八、地方公演は「ご縁あっての物種(ものだね)」なんです

立川志の春




こんにちは!
今回は我々落語家にとって一番楽しいお仕事と言っても過言ではない、地方公演について書こうと思います。

先月下旬、鹿児島県の大崎町というところに行ってきました。
私にとって元々は縁もゆかりもない土地ですが、東京で定期的に落語会をやらせていただいているレストランが、大崎町から牛肉を仕入れているという繋がりで「じゃあ一つ、大崎でも落語会やってみようよ」という話になったんです。

道の駅って、ありますよね。国道沿いなどでよく見かける、野菜とか土地のものを売っているところです。中にはレストランだとか、温泉施設や宿泊施設もあるような。
大崎町では、そこで落語会を開催いたしました。道の駅「くにの松原おおさき」に隣接する「あすぱる大崎」という、温泉やレストラン、物産館などを備えた豪華な宿泊施設です。

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「志の春独演会in大崎」の手作り感あふれるポスター

ちょうど桜島の火山活動が活性化しているタイミングでしたから、正直ちょっと不安もありました。何しろ鹿児島空港が桜島のすぐ近くなんです。目と鼻の先なんです。

で、迎えに来てくれたあすぱる大崎の副支配人(その呼称は堅いからということで、お名刺の肩書にはNO.2と書かれていました)の大野さんが運転しながら言うには、地元の人は桜島の形を見て膨張しているかどうかがわかるんだそうです。

「へえー、あれ山ですよ。それが毎日、形が違うんですか?」
「違いますねえ。微妙に膨らんでたりしぼんでたりしますから」
「いや、パッと見ただけじゃそんなこと絶対にわかりませんよ」
「まあ僕らは毎日毎日見てますからね」

すごいですね。やっぱり地元の知恵なんだなと思って「ちなみに今日はどうなんですか?」と聞いてみたら、窓越しにちらっと見て言った一言が男らしかったですね。
「わかりません!」
わからないのかい!

隣にいた体育会系柔道部出身の支配人、山下さんも武道家らしくボソリと一言。
「わかりません」

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「あすぱる大崎」支配人の山下さん(左)、副支配人の大野さん(右)。味なNO.1、NO.2と一緒に。

そんな適当なNO.1とNO.2のいる、この町はすごいんです。何がすごいといって、最高級の和牛ブランドを持ってるんです。
聞いた話によると、いい牛にとって何が大事かというと、お父さんの血筋らしいんです。つまり種牛のDNAですね。

で、この町にいる「隆之国」というのが種牛中の種牛なんです。もう種牛界のチャンピオンなんですってね。彼の子供たちのお肉はものすごくきめ細かなサシが入って、美味しいんだそうです。ですから、この隆之国の「種」が全国に送られて、全国の雌牛に人工授精されて、生まれてきた子供たちが各地のブランド牛になって売られるわけです。

考えてみるとすごい人生ですよね。ま、牛だから牛生というんでしょうか。知らないところでたっくさん自分の子供たちが生まれていて、片っ端から人間どもに食べられていっているという......。知らない方がいいでしょうね。

でも、そんなお肉が結んでくれたご縁で、大崎の地へ降り立ちました。

落語会は昼夜の2回やりました。生まれ育ったわけでもない初めての場所で、無名の落語家がやった公演にしては、ありがたいことに客席は上々の入りでした。

それだけにとどまらず、東京での焼酎&落語のコラボイベントでご一緒した鹿屋市(大崎町のお隣)の小鹿酒造の方々や、東京でお世話になっている方が休暇中の宮崎から、わざわざ駆けつけてくださったのも嬉しかったですね~。
縁というものは繋がりますね。とりわけ地方公演ではそれを感じます。

終演後に打ち上げに行くと、出てきましたよ、隆之国の子供たちの肉が。もう見たことのないような肉です。「ザ・霜降り」というんでしょうかね。口の中に入れるととろける。甘くて美味しい。めちゃくちゃ美味しい。
それがこれでもか! ってくらい、どーーーんと出てくるんですよ。「こんな肉、東京じゃあなかなか食べられないよ~!」って。お相撲部屋のパーティーくらい出てくるんです。行ったことありませんけど。

食べましたね。39歳、立川志の春、なりふり構わず食べました。
そして3キロ太って帰ってきました。

食欲の秋、皆さんも「腹も身の内」という言葉を頭の片隅に、存分にお楽しみください!





shinoharu00.jpg立川志の春(たてかわ しのはる)
落語家。1976年大阪府生まれ、千葉県柏市育ち。米国イェール大学を卒業後、'99年に三井物産に入社。社会人3年目に偶然、立川志の輔の高座を目にして衝撃を受け、半年にわたる熟慮の末に落語家への転身を決意。志の輔に入門を直訴して一旦は断られるも、会社を退職して再び弟子入りを懇願し、2002年10月に志の輔門下への入門を許され3番弟子に。'11年1月、二つ目昇進。古典落語、新作落語、英語落語を演じ、シンガポールでの海外公演も行う。'13年度『にっかん飛切落語会』奨励賞を受賞。著書に『誰でも笑える英語落語』(新潮社)、『あなたのプレゼンに「まくら」はあるか? 落語に学ぶ仕事のヒント』(星海社新書)がある。最新刊は『自分を壊す勇気』(クロスメディア・パブリッシング)。


*公演情報は公式サイトにて。
立川志の春公式サイト http://shinoharu.com/
立川志の春のブログ  http://ameblo.jp/tatekawashinoharu/




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