2018年12月のバックナンバー

2018.12.26

魂の息吹が交響する場を開く作品の予感
──2018年度国際交流基金賞受賞記念イベント「越境する魂の邂逅(かいこう)」における文学と音楽の共鳴に接して──

言葉を生きるとは、どこまでも流れゆくことである。小説家にして詩人である多和田葉子が、2018年度国際交流基金賞の受賞挨拶のなかで語りかけていたのは、このことの静かな創造性であろう。彼女は、交流の「流」の字に目を留め、それに自身の、そして──彼女の近作の表題に因んで言えば──地球にちりばめられた他の作家たちの創作を重ねていた。凄まじい量と速度の情報の奔流が地球を覆うなかで、伏流のようにじわじわと、しかしあらゆる境界を越えて人々のなかへ浸潤し、いくつもの成分を含んだ沈殿物のように作品を生み出していく言葉の流れ、それを貫くのは気息(きそく)である。