に借金をする人もいるそうです。江戸っ子ですね。先輩にしてもらったことを後輩に返す、そういう世界です。

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今年の10月3日、府中の森笑劇場での3年ぶりの志の輔一門会にて

そんな仲のいい一門ですが、不思議なものです。高座に上がると芸風はてんでバラバラ!
同じ師匠に憧れて入門して、同じ師匠の下で修業をし、落語の稽古をつけてもらって、それでもまったく違うものが出来上がるんです。

しかも始めのうちは、教わった通り、そのまんまやれと言われます。それぞれの個性などというものは、基礎を徹底的に体に叩き込んだ後だということです。まずは個性を否定した上で、それでも身体の奥からにじみ出てくるのが真の個性なんだという考え方です。

これから長い芸人人生を通して確立していくんでしょうが、一門会があると「個性」って面白いもんだなあと思います。





shinoharu00.jpg立川志の春(たてかわ しのはる)
落語家。1976年大阪府生まれ、千葉県柏市育ち。米国イェール大学を卒業後、'99年に三井物産に入社。社会人3年目に偶然、立川志の輔の高座を目にして衝撃を受け、半年にわたる熟慮の末に落語家への転身を決意。志の輔に入門を直訴して一旦は断られるも、会社を退職して再び弟子入りを懇願し、2002年10月に志の輔門下への入門を許され3番弟子に。'11年1月、二つ目昇進。古典落語、新作落語、英語落語を演じ、シンガポールでの海外公演も行う。'13年度『にっかん飛切落語会』奨励賞を受賞。著書に『誰でも笑える英語落語』(新潮社)、『あなたのプレゼンに「まくら」はあるか? 落語に学ぶ仕事のヒント』(星海社新書)がある。最新刊は『自分を壊す勇気』(クロスメディア・パブリッシング)。


*公演情報は公式サイトにて。
立川志の春公式サイト http://shinoharu.com/
立川志の春のブログ  http://ameblo.jp/tatekawashinoharu/




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